清水 利彦(S52年卒)
shimizu.toshihiko2@gmail.com
清水前書き
皆さんは女子タッチ・ユニコーンズのことをどのくらいご存じでしょうか?
かく言う私も、これまで試合観戦したことが2回、アメリカンフットボール三田会役員として女子タッチの納会に出席させていただいたことが1回あるだけで、「あまり良く知らない」というのが正直なところです。
しかし納会に出て、卒業する方達などがスピーチをなさるのを拝見し、「女子タッチのメンバーも、本当に真剣に部活動をして、全力を注いで来られたのだな」と感動を覚えたことがあります。
私は常々「ユニコーンズMNP(医学部・看護学部・薬学部)はユニコーンズファミリーの宝」と主張してきましたが、女子タッチ・ユニコーンズも、後述するように豊富で多様な人材を抱えておられ、ファミリーの宝としてファミリー全体の価値を高めることが出来る方々であると考えています。
そこで今回は、「女子タッチ・ユニコーンズを知らない人のためのQ&A」というテーマで、監督・助監督・ヘッドコーチの3名にインタビューをさせていただきましたので、是非お読みください。
女子タッチチームの成り立ちと現状に関するインタビュー質問
回答者:
監督 井町 真琴さん(1993年度環境情報学部卒、1995年度政策・メディア研究科修士課程修了)
助監督 杉浦 碧さん(2007年度環境情報学部卒)
ヘッドコーチ 玉利明子さん(2013年総合政策学部卒)
【Q1】いつ、どのような経緯で、貴部が創られたか、お教えください。
井町:
1990年4月、慶應義塾大学に湘南藤沢キャンパス(SFC)が誕生した時に、女子タッチフットボールチームも誕生しました。冨田勝現環境情報学部教授が、アメリカ留学中にプレーしていたタッチフットボールの魅力に取りつかれ、6人制の女子タッチフットボールを日本へ導入したのがきっかけです。
私はSFCの1期生なので、「女子でも安全にフットボールを楽しめるよ」と冨田部長に誘われたメンバーの一人です。初期の頃は冨田部長がグラウンドで熱血指導してくれました。そんな冨田部長の影響を受けて、それまでほとんど見たことのなかったアメフトが大好きになり、タッチフットボールの奥深さに魅了され、今日に至ります(笑)
(※清水注 インタビューは3月におこなわれたため、その時点での肩書を記入していますが、4月1日より東海林部長が就任され、冨田前部長はチームにおいてファウンダーという肩書になられました)
慶應が女子タッチフットボールチームの第一号でしたので、とにかく仲間を増やすために、普及活動もたくさんしました。創部3年目、1992年に日本タッチフットボール協会(現タッチ&フラッグフットボール協会)が設立され、公式戦がスタートしました。
当時、尽力されたのは皆様ご存じの慶大OBの故後藤完夫さんで、タッチ&フラッグフットボール協会の創設と共に冨田部長と連携し、普及イベントの実施から後の東西オールスター戦(ナゴヤ球場で始まりました)や東西大学王座決定戦、さらには日本一を決める東京ドームでのさくらボウルに至るまでの体制を構築してくださいました。私たちの創部25周年記念式典では感謝状をお贈りしましたが、2018年にお亡くなりになられたことは今も残念に思っております。
【Q2】どのような組織体制で競技は運営されているのでしょうか?日本一を決めるための仕組みはどのようになっていますか?また、これまでの主な戦績についても教えて下さい。
杉浦:
「日本タッチアンドフラッグフットボール連盟(JTFA)」に所属しており、春・秋の年2回、関東リーグ戦が開催されています。春季リーグ戦の上位チームは春の全国大会「シュガーボウル全日本選手権」に、秋季リーグ戦の上位2チームは「プリンセスボウル 東西大学王座決定戦」に出場します。
秋季の「東西大学王座決定戦」で優勝した学生チャンピオンと、社会人チャンピオンとが対戦する「さくらボウル女子タッチフットボール全日本王座決定戦」が毎年1月初旬に開催されており、勝ったチームが日本一となります。
当チームは、春の全国大会であるシュガーボウルには、過去12回出場し、優勝1回、準優勝1回、3位が2回という成績をおさめています。また、秋の東西大学王座決定戦には過去19回出場しており、10回3位になっています。
この東西大学王座決定戦は、毎年、神戸王子スタジアムで開催されています。出場時には、関西在住のユニコーンズOBの皆様にも応援にお越し頂いております、ありがとうございます。
【Q3】チーム名が、女子タッチ&フラッグとなっていますが、2種類の競技をしているということでしょうか?タッチ&フラッグの競技基本ルールについて教えていただけませんか。
杉浦:
私たちが現在主として活動している「6人制女子タッチフットボール」は、1990年にアメリカ留学から帰国した冨田勝現環境情報学部教授が、留学中に女子がタックルの代わりにタッチすることで安全にフットボールをエンジョイしている姿を見て普及活動を開始、現在に至るものです。
「アメリカンフットボールのルールに準拠し、タックル等の強い接触を禁じたもの」であり、フィールドも縦60ヤード、横40ヤードとし、
- タックルの代わりに上半身に両手でタッチする
- ブロッキングはパスプロテクション型の「前に押さない」ブロックのみ
- キッキングは行うがパントラッシュなどは禁止
等が主な特徴で、アメフト経験者の方は理解しやすいと思います。
一方、フラッグフットボールは1990年代からNFL Japan等を主体に普及が始まりましたが、こちらは5人制で、腰に付けたフラッグを取ることでタックルの代わりとし、かつキッキングゲームはない等、より戦略性を維持しつつ一層手軽に楽しめるルールと理解しています。
私たちとしては、吉川前監督の指導もあり、2015年頃から「女子フットボールの普及」という観点からも6人制女子タッチフットボールを主として活動しつつ、フラッグフットボールにも参画し始めています。
【Q4】どのような指導体制を組んでおられますか?
井町:
1993年に冨田部長が、幼稚舎以来の同級生であるアメリカンフットボール部OBの吉川理裕(よしかわまさひろ、昭和55年卒)さんを監督として迎え、以後、吉川監督の下に常時複数のOGのコーチをおいて学生の指導にあたってきました。2018年からは私が監督となり、吉川前監督にはアドバイザーとして必要に応じて相談に乗って頂いています。
指導体制は「部会制」とし、フィールドで指導するコーチ陣の他に広報、総務等、役割を分担して学生の指導・支援を行なっています。OG達は皆、仕事や育児で多忙な人たちばかりですが、自分が学生時代に良い思い出を作ったチームの後輩たちに、同じように良い時間を過ごして欲しい、という思いで時間を割いて指導をしてくれています。グラウンドでの指導だけでなく、オンラインによるフィードバックやミーティングなど、様々な工夫をしています。
【Q5】部員数や、練習方法(いつ、どこで、どのくらい)など、部の実態について教えて下さい。主な年間スケジュールについて。普段、苦労しておられることは何でしょうか?
玉利:
現在(2023年2月時点)の部員数は、新3年生2人、新2年生7人の 計9名です。主にSFCグラウンドで、週3~4回練習しています。「文武両道」を掲げておりますので、平日の練習時間は、部員の授業の予定を考慮して設定しています。
年間スケジュールとしては、春は2月下旬にシーズンインし、6月のシュガーボウルを目指します。秋は8月上旬にシーズンインし、12月の東西大学王座決定戦、そして正月のさくらボウルを目指す、というスケジュールです。
普段苦労していることとして、平日の練習で実践練習ができる人数が揃わず、実践経験が不足してしまう、という点が挙げられます。今後さらにチームを強化するうえで、新入部員の確保が最も大事になると考えています。既に部員達からは、Instagramを通じて競技の内容やチームの魅力について、発信を開始しています。
また、関東・関西のライバル校に比較し、慶應は体力、フィジカル面の弱さが常に課題に挙がります。コーチ陣としては、体力面の強化の必要性を強く感じているもののなかなか手が届かない部分でもあり、部員達に前向きに取り組んでもらえる方法を模索しているところです。
【Q6】コロナ災禍以降、大きく影響を受けたと拝察しております。この間に味わった御苦労や諸問題についてお教えください。また、それらを克服するためにどのようなことをなさいましたか。
玉利:
コロナ禍で、全員集合しての練習が出来ない時期が続き、学生内でもコミュニケーション不足やモチベーションの維持が難しい状況にありました。
そのような中、2020年3月には、部内でグループコミュニケーションツールの活用をいち早く開始し、コロナ禍での活動方法を探り始めました。
オンラインミーティングや自主練習のスケジュールを管理し、各自のトレーニング結果を報告したり、オンライン上で集合して一緒に筋トレを行なったり。また、試合動画の分析やスカウティングのためのミーティングを実施し、スタッフからの指導やコメントもオンラインで行いました。
活動にあたって制約の多い中で、自分たちのできることを最大限実施し、チームの一体感も醸成できたと感じます。新入部員の勧誘活動もオンラインによるものとなりましたが、新たな部員が多く入ってくれたのは大きな収穫です。
また、コロナ禍に加えて、最上級生不在の年が続いたこともあって、学生内でのナレッジの継承がうまく行かないという問題も発生しました。そこで2021年にはコーチングスタッフの人数を増やして、オフェンス/ディフェンス/キッキングの担当ごとに、これまで以上に細かな指導を行ないました。それらを受けて学生たちは、自分達なりのフットボール、そしてUNICORNS活動を再確立しつつある様に見受けられます。
井町:
コロナ禍でいち早くITを活用して活動を継続できたのは、SFCの学生、OG達のスキルの高さによるものだと思います。
思い起こせば2012年、吉川前監督の三度目の海外赴任の時には、Skypeを活用して公式戦の会場と接続して試合の様子を中継し、ハーフタイム中のハドルでは指示をもらったりしていました。グラウンドの外から監督がサイドライン入りしたなんて慶應だけだと思います(笑)
とは言え、後から振り返れば色々課題も見えてきて。まず、朝10:00キックオフの試合だと、吉川さんの駐在していた南ア時間では朝3:00で、かなり大変だったそうです。まぁそれは吉川さんにがんばって頂くしかなかったのでおいとくとして(笑)。
サイドラインからPCを持ってフィールドを映しているOGスタッフが、試合に興奮して動いてしまうので肝心のプレーが見えなくなり、さらに、吉川さんからの問い合わせも聞こえなくなり。後から、試合の応援に来られていたご父母から「吉川さんの声がPCから聞こえていたけど誰も気付かなかったみたいですね」と言われてしまいました(笑)
まだオンラインも始まったばかりで活用方法も未熟でしたが、10年経ってその辺りも含めて成長してきております。
【Q7】OGの皆さんの卒業後の生活や仕事ぶりなどを紹介していただけませんか?
井町:
現在約100名のOGがいますが、職業、勤務先が非常に多種多様です。吉川さんからは「ここのOG達は本当にバラエティに富んでいるね」とよく言われます(笑)
2001年にSFCに看護医療学部ができたこともあり、OGに看護師が多いのも特徴の一つかと思います。その職場も、病院や企業だけでなく、国際協力を行なっていたり、NPOを設立したりと多岐に渡っています。
その他には、医師、公認会計士、司法書士、警察官、各種公務員(都庁、県庁、市役所、地方裁判所等)もいます。外国籍のOGがいることや、外国籍の方と結婚したOG、外国に在住しているOGが多いのも特徴でしょうか。
さらに、NHK記者、新聞記者がいたり、大学等で教鞭をとる人がいたり。企業に勤務している人も、業界は多種多様です。商社、生保、電機、自動車、製薬、化粧品、菓子、広告、出版、教育、IT、通信、コンサルティング・・・同じ企業にいるOGはいないと思います。
また、卒業して就職した後、転職したり、独立したりして、キャリアアップを目指す人も多いです。SFC出身者の特徴でもあるのかもしれませんが、独立自尊の精神が旺盛な人たちなのだと思います。
2012年に「UNICORNS」というチーム名になる前、創部当初のチーム名は「BREAKS」という名前でした。「敵を打ち破り、新しい道を切り開く」という願いを込めて命名しましたが、その精神はずっと受け継がれているのかな、と今改めて感じています。
また、OG会は1997年に設立されました。設立の際には、運営の考え方、規約の制定等、当時の吉川監督に多くの助言を頂きました。毎年、OG会主催で納会、ホームカミングデーを開催したり、週末の練習や合宿への参加、OG戦の実施等、グラウンドでの支援も行なったりしています。
毎年の納会やホームカミングデーは、学生・OGが一堂に会して交流を深める貴重な場となっており、子連れのOGも参加し、にぎやかな雰囲気で開催されます。
近年はコロナ禍でもあり、一堂に会しての開催はできていませんが、オンラインによる納会、ホームカミングデーを実施しています。普段なかなか参加できない海外在住のOGも参加できたりして非常に良い集まりとなっています。
【Q8】女子タッチチームの試合スケジュールや試合結果などを確認するための、WEBサイトなどはありますか?
杉浦:
女子ユニコーンズ、および各連盟のWEBサイトやFacebookページにて情報発信しております。
最新の情報はFacebook等のSNSを中心にご確認頂けます。
【女子タッチ・ユニコーンズ】
●WEBサイト:http://www.keio-gtf.com/
●Facebook:https://www.facebook.com/keiogtf
●Instagram:https://www.instagram.com/keio_gtf/
【関東学生女子タッチアンドフラッグフットボール連盟】
●Facebook:https://www.facebook.com/kantotfstudent/
【日本タッチアンドフラッグフットボール連盟】
●Facebook:https://www.facebook.com/JTFA.JPN
【Q9】将来へのチームの展望や今後の目標・課題について
玉利:
2023年度は3年生が主将となります。新主将の抱負をご紹介します。
『今年度、女子タッチフットボールチームUNICORNSの主将を務めることになりました塩谷明日香と申します。
これから始動する新チームは、4年生がおらず、3年生以下の若いチームとなります。そのような中でも、ひとりひとりがチームに主体的に働きかけながらその力を合わせること、また自分たちを信じることができれば、東西王座戦優勝という目標も果たせると考えております。今年度はそのようなモットーのもと活動してまいります。私自身としましては、主将としてメンバーを巻き込みながら、誰よりもタッチフットに全力投球することで、勝てるチームを作っていきます。
最後になりますが、皆様に良いご報告ができますよう精進してまいりますので、ご支援、ご声援のほどよろしくお願い致します。』
現在の部員全員が昨年、下級生でありながらも東西大学王座戦に出場経験があり、ライバル校との力量差を肌で感じてきました。その悔しさをバネに、一人一人が意識高く練習に取り組もうとしています。
課題であるフィジカルと知識面を強化し、実戦経験を積むことで、チームの土台固めをしていきます。学生、スタッフ一丸となり、これを乗り越えた先に、大きなチャンスがあると期待しています。
【Q10】ユニコーンズファミリーの皆さんに言いたいことや、協力を呼び掛けたいことはありますか?
井町:
吉川前監督が当初から考えてこられたように、このチームの運営は「女子タッチフットボール経験者による自主運営」を目指し、現在は監督(井町)以下、スタッフも含め全員OGで行なっています。今後もその方針で「女子フットボーラー」を増やしていきたいと思っております。ユニコーンズファミリーの皆様には、これまでも施設使用等で大変お世話になっておりますが、引き続きのご支援をよろしくお願い致します。
また、お子さまがフットボールに興味を持たれたら、女の子でしたら是非私たちと一緒にタッチフットボールをやりましょうとおすすめしてください!ご連絡をお待ちしております!
連絡先:井町真琴(makoto06@tt.em-net.ne.jp)
清水後書き
今回のインタビューで私が最も感銘を受けたのは、「Q7 OGたちの卒業後の進路」の部分です。これまでも何名かのOGと名刺交換をさせていただいて、「あれ?ユニークな仕事をなさっているな」と新鮮な印象を受けたことがありました。
100名を超えるOGが居るのに、「誰一人として同じ企業に進んだ者はいないと思う」と監督が述べておられることには驚きます。大企業・人気企業への就職希望が集中するのではなく、「他のOGが誰も行っていないから自分は行く」という、まさに独立自尊の精神に満ちている様子を感じます。
女子タッチにおけるDiversity(多様性)がチームの大きな魅力であり、この部分を活かして、将来更なる「ユニコーンズファミリーの宝」になってもらえないかなと、私は感じています。
お互いが親しくなるには、「まず相手のしている事に興味を持つこと」が第一歩だと思います。女子タッチ・ユニコーンズに興味を持ちましょう。試合を観に行く、応援することから始めましょう。小さなことの積み重ねが、将来大きな実りにつながると確信しています。
「清水利彦のアメフト名言・迷言集」
https://footballquotes.fc2.net/
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