清水利彦(S52卒)
shimizu.toshihiko2@gmail.com
1月30日の試合結果
- AFC決勝 ベンガルズ 27-24 チーフス
- NFC決勝 ラムズ 20-17 49ers
プレイオフ全体において、驚くべき下剋上の試合結果、驚くべき好試合の連続。そして、驚くべき新鮮なスーパーボウルの組み合わせとなりました。スーパーボウルがベンガルズvsラムズの対戦になるとは、シーズン前に誰が予想したでしょう?
ベンガルズはいちおう地区優勝してプレイオフに進みましたが、地区優勝チームの中では最低勝率(10勝7敗)でした。プレイオフで3つ勝って、ここまで13勝7敗ですが、そのうち7点差以内の試合がなんと11回もあります。(7勝4敗)手に汗握る試合を多数乗り越えて、ここまで進んできたわけで、ベンガルズ・ファンにとってはたまらないシーズンです。
一方、ラムズはここまで15勝5敗ですが、7点差以内の試合は6回だけで、全て勝利しています。ラムズ・ファンは「接戦になれば我々の勝ち」と自信をもっていることでしょう。
前回のコラムでベンガルズについて述べましたので、今回はラムズについて調べてみました。
1.ロサンゼルス・ラムズの歴史
1937年、クリーブランドにおいてNFL10番目のチームとして発足しました。創部85年目です。ユニコーンズ(創部1935年)の方が2年先輩ということになります。まだ米国南部や西海岸にはプロフットボールチームが無かった時代です。先に創設された9チームのうちブルックリン・ドジャースは9年後に廃部となっていますので、ラムズは現存のNFLチームとしては9番目に古いことになります。3回本拠地を移転しており、レイダースと並び、最多移転回数です。
- 1937-1945:9年間クリーブランド・ラムズ NFL選手権1勝0敗
- 1946-1994:49年間 ロサンゼルス・ラムズ NFL選手権1勝3敗 スーパーボウル0勝1敗
- 1995-2015:21年間 セントルイス・ラムズ スーパーボウル1勝1敗
- 2016-現在:6年目 ロサンゼルス・ラムズ スーパーボウル0勝1敗
- 通算戦績:599勝580敗21分 勝率.508
ラムズはクリーブランド、ロサンゼルス、セントルイスの3都市でチャンピオン経験があり、こんなチームは他にはありません。1999年以来22年ぶりの王座復帰をめざします。
ちなみにRAMとは「去勢していない雄羊」のこと。ラム肉やラムウールのLAMB(子羊)とは異なる単語です。
2.キレッキレの新鋭コーチ、ショーン・マクベイ
ラムズの歴史の中で「最悪の10年間」と言えば、2007~2016年でしょう。(46勝113敗1分(.289))
2015年のシーズン終了後にセントルイスからロサンゼルスに移転した時は、「あまりに弱いからセントルイスのファンに見捨てられたのか?」とまで言われました。LA移転の初年度も4勝12敗でした。
その時にラムズの経営陣が採った起死回生の策が、「30歳のヘッドコーチ、ショーン・マクベイを抜擢すること」でした。
<ショーン・マクベイとは?>
Sean McVay 1986年1月生まれですから、つい先日36歳になったばかりです。
祖父はNYジャイアンツでヘッドコーチだったジョン・マクベイ。49ers全盛期の球団経営幹部でもありました。90歳を超えた今もご存命です。父親もインディアナ大のフットボール選手でした。
ショーンはオハイオ州マイアミ大のWRでしたが、3年間で39レシーブ、TDなしと、たいした記録ではありません。それなのに卒業後すぐの2008年に、タンパベイ・バッカニアーズのWRアシスタントコーチとなります。このへんは祖父の影響力もあったのではないかと推察します。当時バッカニアーズのヘッドコーチは、2002年チームを初のスーパーボウル優勝に導いたジョン・グルーデンでした。
この後、マクベイはワシントン・レッドスキンズに移り、マイク・シャナハン(1997,1998年ブロンコスでスーパーボウル勝利)コーチの下で3年間タイトエンド・コーチを務めます。運良く、非常に優秀なコーチ達の下で働く経験を積み、コーチングを学んでいったようです。
2014年1月、ワシントンのコーチがシャナハンからジェイ・グルーデン(ジョン・グルーデンの弟)に代わると、マクベイはレッドスキンズの攻撃コーディネーターに抜擢指名されます。この時マクベイは弱冠27歳でした。チームには彼より年上の選手が何人も居たことでしょう。
3年間、攻撃コーディネーター経験を積み、2017年マクベイは30歳でラムズのコーチに指名され、NFL史上最も若いヘッドコーチとなりました。この時は「いくらなんでも若過ぎる」「無謀な抜擢」などの声もありましたが、マクベイは初年度から、前年4勝12敗だったラムズを11勝5敗地区優勝に見事復活させ、批判の声は消えました。そして翌2018年にはラムズをスーパーボウルまで進出させましたが、ペイトリオッツに3-13で敗れています。
まだ36歳と若いマクベイですが、既にNFLコーチ歴5年目で、通算戦績61勝29敗(.677)と堂々たる実績をそなえています。スーパーボウル2回目の挑戦で、頂点に立てるかが見ものです。
これまでの常識を打ち破った若手コーチの起用を成功させたことにより、NFL全体に「ヘッドコーチの起用年齢に関する概念」が変わりつつあり、「マクベイ効果(Sean McVay effect)」という言葉さえ生まれています。サイドラインに居る、ヒゲ面の苦みばしったコーチを是非ご覧ください。
前号コラムで、「ベンガルズを率いるのは38歳の若きコーチ、ザック・テイラー」と書きましたが、実は「ザック・テイラーは、ショーン・マクベイの元部下」であることを最近知りました。
30歳でラムズのコーチとなったマクベイは、アシスタントWRコーチとして自分より2歳年上のテイラーを起用しています。翌2018年にはテイラーをQBコーチに昇格させ、チームはスーパーボウル出場を果たしました。その結果としてテイラーが評価され、ベンガルズのヘッドコーチに指名されたわけで、「テイラーにとって、マクベイは恩人」と言う事も出来るのではないでしょうか。このあたりが試合にどう影響するかも注目されます。
3.老練QBマシュー・スタッフォード、執念のスーパーボウル出場
今シーズン開始前に、34歳のベテランQBマシュー・スタッフォードがライオンズからラムズにトレードされています。交換要員は27歳のQBジャレッド・ゴフに加えて、ラムズの2021年ドラフト3巡目指名権、2022年と2023年の1巡目指名権という、大型トレードでした。スタッフォードは2009年、ゴフは2016年に、それぞれドラフトの「いの一番」で指名されています。
デトロイト・ライオンズと言えば、「昔は強かったのに、今は面影もない」という印象のチームです。直近22年間でプレイオフ出場はわずか3回、地区の最下位に沈んだことが11回あります。その中で12年間、QBスタッフォードは孤軍奮闘しました。3回のプレイオフ出場は彼のおかげと言っても過言ではないでしょう。生涯通算パス獲得距離でNFL歴代12位と、既にレジェンドの域に入っています。
(ちなみにスティーラーズのベン・ロスリスバーガーが歴代5位、パッカーズのアーロン・ロジャースが10位。もちろん1位はトム・ブレイディ)
ライオンズ側から見ると、「年齢的に限界のあるスタッフォードを放出し、若いゴフを獲得してチームを再建する」ためのトレードのように思えました。ところが結果は、スタッフォードが技術と経験を活かしてラムズをスーパーボウルに導いたのに対し、ゴフが率いたライオンズは3勝13敗1分という無残な結果に終わり、明暗がはっきりしました。
34歳にして初のスーパーボウル出場となる名QBスタッフォード。きっと彼の人生の全てを賭けて晴れ舞台に臨むことでしょう。ラムズのQB#9にご注目ください。
皆さんの中で、「今年度のNFLの試合はほとんど見ていない」という方がおられましたら、You Tubeで「Los Angeles Rams vs. Cincinnati Bengals | NFL Super Bowl LVI Preview」をご覧になることをお勧めします。17分の英語版映像ですが、今季のダイジェスト版として充分楽しめますし、有力選手達や、二人の若きヘッドコーチの姿もご覧いただけます。
今年のスーパーボウルは大接戦になるような予感がします。いつも外れる私の予感が当たってくれれば嬉しいのですが・・・スーパー・サンデーは日本時間2月14日、月曜の朝です。会社をサボらずに、録画して観るようにしてくださいね。
「清水利彦のアメフト名言・迷言集」
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