【清水利彦コラム】NFL終盤戦あれこれ

清水利彦(S52年卒)
shimizu.toshihiko2@gmail.com

(この原稿は、12月17日時点で書いています。従ってNFL第16週12月21日の結果は反映されていません)

NFLがいよいよ終盤戦に差し掛かりました。もう既に13チームがプレイオフ出場争いから脱落しています。一方、上位チームはプレイオフ出場(AFC、NFC各7チーム)と、有利な組み合わせ獲得への熾烈な争いがまだまだ続きます。レギュラーシーズンはまだ3試合残っていますが、ちょっとここまでの様子を振り返ってみましょう。

 

黄金期のチーフス、今期は脱落!!

カンザスシティ・チーフスが第15週で6勝8敗となり、早くもプレイオフ出場の可能性はなくなりましたね。いやあ、これには驚きました。

マホームズがスタートQBとなって以来、2018年からの7年間で90勝26敗、勝率.775と勝ちまくり、すべてプレイオフに進んで、スーパーボウル出場5回、同優勝3回と、チーフスのDYNASTY(黄金時代)を築き上げていました。

QBパトリック・マホームズの過去の名プレー集映像がありますのでご覧ください。(10分)
(27) Patrick Mahomes’ Top 29 Career Plays (so far) – YouTube

今季チーフスがすごく弱いかと言うと、そうでもありません。

2024年 17試合15勝2敗 総得点385、総失点326、得失点差+59
2025年 14試合6勝8敗  総得点328、総失点268、得失点差+60

今年の得失点差+60ならば、普通は悠々プレイオフ出場できるレベルなのですが、実際は負け越しています。つまり、「昨年は接戦をことごとく勝利していたが、今年は勝つ時は大差で勝ち、接戦の試合には競り負けている」のです。今季負けた8試合のうち、7点差以内の負けが7つもあります。

67歳の老将アンディ・リード・コーチの勝負勘が多少衰えたのか、という心配があります。マホームズはまだ30歳なので、老け込む年ではないでしょう。(トム・ブレイディは30代から円熟味を増し、45歳までプレーしました。パス獲得距離シーズン最長記録5316ydは、なんと44歳で樹立しています)TEケルシーが36歳でいまだにエースレシーバーである等、チームが少し老朽化しているのかもしれません。

チーフスの黄金期がこれで終わってしまうのか、それとも来季復活して再び返り咲くのか、来シーズンが注目されます。

 

ペイトリオッツ、V字回復なるか?!

ニューイングランド・ペイトリオッツが11勝3敗でAFC東地区の首位を走ります。宿敵ビルズが10勝4敗なので、まだまだ予断を許しませんがプレイオフ進出は間違いないでしょう。

ペイトリオッツは2001~2019年まで19年間という長期の黄金時代を築き、コーチはビル・ベリチック、QBはトム・ブレイディの二人で勝ち続けました。2020年にブレイディがバッカニアーズに去った後も、ベリチックは4年間ペイトリオッツのヘッドコーチを続けましたが、結果は29勝38敗。図らずもQBブレイディが居ないと勝てない」ことを証明した形となりました。

ベリチックはペイトリオッツ退任後、73歳でノースカロライナ大学のヘッドコーチに就任し、話題となりましたが、4勝8敗と結果を出せていません。

ペイトリオッツはベリチックの後任に、生え抜きのアフリカ系・名LBジェロッド・メイヨーを弱冠38歳でヘッドコーチに抜擢し、これも話題になりましたが、2024年4勝13敗と散々な結果に終わり、たった一年でクビになりました。

メイヨーの抜擢に大失敗して懲りたのか、ペイトリオッツは次(2025年)のヘッドコーチに、実績のある人物を選びます。マイク・ブラベル(50歳)というNFLで14年間LBとして活躍した選手で、13年間のアシスタントコーチ歴を持ち、タイタンズで6年間のヘッドコーチ経験(54勝45敗)もあります。ブラベル・コーチに代わった途端、ペイトリオッツは勝ち始めました。もし今年ペイトリオッツが優勝したら、NFL史上稀にみるV字回復と言われることになるでしょう。

TVのインタビューに足を組んだまま答えるマイク・ブラベル。ちょっとお行儀が悪いですね。フットボール・コーチというよりはギャングの親分という風情です。

 

ジャガーズって、どんなチーム??

ジャクソンビル・ジャガーズが104敗でAFC南地区の首位を走っています。

皆さんはジャガーズにどんな印象を持っておられますか?

「NFLの中では歴史の浅いチームでしょ?創立後すぐに好成績を出したけど、結局一度もスーパーボウルにコマを進めていないよね。最近は鳴かず飛ばずなんじゃない?地味な印象のチームだよね」というような答えが返ってくるのではないでしょうか。

ベアーズやジャイアンツ等が100年以上の歴史を誇るのに比べて、ジャガーズはまだ創立31年です。

創設2年目から4年連続でプレイオフ出場。あと1勝でスーパーボウル出場というところまで、2回勝ち進みましたがいずれも敗れています。

最近は低迷期とも言える状態で、直近17年間で69勝159敗、勝率.303です。歴代QBの名前を挙げても、初代のマーク・ブルネルが一番良く知られていると思いますが、それ以降はバイロン・レフトウィッチ、デビッド・ギャラード、ブレイク・ボートルスと、あまり知らない顔ぶれです。その他のポジションにも超有名な選手の名前が思い浮かびません。地味なチームという印象は正しいと感じます。

フロリダ州地図。黄丸がジャクソンビル。緑丸がマイアミ。赤丸がタンパ(タンパベイ)

恥をさらしますが、私はジャクソンビルという都市がどこにあるのか知りませんでした。実はフロリダ州で人口最大の都市はジャクソンビルなのです。マイアミ(ドルフィンズ)タンパ(バッカニアーズ)に続いてフロリダ州3番目のNFLチームとなりましたが、人口はジャクソンビル95万人、マイアミ44万人、タンパ38万人ですから、ダントツでジャクソンビルが多いです。100年前までは10万人程度しか住んでいない港町でしたが、経済発展をとげ爆発的に人口が増えた街です。市の面積が2300㎢と巨大で(ちなみに都下を含む東京都全域で2200㎢)、全米で最も広い市です。第7代アメリカ合衆国大統領、アンドリュー・ジャクソンにちなんでジャクソンビルと命名されました。

1991年にNFLは「4年後に2チームを増設(エクスパンション)する」と宣言しました。これに対し5つの都市が候補となりました。まずノースカロライナ州シャーロットが選ばれ、「カロライナ・パンサーズ」となります。2番目は当初セントルイスが有力とされていましたが、逆転する形でジャクソンビルが選ばれ、1995年からリーグに参加しています。

2021年ドラフトで、「いの一番」(1巡目第1位)にクレムソン大のエースQBトレバー・ローレンスを獲得しました。ジャガーズにとって初のスーパースター選手となる可能性大と言えましょう。ローレンスのプレーはYou Tube画像でご覧ください。(4分)
(27) Trevor Lawrence’s best plays from 6-TD game | Week 15 – YouTube

ジャクソンビル・ジャガーズのヘッドコーチ、リアム・コーエン

ジャガーズのヘッドコーチは、今年から就任した40歳のリアム・コーエンです。

マサチューセッツ大学でQBをしていましたが、「マサチューセッツ大は、おそらくNCAA一部校136校の中で一番フットボールが弱い学校」であろうと私は考えています。2012年に一部に昇格してMAC(Mid-American Conference)リーグに所属しましたが、それ以来14年間で26勝132敗 勝率.164というひどい有様で、一度も勝ち越しがありません。コーエンの在学中は二部に所属していました。

ですからQBコーエンがNFLドラフトにかかるわけはなく、2年間だけアリーナ・リーグでプレーしました。その後15年間カレッジやプロのアシスタントコーチを転々とした苦労人です。次第にコーチとしての力量を認められ、ついに今年初めてジャガーズのヘッドコーチに抜擢されました。その途端にQBローレンスが、そしてジャガーズ全体が生き生きと動き始めた感があります。

もし今季、ジャガーズが優勝したら、きっとリアム・コーエンは「フットボール・コーチ界最高のシンデレラ・ストーリー」と呼ばれることでしょう。

頑張れ、ジャガーズ!! 頑張れ、リアム・コーエン・コーチ!!

 

年の終わりに

さて、2025年もあとわずかになりました。今年の入替戦(チャレンジマッチ)本当に肝を冷やしましたね。「ああ、もうダメだ、もうダメだ」と思いながら観戦していました。勝利の瞬間に泣きました。最後に試合をひっくり返してくれた選手諸君の健闘を称えたいと思います。勝つと負けるとでは雲泥の差があります。我が部の長い歴史の中で、将来「2025年の入替戦のきわどい勝利が、大きな夢の実現への一里塚となった」と言えるようになってほしいですね。

今年も24本のコラムを書かせていただきました。「フットボールについて、調べて、文章にする」のが私の趣味ですので、いつも楽しみながら掲載を続けております。(趣味なのに金がかからないので最高!)来年も掲載を続ける所存です。皆さんからのご感想やご意見を頂戴できれば嬉しいです。

最後になりましたが、Unicorns Net編集陣(広報部会情報発信担当の皆様)には今年も大変お世話になりました。度重なる清水の原稿訂正などにいつも快く応じてくださり、心から感謝しております。担当されている方々のお名前を列記させていただきます。(敬称略)本当にありがとうございました。

岡田 大行 (2000年卒)
山田 健太 (1995)
高木 慶太 (1995)
中橋 正博 (1997)
横田 孝 (1999)
松元 竜太郎 (2005)
松田 達 (2006)
新井 崇志 (2006)
鈴木 健太 (2014)
田淵 咲輝 (2018)
山村 健人 (2022)

 


「清水利彦のアメフト名言・迷言集」
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