清水利彦(S52年卒)
shimizu.toshihiko2@gmail.com
今回のコラムを書いていて、スタンフォード大の正式名称がStanford University ではないことを初めて知りました。正式にはLeland Stanford Junior University といいます。
鉄道王として知られ、上院議員やカリフォルニア州知事を務めた大富豪リーランド・スタンフォード氏が巨額の資金を投じて1891年に創設した私立大学です。
結婚18年目にようやく授かったスタンフォード氏の一人息子が1884年に腸チフスにより15歳で亡くなったため、嘆き悲しんだ両親が息子の名前(リーランド・スタンフォード・ジュニア)を大学名としたとのことです。
スタンフォード大はキリスト教などの宗教とは無関係に設立されており、創設当初から男女共学でした。どちらも当時としては珍しいことと聞いています。(例えばハーバード大は、清教徒牧師ジョン・ハーバードの名前に由来しており、宗教色の濃い設立でした)
第二次世界大戦後、スタンフォード大は財政的苦境に陥りました。財政再建のためにとった方策が「スタンフォード・リサーチパーク」と呼ばれるビジネスパークの設立でした。企業における研究開発を目的とした広大な施設を作り、ハイテク企業を中心に150社ほどを集めて、大学と企業が一体となって研究開発をおこなったのです。その中から珠玉の企業群や、著名な起業家や発明家がたくさん生まれ、この地域はシリコンバレーと呼ばれるようになります。スタンフォード大学が常にその中心に居たわけです。
シリコンバレー一帯は、今では「世界で最も裕福な地域」と呼ばれます。
スタンフォード大学は学生数が18000人と少ないのですが、しかもその内訳は「4年制大学生8000人+大学院生10000人」と大学院生の方が多いのです。この大学が「研究者のための学校」であることがよくわかります。
一方で、4年制大学生(Undergraduate)が8000人しか居ない中で、フットボール部が強豪として高いレベルを維持しており、また男子14部・女子20部の体育会クラブがあり、これらを全て存続させていくのは非常に難しく大変な事であろうと拝察します。
私は40年ほど前に、スタンフォード大学のキャンパスを訪れたことがあり、その美しさに息をのみました。私は昔「米国各地の大学を訪れて、大学ロゴ入りTシャツを買う」というヘンテコな趣味を持っていましたが、私が訪れた大学の中では、キャンパスの美しさではスタンフォード大学がナンバーワンだと思います。広大な庭園や植物園の中に校舎が点在しているようなキャンパスで、その広さを見て私は勝手に「スタンフォードはマンモス大学なのだな」と思い込んでいましたが、後で少数精鋭の大学と知って驚きました。
スタンフォード大学には、毎年5万人程度が入学志願をしますが、その中で合格する者は約2000人と超難関です。フォーブス誌の全米大学学力ランキングで2位にいることは既にお知らせしましたが、QSという組織が発表した「世界の大学学力ランキング」でも6位となっています。ロイター社の発表する「世界で最も革新的な大学ランキング」では5年連続で1位となっていますし、全米の学生とその両親が入学することを夢見て憧れる「ドリーム・カレッジ・コンテスト」で1位に輝いています。
インターネットという概念を構築したのは、スタンフォード大学卒業生Vint Cerf氏で、「インターネットの父」と呼ばれています。「創業者、もしくは共同創業者の一人が、スタンフォード大学卒業生」である多数の企業のうち、ごく一部を紹介しますと、ヒューレット・パッカード、ナイキ、ギャップ(アパレル)、アルファベット(グーグル)、シスコシステムズ、キャピタルワン(金融)、ネットフリックス、エヌヴィディア、ヤフー等々です。
米国のハイテクの歴史をスタンフォード大卒業生が作り上げていると言っても過言ではありませんね。
スタンフォード大フットボール部の歴史
スタンフォード大フットボール部の創立は1891年、つまり大学の設立と同時にフットボール部も創部されています。そして創部の翌年(1892年)3月には初のカリフォルニア大との対校戦がおこなわれているのです。
歴代通算戦績をみますと、
カリフォルニア大 1886年創部 698勝575敗51分 勝率.546 全米王座獲得4回
スタンフォード大 1891年創部 665勝478敗49分 勝率.578 全米王座獲得1回
ということで、勝率が高い分、スタンフォード大の方が「強い」というイメージがあります。例えばローズボウル出場回数を見ますと、USC34回、ミシガン大21回、オハイオ州立大17回、ワシントン大15回、スタンフォード大14回となっており、カリフォルニア大は8回しかありません。
1902年元旦に開催された第1回ローズボウルにスタンフォード大は招待されました。ただしこの時は、ミシガン大に0-49と完敗し、西海岸の人達を落胆させ、「もう、こんな無意味な招待試合はやめよう」となりました。そのため第2回ローズボウルの開催は14年後の1916年まで待つことになります。
当時の模様は下記コラムにて。
▶【清水利彦コラム】ローズボウルの歴史 2021.5.28 | アメリカンフットボール三田会
スタンフォード大は1926年度に全米チャンピオンに輝いています。レギュラーシーズンを8戦全勝で勝ち抜いたスタンフォード大とアラバマ大が、1927年元旦のローズボウルで激突しました。大激戦の末、7-7の引き分けに終わり、両校共に「我々が全米チャンピオン」と名乗っています。複数の機関が個々に全米王者を選んでいた時代でした。
スタンフォード大は21世紀に入っても非常に高いレベルの戦績を残しており、カリフォルニア大に差をつけた形になりました。2010年~2015年の6年間で66勝17敗、勝率.795と勝ちまくり、全米10位以内に4回入っています。ところが直近(2021~24)4年間連続して負け越し、不調に陥っています。
「一番有名なスタンフォード大卒の選手」と言えば、ジョン・エルウェイで誰も異存はないでしょう。
1983年、スタンフォード大からドラフト1位でデンバー・ブロンコスに入り、16年間不動のエースとして活躍。スーパーボウル優勝2回を果たしています。「彼の投げるパスがあまりにも速いので、WRが指を骨折することが相次いだ」という伝説が残っています。
スポーツイラストレイテッド誌が選んだ「NFL史上最高のQB」で第6位に入っています。ジョン・エルウェイのプレーぶりについては、下記You Tube画像をご覧ください。14分
How GOOD Was John Elway Actually?
「The Drive」「ヘリコプター・ダイブ」等、彼に関する有名なエピソードが幾つもありますので、ジョン・エルウェイについては、いつか別のコラムに書きたいと思います。
ジョン・エルウェイはスタンフォード大のフットボール部と野球部でめざましい活躍をしました。QBとしてオール・アメリカンに選ばれる一方で、全米大学野球代表チームの一員(外野手)として日本で試合をしたこともあります。
ジョン・エルウェイがスタンフォード大に入学した時、彼の父親ジャック・エルウェイはサンノゼ州立大学のヘッドコーチでしたが、ジョンが卒業した2年後に、父親がスタンフォード大のヘッドコーチに就任しました。父が息子の後を追ってチームに入る珍しい例です。ジャック・エルウェイの面白い迷言が二つ残っています。
「スタンフォード大に入学して有名選手になってからは、
息子は家の前にゴミ出しをするのを嫌がるようになった。」
「かつてジョンは、『ジャック・エルウェイ・コーチの息子』と
呼ばれていたが、今では私が『あのジョン・エルウェイの父親』と
呼ばれている。」
ジャック・エルウェイ
サンノゼ州立大→スタンフォード大 コーチ
スタンフォード大のニックネームは「カーディナル Cardinal」と言います。NFLアリゾナ・カーディナルスは鳥(ショウジョウコウカンチョウ)の名前を付けていますが、スタンフォード大には最後に「s」を付けず「深紅色」を示します。
大学のスポーツ・ロゴは、深紅色のSの文字と、Stanford Treeと呼ばれる木の形を組み合わせたものです。動物などのマスコットは無いので、フットボールの試合には、赤と緑の木の形をしたバケモノのようなマスコットが登場します。スポーツ界のマスコット・コンテストにおいてスタンフォード・ツリーが全米ワースト1位に選ばれたことがあります。笑
ここまで述べましたように、スタンフォード大とカリフォルニア大は、学術研究においてもスポーツにおいても最大のライバルとして切磋琢磨してきました。フットボールでは1918年以降、常に同じリーグに所属してしのぎを削っていたわけですが、2024年度にPac-12リーグに驚くべき事態が起こりました。
オレゴン大、ワシントン大、USC、UCLAの4校が五大湖周辺中心のBIG TENリーグに移籍。ユタ大、コロラド大、アリゾナ大、アリゾナ州立大の4校が中南部中心のBIG12リーグに移籍してしまったのです。4校だけ(カリフォルニア大、スタンフォード大、ワシントン州立大、オレゴン州立大)が取り残される形となりました。
「全米王座を狙うためには強豪リーグに所属しなければ」と考えたのだろうと推察しますが、2024年からカリフォルニア大とスタンフォード大はACC(Atlantic Coast Conference)に共に移籍することに急遽決めました。「両校は決して離れることの出来ないライバル」ということですね。
ACCは、クレムソン大、マイアミ大、フロリダ州立大などが集まる強豪リーグですが、その名の通り大西洋岸に近いチームの集団です。そこに西海岸(太平洋岸)の2チームが参加するという驚くべき新編成となりました。スタンフォード大とマイアミ大は直線距離で約4200km離れています。(ちなみに東京-バンコックで4600km)
CALとスタンフォードはACCへの加入によって、毎年レギュラーシーズン中に3~4回東海岸に遠征しなければなりません。大変厳しいスケジュールになりますが、自分たちの選んだ道ですから仕方ありませんね。ACC移籍の初年度、カリフォルニア大は6勝7敗、スタンフォード大は3勝9敗と、どちらも不振に終わりました。
ここ数年は勝ち星に恵まれませんが、全米に千数百校あるNCAA所属の大学の中で、「学力で一番、フットボールでも一番」に成れる可能性があるのは、スタンフォード大だけだと私は思っています。
頑張れ、スタンフォード大学!!!
次号ではBig Game(カリフォルニア大vsスタンフォード大対校戦)の歴史と、1982年のBig Gameにおいてジョン・エルウェイの目の前で起こった、全米カレッジ史上最大の奇跡と言われる「The Play」について紹介します。どうぞお楽しみに。
「清水利彦のアメフト名言・迷言集」
https://footballquotes.fc2.net/
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