【清水利彦コラム】全米カレッジ戦線、異状あり! 2021.10.21

清水 利彦(S52年卒)
shimizu.toshihiko2@gmail.com

早いもので、全米カレッジフットボールは既に第7週まで終了しており、(10月19日現在)レギュラーシーズンがほぼ半分終わったことになります。
You Tube でたくさんの試合を無料で見ることができるのは誠に有難いですが、それにしても、米国はどの試合もすごい数の観客ですね。日本でコロナ感染防止の為プロ野球の観客数を1万人とか制限しているのが馬鹿馬鹿しくなるくらいの盛況・熱狂ぶりです。

さて、今年は全米カレッジ戦線が例年とは違う展開になっていますので、報告いたします。

過去12年間(2009―2020)はアラバマ大が断トツの強さを見せつけてきました。
12年間で6回の全米王座獲得。12年連続ランキングトップ10入り。151勝15敗、勝率.910。
15回負けたうち、11試合は7点差以内の敗戦です。「あきれるほど強い」と言えましょう。

<過去12年間の全米王座獲得校>
アラバマ大6回
クレムソン大2回
ルイジアナ州立大、オハイオ州立大、フロリダ州立大、オーバーン大 各1回

<12年間でアラバマ大が喫した15敗の相手内訳>
4敗 オーバーン大(ただし8勝している)
3敗 ルイジアナ州立大
2敗 クレムソン大、ミシシッピ大
1敗 オハイオ州立大、オクラホマ大、テキサスA&M大、サウスカロライナ大

つまり、過去12年間、アラバマ大が圧倒的な強さを誇り、アラバマ大が不覚を取った年だけ、オーバーン大、クレムソン大、ルイジアナ州立大、オハイオ州立大等の「第二集団」が王座を手にするという図式でした。なおかつ、第二集団も顔ぶれがかなり固定化されており、近年「意外性のあるシンデレラチーム」は皆無であったと言えます。

ところが今年は、その傾向にかなり異変があるのです。今季の注目すべき点をまとめてみます。
まずはランキング推移表をご覧ください。シーズン前の予想ランクと10/19現在のランクを比較しています。上位15チームのうち、8チームが入れ替わっており、下剋上の多いシーズンとなっています。

(1)アラバマ大に早くも土!
12年間で15回しか負けていないアラバマ大が、第6週10月10日テキサスA&M大に、最後の1秒でFGを決められ38-41で敗れました。昨年アラバマ大は13戦全勝で全米王座獲得していますので、敗北は2019年11月(45-48オーバーン大)以来のこと。アラバマ大がテキサスA&M大に負けたのは9年ぶり。テキサスA&M大はプレシーズンランキングで6位と期待されていましたが、アーカンソー大、ミシシッピ州立大に敗れ、ランク外に去っていました。アラバマ大の油断も多少はあったのでしょう。
テキサスA&M大は、ファンを「The 12th man」(12番目の選手)と昔から位置付けており、地元カイル・フィールドには「The Home Of The 12th Man」という巨大なサインボードが掲げられています。アラバマ戦勝利の瞬間、何千人(もしかしたら一万人以上)ものファンがフィールドになだれ込み、誰かれ構わず抱き合う姿を見て、私一人ウルウルしていました。
アラバマは今後の試合を全て勝てば全米王座に着ける可能性があるわけで、まだ悲観する必要はありませんが、相当ショックな敗戦であることは間違いありません。

(2)第二集団の崩壊
アラバマが敗れて、「よしっ!」と意気上がるはずの第二集団(ランク上位常連強豪校)がバタバタと先に負けています。過去10年間で121勝18敗、勝率.871と勝ち続けているクレムソン大が既に2敗(4勝)しているのは驚きです。
他にもオーバーン大(5勝2敗)、ルイジアナ州立大(4勝3敗)、フロリダ大(4勝3敗)等々が大苦戦中。2敗してしまうと、さすがに全米王座獲得は無理でしょう。
オハイオ州立大とペンシルバニア州立大がともに序盤に星を落とし5勝1敗。第二集団の中で無敗は7戦全勝のジョージア大とオクラホマ大のみ。ジョージアは1980年以来41年ぶり2回目、オクラホマは2000年以来21年ぶり8回目の全米王座獲得を虎視眈々と狙っています。
ジョージア、オクラホマに、おそらく1敗のアラバマ、オハイオ州立大を加えた四強が、今後の王座獲得レースの中心になると考えます。

(3)今年のシンデレラチーム
このコラムを計画したのが一週間前の10月13日で、「アイオワ大(当時ランク2位)の存在が面白い。今後の対戦相手があまり強くないので、このまま全勝で走る可能性がある。今年のシンデレラチームか?」と書き始めました。ところが10月17日にランク外のパデュー大に地元で7-24と惨敗しました。やることなすことチグハグな攻撃に、超満員だったスタジアムが試合終了前には客が帰ってガラガラになってしまい、ファン達の落胆と怒りが目に見えるようです。
アイオワ大は過去10年で79勝46敗、勝率.632と、かなりの戦績を挙げているのですが、ローズボウルでの勝利は1958年以来63年間ありませんし、創部以来122年間、全米王座獲得は一度もありません。「肝腎な時に勝てないチーム」という烙印を押されてしまいそうです。
もう一つ、シンデレラチームになる可能性を感じていたのがケンタッキー大です。フロリダ大、ルイジアナ州立大という強豪を連破し、一気にランクを11位まで上げていましたが、こちらも17日にランク1位のジョージア大に負けて6勝1敗になりました。
ケンタッキー大は長年に渡りSECリーグの「お荷物」扱いをされており、リーグ優勝してシュガーボウルに出場したのは、71年前、1950年に一度あるだけです。この時のヘッドコーチがなんと若き日のポール・ベア・ブライアントであり、いまだに「ベアを超えることが出来ないチーム」とも呼ばれます。強いチームとの対戦をほぼ終えていますので、残り全試合に勝って、優勝の望みを残してもらいたいものです。
※ポール・ベア・ブライアントは1946-1953年の8年間、ケンタッキー大コーチを務め、60勝23敗4分、勝率.723の好成績を収めましたが、学長と大ゲンカの末、退任しています。

(4)シンシナチ大は本当に強いのか?
プレシーズンランキングでも9位と高い評価を受けていたシンシナチ大が、6戦全勝でついにランク2位まで上がってきました。敵地サウスベンドでノートルダム大を24-13で破った試合は見事でした。圧倒的な強さは感じませんが、ディフェンスが強く、「相手に力を出させないで勝つ試合巧者」というイメージです。
私立大学で、1819年創立ですから200年以上の歴史がありますが、昔は小規模の法律専門学校だったようで、総合大学に発展したのは100年程前からです。今は学生数46000を誇り、州内ではオハイオ州立大に次いで2番目に大きな大学です。
スポーツでは、American Athletic Conference というリーグに所属しています。このリーグは(筆者の私見ですが)「伝統強豪リーグに加盟させてもらえなかった大学の寄せ集め」という感があります。メンバーは、セントラルフロリダ、サウスフロリダ、イーストカロライナ、ヒューストン、メンフィス、サザンメソジスト、テンプル、チュレーン、タルサ、ウィチタ州立大、シンシナチの11校で、全米王座獲得経験のある大学はひとつもありません。
シンシナチ大フットボール部は創部1954年と比較的新しく、ずっと鳴かず飛ばずの状態でしたが、この15年くらいで急に強くなりました。ファイナルランクの過去最高が8位ですから、現在の2位は経験したことのない高い位置となります。
シンシナチ大の「弱み」は、所属リーグのフットボールレベルが高くないことにあります。今年レギュラーシーズンの対戦相手で、強豪は既に勝利したノートルダム大のみ。残り試合も楽な相手が多いので、このまま全勝で乗り切ると思いますが、楽な相手で全勝した場合、全米王座を争う「Final 4」に入れても良いのかという議論が起こる可能性があります。
アラバマやジョージアのように、毎年5回も6回も、超強豪校同士での死闘を繰り返しているチームとの差が最後には出るのではないか、というのが筆者の意見です。


このように今年は例年よりも混戦模様で、大接戦や下剋上の試合が多く、大変面白いシーズンとなっています。まずはユニコーンズを応援していただきたいですが、お時間のある方は全米カレッジも是非ご覧ください。
筆者は以前のコラムで、「頑張れ、アイオワ州立大!」「頑張れ、70歳のマック・ブラウン(ノースカロライナ大コーチ)!」と書きましたが、現在アイオワ州立大は4勝2敗、ノースカロライナ大は4勝3敗と既に優勝圏外に去りました。また、4月に「甦れ!アーミー(陸軍士官学校)!」という記事を書きましたが、こちらも4勝2敗と全米王座は絶望です。なんだか「清水さんが応援するチームはコロコロ負けますね」という声が聴こえてきそうです。なにせ私はユニコーンズを心の底から応援していますので、そういう評判がたつのは本当に困るのですが。

「清水利彦のアメフト名言・迷言集」
https://footballquotes.fc2.net/
「今週の名言・迷言」を木曜日ごとに更新しています