清水 利彦(S52年卒)
shimizu.toshihiko2@gmail.com
今年のスーパーボウルは、イーグルスvsチーフスとなりましたね。
イーグルスは5年前の優勝チーム。過去6年間に5回プレイオフ出場。今季レギュラーシーズンは14勝3敗でNFC勝率1位。
チーフスは3年前の優勝チーム。8年連続でプレイオフ出場。今季レギュラーシーズンは14勝3敗でAFC勝率1位。
NFC、AFCとも「今、一番強いチームが順当に勝ち上がってきた」という感じです。下剋上なし、シンデレラチームの出現なし、ということで意外性に欠ける組み合わせではありますが、逆に言えば、「東西の横綱が千秋楽で相星決戦」のようなシーズンとなりました。
NFLについては、卒業生の中で私より詳しい方が幾らでも居られるでしょうから、コメントは必要ないと思いますが、ひとつだけご紹介したいのがイーグルスのヘッドコーチ、ニック・シリアニの存在です。
シリアニ(41歳)はイタリア系移民の家庭に育ち、父親は高校でフットボールコーチをしていました。ニックは父親のチームでフットボールを始め、その後オハイオ州のマウントユニオン大学でWRとしてプレーしました。
「マウントユニオン大学なんて聞いたことがないぞ?」という感想を皆さんがお持ちになって当然の事だと思います。マウントユニオン大はNCAAのDivision Ⅲに所属している、学生数わずか2000名のスモールカレッジなのです。
NCAAには約1100校の大学が加盟していますが、その中で一番底辺の450校ほどで形成されている組織がDivision Ⅲです。450校の平均的学生数が3000名程とのことですので、本当に小さな大学ばかりの集まりです。DivisionⅡ(約300校)の大学はスポーツ奨学金をオファーすることが出来ますが、Division Ⅲの大学はスポーツ奨学金制度を持つことが認められていません。手弁当で集まる人たちによる、純粋なアマチュア組織と言えます。
小さな学校ばかりの組織ではありますが、それでも1973年から毎年「Division Ⅲ全米大学選手権」が開催されており、「エイモス・アロンゾ・スタッグ・ボウル」という伝説の名コーチの名前を冠した試合で全米チャンピオンが決まります。実はマウントユニオン大学はDivision Ⅲの中では超強豪校として知られており、1993年からの30年間で13回優勝しており、最多優勝回数を誇ります。ニック・シリアニが1年生から3年生まで3年連続で全米王座に着いています。選手権決勝に集まる観客数が5~6000名程、多くても一万人を超えないとのことですから、甲子園ボウルよりは規模の小さいイベントと言えます。
詳細については、下記のサイトをご覧ください。
NCAA Division III Football Championship – Wikipedia
話がそれますが、私は日本の強豪大学チームが、一度Division Ⅲのチャンピオンチームと戦ってみたら面白いのではと考えています。勝てるのか、負けるのか、ちょっと想像がつきませんが、いずれにせよ、両軍とも真剣勝負をしてくれるのではないかと期待します。勝てるのであれば、次に日本の大学が米国のDivisionⅡに挑戦すればよいと思っています。かつてのライスボウルで社会人と学生が対戦していたことを思えば、ずっと興味深いカードとなるのではないでしょうか。
シリアニは卒業後、母校マウントユニオンで一年間アシスタントコーチをしたあと、DivisionⅡの大学で3年間WRコーチを務めます。その後わずかなツテを頼って、当時NFLチーフスのヘッドコーチに着任したばかりのトッド・ヘイリーに面接をしてもらう幸運を得ます。シリアニは見事採用され、Offensive Quality Control Coachという肩書の職を得ることが出来ました。トッド・ヘイリーはチーフスで結果を残せず、3年足らずで退任していますから、シリアニは唯一絶妙のタイミングで採用されたわけです。トッド・ヘイリーがチーフスを去った後も、シリアニはチームに残っていますので、アシスタントコーチとしての能力を高く評価されていたのでしょう。
チーフスで4年間、チャージャースで5年間、アシスタントコーチを務めます。2018年からはコルツの攻撃コーディネーターに昇格し、そこでの3年間の功績が評価され、2021年、40歳でついにイーグルスからヘッドコーチをオファーされます。
イーグルス・コーチに就任したシリアニが決断した最初の仕事が、「一軍QBのカーソン・ウエンツをトレードに出し、ドラフト2位で獲得したQBジャレン・ハーツをスターターに起用した」ことでした。この賭けが見事に成功します。
初年度はもがき苦しみながらも9勝8敗の戦績を残してワイルドカード出場を決め、そして2年目の今年度は堂々と勝ち進んでスーパーボウル出場を果たしました。
18年前は、誰からも注目されない3部校の選手であった男が、NFLのヘッドコーチになり、41歳でスーパーボウルに挑戦するという、まさにアメリカンドリームの実現です。
一方、対戦相手チーフスを率いるのは、64歳、ヘッドコーチ歴24年目、通算247勝(NFL歴代5位)の超ベテラン、アンディ・リードです。アンディ・リードは、かつてイーグルスのヘッドコーチを14年間務めていましたし、シリアニは当初チーフスからコーチング人生が始まったわけですから、お互いに「元の古巣との因縁対決」ということもできます。
ニック・シリアニ・コーチの素顔は下記You Tubeでどうぞ。子供連れ記者会見の一幕です。
隣にいる、彼の小さな娘の仕草がめちゃくちゃ可愛いです。お父さんが娘に「君は僕の事を、真似て茶化しているのかい?」と問いかけています。
(14) Nick Sirianni’s Daughter is TOO Funny 😭 #shorts – YouTube
さあ、最後に笑うのはいったいどのチームでしょうか?スーパーボウルは日本時間2月13日月曜朝、アリゾナ州のState Farm Stadium(旧名University of Phoenix Stadium, 最大収容約79000人、屋根付き)にてキックオフです。
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「清水利彦のアメフト名言・迷言集」
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