【清水利彦コラム】パワー5カンファレンスについて 「14校なのにBig 10」「10校なのにBig 12」って、ヘンじゃない??? 2021.12.10

清水 利彦(S52年卒)
shimizu.toshihiko2@gmail.com

皆さんは、全米カレッジフットボールの「パワー5カンファレンス」という言葉をご存じですか?
NCAA一部校が所属する主なリーグが10個ありますが、このうち、強豪有力校が集まった5つのリーグが、他の5つを実力でも歴史的重みにおいても圧倒的に引き離しており、近年ますますその差が開く一方です。強い方の5リーグが「パワー5カンファレンス」と呼ばれます。
「パワー5」はNCAAが正式に定義づけた名称ではありませんが、2006年頃からこの名前が一般的に使用されるようになった、比較的新しい概念です。
パワー5カンファレンスは、下記の64校により成り立っています。

1.ACC(Atlantic Coast Conference) クレムソン大、フロリダ州立大など14校
2.Big 10 ミシガン大、オハイオ州立大など14校
3.Big 12 テキサス大、オクラホマ大など10校
4.Pac-12 USC、ワシントン大など12校
5.SEC(Southeastern Conference) アラバマ大、フロリダ大など14校

ご覧のように「Big10なのに14校もある」、「Big12なのに10校しかない」不思議な状況が発生しており、筆者としては「お前ら、1から14までの数字もまともに数えられないくせに、フットボールをちゃんと11人で出来るのか?!」と文句を言いたくなります。なぜこのような事態になったのか、おそらく歴史上やむを得ない事情があったのだろうと、今回はこの謎を解くための調査をしてみました。
現在のパワー5カンファレンス一覧表に、過去の加入・脱退の履歴、そして将来の加入・脱退を含めたデータを作りましたのでご覧ください。

この表を見て感じたことをまとめてみます。
①昔は、比較的近い地域にある名門校が集まって、親しい仲間同士のリーグを組んでいました、ところが21世紀に入って、それぞれのリーグが「他地域の有力校を取り込んで、強豪校がずらりと並ぶ顔ぶれにバージョンアップする」傾向があります。その結果、パワー5リーグの「メンバー増加傾向、広域化、強大化」が進みました。2000年に全部で54校だったパワー5が、2023年には68校に増えます。たびたびリーグ編成が変更になるので、一般ファンには覚えづらく、親しみにくいという実態があります。

②「他リーグの強豪校を取り込む」ということは、逆に言えば、「自リーグの強豪校が引き抜かれる」こともあるわけで、そうすると引き抜かれた方が、他リーグの別の有力校を取り込もうとします。こうして水面下では激しい争奪戦がおこなわれているものと察します。カレッジフットボールは巨大なビジネス化しており、入場収入の他にテレビ放映権料、グッズ販売等の莫大な利益を生みます。また、「フットボールが強ければ、大学そのものの人気が上がる」という側面もあるので、各校がこぞって「強いリーグに入り、ファンをたくさん集めて、好成績を挙げる」ことを望むのでしょう。

③1936年~2020年の85年間で、パワー5以外の大学が全米王座に着いたのは、ノートルダム(8回)、アーミー(2回)、ブリガムヤング大(1984年)のみです。85年間で74回は現在のパワー5勢がチャンピオンになっているのです。ブリガムヤング大もまもなくパワー5入りします。

Big 10は19世紀(1896年)に結成された最も伝統のあるリーグで、1946-49年の短い期間を除いては、ずっと10校で形成されていました。しかし1990年に全米王座2回を誇る強豪ペンシルバニア州立大が加盟したため11校となりました。その時のリーグのロゴマークは次のようなものでした。

11校の頃のBig10ロゴ 出典:Wikipedia

「BIG TEN」と書かれた黒文字の中に、よく見ると「11」の白い文字が隠されています。おそらくリーグ関係者の中にも、「11校でBig 10はおかしいんじゃないか?」という疑問があったと思われ、その葛藤がロゴに表れています。「考え抜いて作られた妙案ロゴ」とも言えますが、「妥協の産物ロゴ」とも言えそうです。
ところが21世紀に入って、Big10にネブラスカ大、メリーランド大、ラトガース大と次々に加盟したため、14校に膨れ上がってしまい、再びロゴを作り直すことになりました。

現在のBig10ロゴ 出典:Wikipedia

一見、「BIG」とだけ描かれていますが、よく見ると「10」の文字が隠されています。隠し文字がお好きなリーグなんですね。「加盟校は増えたが、10校のBig 10であった頃の歴史と誇りは忘れないぞ」という主張のように感じられます。本来ならばBig 10の名前を捨てて、Northwestern Conference (北西部リーグ)のような命名をすべきなのでしょうが、どうしてもそうはしたくないという、こだわりなのでしょうか。これが「14校でBig10」の由来です。

Pac-12は、2番目に歴史のあるリーグですが、もともとPCC(Pacific Coast C.)そしてPacific 8 と名乗っていたのが、加盟校の増加にしたがってPac-10、Pac-12と名称も等しく拡大させていきました。こちらは「1から12まで、ちゃんと数えられる人達」が運営するリーグのようです。(笑)
コロラド大の全米王座はPac-12に加わる前のことですから、もともとのPacメンバーでAP Pollによる全米王座経験のあるのはUSC(5回)一校だけです。ちょっと寂しいですね。
今年のPac-12優勝決定戦は新参者のユタ大が38-10の大差でオレゴン大を下して、加盟10年目で初優勝しました。昔、このリーグはカリフォルニア州の大学が優勝するのが「お決まり」でしたが、今年はUSC4勝8敗、カリフォルニア大5勝7敗、スタンフォード大3勝9敗と枕を並べて討ち死にしており、すっかり勢力図が変わってしまった感があります。

ACCは東海岸の名門校(バージニア大、デューク大、ノースカロライナ大等)が集まっており、もともとは「バスケットボールは強いが、フットボールはイマイチのリーグ」の感がありました。しかしフロリダ州立大、マイアミ大の二強を取り込み、クレムソン大が近年すごく強くなったことで、今ではACCもフットボールの強豪リーグとなっています。その後も拡大を続け、現在は14校と発展しています。
最新の加盟校ルイビル大は創部が1962年と新しく、(ユニコーンズは1935年)まだ全米王座経験もありませんが、大学自体は1798年創立(なんと18世紀!アメリカ建国が1776年ですから、その少し後です)の伝統校ですし、優秀な医学部を持ち、バスケットボール・野球・女子バレーボールなどでも強豪として有名です。

SECは1932年のリーグ結成以来、長年にわたり10校にて戦っていましたが、近年アーカンソー大、テキサスA&M大などの有力校を加盟させ14校となり、巨大化したリーグです。過去15年間にSECのチームが11回全米王座に着いています。そして2025年には、オクラホマ大とテキサス大が更にSECに加盟して16校になると聞いて本当にびっくりしました。
2つの超強豪校が加入すると、SEC各チームの歴代全米王座獲得総数は34回となり、二位のBig 10(19回)を大きく引き離し、断トツの強いリーグとなります。「SECを制するチームが、いつもチャンピオンになる」という傾向が更に強くなる気配があるのはあまり歓迎しませんが、テキサス大のSEC加盟により、途絶えていたテキサス大とテキサスA&M大の定期戦が2025年に復活しそうなのは楽しみです。

⑧1996年にBig-8とSWC(Southwestern C.)が合わさって出来たBig 12は、歴史の新しいリーグです。2025年に中核のオクラホマ大とテキサス大が抜けてしまうので、相当な弱体化、人気の低下が予想されます。埋め合わせに2023年、ブリガムヤング大、ヒューストン大、セントラルフロリダ大、シンシナチ大が加盟しますが、「小粒で、栄光の歴史がないチームの寄せ集め」という印象は否定できません。
「10校なのにBig 12」を名乗っているのは、12→10(現在)→14→12校と推移し、2025年には再び12校に戻るので、「その時までリーグの名称は触らずに、ほっとけ」というのがリーグ関係者の本音だろうと推察します。

⑨強豪チームの中で、唯一インディペンデント(独立校)の立場を維持しているのはノートルダム大です。ただしノートルダム大は、実はACCに加盟しており、バスケットボールなど他のスポーツはACCメンバーとしてリーグ戦を競っています。フットボールだけが別物・特別扱いの独立校というのが不思議です。しかも2020年はコロナ禍でスケジュールがぐちゃぐちゃになったため、「ノートルダムも1年だけACCメンバーとしてフットボール試合を行う」という措置がとられたそうで、ますます、よくわかりませんね。

とりあえず、「Big10なのに14校もある」、「Big12なのに10校しかない」という謎については、なんとなく理解できたと思っています。
全米カレッジフットボールが、「チャンピオンが決まるまでの、仕組み、体制がよくわからないので、なんとなく取っ付きにくい」と思っておられる方はけっこう多いのではないでしょうか。
たしかにカレッジは「並列リーグ制」を採用し、「レギュラーシーズン試合(リーグ戦、リーグ外対戦の両方あり)」→「リーグ優勝決定戦」→「ボウルゲーム」→「(一部のボウルゲームを兼ねて)全米大学選手権」という4層が重なり、更に投票によるランキング制度もあるのでわかりにくいと思います。
ただし、米国のシステムには一つ素晴らしいメリットがあります。それは「全米に110ある一部校のすべてに、毎年、全米王座に着く可能性が与えられている」ことです。並列リーグ制でないと、こうはならないのです。日本と違い、下部との入替戦や二部降格の心配が無いので、「長期的視野に立ってチーム作りが出来る」、「弱いチームも仲間として、ずっと一緒にやっていける」というメリットもあります。このへんの概念は野球の東京六大学と同じですね。

日本の場合、関東学生連盟に所属するチームは、医科歯科リーグ(12校)と7人制リーグ(8校)を除いても68校ありますが、その中で学生王座になる機会が与えられているのはTOP8の8校しかありません。(※来年は特別に10校)どんなに強いチームを作り上げて全ての試合に勝っても、他の60校は「翌年のステージがひとつ上がる」だけなのです。
去年と今年のユニコーンズを観ていますと、「TOP8のチームと試合をやらせてあげたかったな」、「彼らにも甲子園ボウルに挑戦する可能性だけは与えてあげたかったな」とつくづく思いました。

わかりにくい全米カレッジフットボールのシステムにも、それなりに理由があることをご理解いただき、是非、皆さんも全米カレッジフットボールにもっとご注目をいただきたいと願っております。

「もし君が数字を1から11まで数えることが出来るならば、
君はフットボール選手になるには充分だ。
もし君が数字を1から22まで数えることが出来るならば、
君はクォーターバックになるにも充分だ。」

ダリル・ラモニカ
オークランド・レイダース往年の名QB

おまけ<全米カレッジ速報>
リーグ優勝決定戦結果(主なリーグのみ記載)
SEC アラバマ大(12勝1敗)41-24ジョージア大(12-1)
Big10 ミシガン大(12-1)42-3アイオワ大(10-3)
ACC ピッツバーグ大(11-2)45-21ウエイクフォレスト大(10-3)
Big12 ベイラー大(11-2)21-16オクラホマ州立大(11-2)
Pac-12 ユタ大(10-3)38-10オレゴン大(10-3)
American シンシナチ大(13-0)35-20ヒューストン大(11-2)

Big12決勝戦の幕切れが劇的でした。5点差で負けているオクラホマ州立大が、第4Q残り3:30で自陣深くから最後の攻撃を開始します。大きく前進して残り1:23、敵陣ゴール前2ydでファーストダウンを獲得。このまま大逆転なるかと思いましたが、ベイラー大がゴールライン守備で奮起します。3回の攻撃を止めて、残り30秒で第4ダウン1yd。オクラホマ州立大は最後のオープンランに賭けましたが、パイロンまであと10cm届かず、二度目のBig12優勝と、初の全米王座への夢が消えました。

最終週終了後のランキング  College Football Playoff Rankings に基づく
1位アラバマ大、2位ミシガン大、3位ジョージア大、4位シンシナチ大 (5位ノートルダム大)

これにより「1位vs 4位」「2位vs 3位」の組み合わせで、全米大学選手権準決勝がおこなわれます。
初優勝をめざすシンシナチ大は一部校で唯一のレギュラーシーズン全勝でしたが、パワー5カンファレンスに属していないため4位という低いランキング評価を受けています。
ミシガン大は1997年以来、ジョージア大は1980年以来の、久々の王座復帰を目指します。
アラバマ大はレギュラーシーズン最終戦でオーバーン大に「首の皮一枚残す、薄氷を踏むような勝利」を挙げましたが、これによって割を食ったのがノートルダム大です。ここでアラバマ大が負けていたら一気に5位以下に下がり、ノートルダム大が4位となって大学選手権に出場していたでしょう。
オクラホマ州立大とノートルダム大を秘かに応援していたのですが、「清水が応援するチームは勝てない」という伝統は、今年も守られたようです。

「清水利彦のアメフト名言・迷言集」
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「今週の名言・迷言」を木曜日ごとに更新しています