広報部会
高木 慶太(H7年卒)
全日本選抜とアイビーリーグ選抜が戦うJapan U.S. Dream Bowl が1月22日に国立競技場で開催された。慶應OBからはQB髙木翼、RB李卓、DB井本健一朗が出場全日本選抜は後半に一度は逆転するも、アイビーリーグ選抜に力負けし20対24で敗れた。髙木はエースQBとしてオフェンスを率い、自ら逆転2ポイントコンバージョンの捕球者となる活躍で大舞台での強さを存分に発揮した。
アイビーリーグ選抜はセカンドチームを中心とした布陣で、全日本選抜には米カレッジフットボール時代にNCAAの最上位ディビジョンであるFBS(Football Bowl Subdivision。アイビーリーグは上から2番目のディビジョン=FCSに所属)で活躍した選手が加わっていることから、戦前予想では互角以上、中には勝って当然という楽観論も見られたが、結果は前述の通り。
全日本選抜選手からは「所属チームのアメリカ人選手の方がはるかにハイレベル」という声も聞かれたが、敗因は明らかに接点での力負け。特にタックルミスが頻発したディフェンスチームにその傾向が顕著だった。全日本選抜のエースとしてボールを託された富士通のRBトラショーン・ニクソンがXリーグで無双状態を続けており、ニクソンを一発でタックルできる日本人ディフェンダーが何人も現れて初めてアメリカ人と互角に戦えるということか。実は私も来日するのがアイビーリーグの控え選手が中心という事前情報を耳にして、これは日本の完勝もあるのではと期待した楽観論者の一人だったが、彼らの初日の練習を見学してすぐに考えを改めた。
Xリーグで日頃からアメリカ人選手に接しているため、個々の能力の高さについては評価する物差しを持ち合わせているが、チーム全員がアメリカ人という集団単位で接する機会はこれが初めて。「木」から「森」に目を移した時に初めて見えてくるものがあった。全日本選抜と決定的に違うのは「駒」としての均質性の高さ。同一ポジションであれば、全員がタイミングも含めて全く同じ動きができる。この均質性ゆえにインストールされたプレーの再現性が極めて高い。パート練習で多少見られたミスがチーム単位の練習に進むにつれ皆無になっていくのが全日本選抜とは対照的だった。もう一つ驚かされたのがコーチの投げるボールの速さと質の高さ。本職のQB並みのボールがディフェンスのパート練習で投げられているのだ。「ゲームライク」という言葉の本当の意味を痛感させられた。
試合に話を移そう。先制したのは全日本選抜。高木のテンポの良いパスとRBニクソンのランで比較的容易にレッドゾーンにまで進み、FGで締め括った。全日本選抜が主導権を握って試合が進むであろうことを期待させるに十分な幸先の良い立ち上がりだった。
その期待が淡いものであったことをアイビーリーグ選抜のセカンドシリーズで思い知ることになる。RBアレン・スミス(ブラウン大)にタッチダウンを許し、あっさりと試合をひっくり返されてしまう。
さらに髙木がインターセプトを喫しピンチを招いてしまう。しかしながら、ここは守備陣が踏ん張って失点を免れた。
全日本選抜は司令塔を政本悠紀(IBM)に変えテンポ良いオフェンスを披露するが、エンドゾーンが遠い。こう着状態が続いていたが、アイビーリーグ選抜陣内で相手QBのファンブルを誘発し敵陣34ヤードで攻撃権を奪取する。絶好のフィールドポジションを得た全日本選抜は、FGを確実に決めて1点差に迫った。
後半に入ると、いきなりアイビーリーグ選抜にビッグリターンを喫し、最後はRBアイゼイア・マルコム(ペンシルベニア大)のTDを許してしまう。
8点差に離された全日本選抜はQB高木から富士通でホットラインを組むWR松井へ投じたパスが相手の反則を誘い、敵陣内へ。さらにQB高木からRBミッチェルビクタージャモー(パナソニック)へのパスが通ると、ミッチェルがランアフターキャッチで相手をかわしてタッチダウン。しかし、同点を狙った2点コンバージョンは阻止された。
その後フィールドゴールで3点を追加された全日本選抜は、QB高木、WRグラント、RBニクソンの富士通勢の活躍でついに逆転。続く2点コンバージョンもエンドゾーンに走り込んだQB髙木に「フィリースペシャル」を成功させ、3点差にリードを広げた。
ここから追う立場になったアイビーリーグ選抜の執念を見ることになる。QBライアン・グローバー(ペンシルベニア大)が自慢の脚で確実にゲイン。全日本選抜はグローバーを仕留め切れず、痛恨の逆転を許してしまう。
この時点で残り時間は10分以上。4点ビハインドの全日本選抜は、焦らずにボールを進め、ゴール前7ヤードまで迫るがフォースダウンを迎えてしまう。当然ギャンブルを選択するが、エンドゾーンを狙ったパスは相手守備に阻まれ得点機を逸した。
リードするアイビーリーグ選抜はここからしたたかに時計とボールをコントロール。全日本選抜が攻撃権を得た時には試合時間はわずか5秒しか残されていなかった。自陣12ヤードから逆転の望みをかけたQB高木の一投は9ヤード進んだのみでタイムアップとなった。
20対24。点差こそ僅差だが、日本のフットボールの精鋭たちが、本国では決してトップクラスとは言えない、しかも大学生に力の差を見せつけられるという悔しい結果。日本のアメリカンフットボールに与えられた宿題は想像以上に大きい。一年後に宿題の提出日が再び訪れることを切に願う。