【清水利彦コラム】頑張れ!バンダービルト大学!! 2022.04.28

清水 利彦(S52年卒)
shimizu.toshihiko2@gmail.com

私は昨年12月のコラムで、カレッジフットボールの「パワー5カンファレンス」について述べ、「今でも強大なSECリーグ(Southeastern Conference、アラバマ大・ジョージア大・フロリダ大など14校)に、2025年には更にオクラホマ大とテキサス大が加わります」と書きました。この時、私の脳裏には二つの懸念が浮かび上がっています。

  1. ますます「SECだけが強い」、「SECリーグの覇者が毎年ほぼ間違いなく全米王座に着くことになる」という傾向が顕著になるのではないか?今でも過去20年間にSECリーグのメンバーが12回王座に着いており、更にテキサス大の王座記録(1回)が加わることになる。一強独占の傾向は、カレッジフットボールの発展にとって決して良い事ではない。
  2. バンダービルト大の存在はどうなってしまうのだろう?超伝統名門校なのに、ますますSECリーグ内に居場所がなくなり、リーグを脱退するはめになってしまうのではないだろうか?

バンダービルト大については、どんな学校か詳しくご存じでない方も多いと思いますので、コラムで紹介し、この大学に応援のエールを送りたいと思います。

全米一の富豪、コーネリアス・バンダービルト氏(出典:Wikipedia)

バンダービルト大は、テネシー州の州都ナッシュビルで1873年に創設されました。(慶應義塾の創設は1858年。慶應義塾大学が大学令により正式に大学と承認されたのが1920年)
テネシー州一帯は1861~65年まで続いた南北戦争により、建物は破壊され、土地は荒廃し、人々は意気消沈していました。人材を育てることにより、この地を復興させ人々に希望を取り戻したいと考えたのが、海運業・鉄道業で財を成し当時全米一の富豪と言われたコーネリアス・バンダービルト氏でした。彼は百万ドルという当時としては巨額の寄付をおこない、バンダービルト大学が出来て、のちに南部有数の伝統校に発展したのです。
地元民や学生はこの学校をVanderbilt Universityと呼ぶことは少なく、Vandy(バンディー)の愛称で親しまれていますので、このコラムでもVandyと呼ぶことにします。

Vandyは次のような特徴を持ち、SECリーグの中では異色の存在です。

  1. 極めて学業レベルの高い、秀才ぞろいの学校です。フォーブス誌の全米大学アカデミックランキングで14位。ARWU(Academic Ranking of World Universities)では全世界で62位にランクされています。私はこの学校を自分勝手に「SECリーグの東大」と呼んでいます。有名な卒業生には、ビル・クリントン政権のアル・ゴア副大統領(映画「不都合な真実」でも有名)がいます。卒業生の中に州知事になった人が13名、ノーベル賞受賞者が7名います。
  2. 学生数は四年制大学生7100名、大学院生6700名、合計13800名です。SECリーグに加盟している他の大学は、皆、学生数3万~6万くらいのマンモス大学ですから、(慶應義塾大学は約34000人)Vandyは際立って小さい大学と言えます。逆に全学生の半数近く(48%)が大学院生というのは実に高い割合で、この学校の勉学レベルの高さを示しています。
  3. 東大は東京六大学の中で唯一の国立大学ですが、Vandyは真逆で、SECリーグの中で唯一の私立大学で、あとは全て州立大学です。
  4. ナッシュビルのダウンタウンから2キロ強という、街なかの学校ですが、非常に美しいキャンパスを持つ大学として有名です。キャンパスはさほど大きくありませんが、その中に観客4万人を収容できるフットボール専用球技場「バンダービルト・スタジアム」があります。

    街なかにありながら美しいバンダービルト大キャンパス(出典:Wikipedia)

     

  5. 四年制大学生がわずか7100名しかいない小さな学校が、高い学業レベルを維持しながら、体育会の超強豪リーグで戦ってゆくのは大変な困難と推察します。
  6. Vandyは昔、フットボールの超強豪校でした。1897-1923年の27年間に13回、南部地域リーグのチャンピオンとなり、1921,1922年はまだランキング制度発足前ですが、全米王座獲得の扱いを受けています。しかし1932年にSECリーグが発足し、当初から加盟していますが、90年間でまだ一度も優勝経験はありません。
  7. 最近ずっと弱かったわけではなく、2012年、2013年には2年続けて9勝4敗でランキング25位以内に入り、ボウルゲームにも勝利しています。この2年間で強豪のジョージア大、テネシー大、フロリダ大、オーバーン大に勝利するという大金星を獲得しています。しかし、その後は弱体化が続き、勝てなくなりました。

キャンパス内にある4万人収容のバンダービルト・スタジアム(出典:Wikipedia)

直近8年間のVandyの戦績は次のようになっています。

SECリーグ外との対戦 19勝11敗 .633
SECリーグ内での対戦 10勝55敗 .153
合計            29勝66敗 .305

と極端な差が出ています。SECリーグ同士の対戦でほとんど勝てなくなっているのです。

Vandyが弱くなったというよりは、SECの他校達が強くなり過ぎたという印象があります。アラバマ大やジョージア大などは、「カレッジフットボールのプロ化」を目指しているのではないかと思えるほどの強化ぶりです。そして2025年には、SECに更にオクラホマ大とテキサス大が加わるのです。

シカゴ大学は秀才揃いの名門校(大学学力ランク世界10位以内)として有名ですが、かつては文武両道で強力なフットボール部を持っていました。1892年から1924年まではミシガン大やミネソタ大を抑えて全勝優勝を何度も経験しています。しかし、「学生たちの意識があまりにもフットボールに集中しすぎる」との理由により、1939年に大学の意志によりWestern Conference(のちのBIG10リーグ)を脱退し、その後廃部としました。1969年に部活動を再開し、今はNCAA3部に所属しています。
バンダービルト大学がシカゴ大学と同じような経緯を辿るのではないかと、私は心配しています。

全米で「わが校は文武両道」と胸を張って言える大学が非常に少なくなってきたと、痛切に感じます。
Vandyは明らかにそのうちの一つであり、ぜひ今後もそうであり続けて欲しいと心から願います。
バンダービルト大学がSECリーグで優勝したり、全米王座に着く事があれば、「カレッジフットボール史上最大の番狂わせ」になることは間違いないでしょう。
Let’s Go Vandy!!!
(皆さんの中にバンダービルト大キャンパスを訪れた方がおられましたら、是非ご一報ください)

(アラバマ大との対戦を控えて、記者会見で心境を訊かれて)

「72才の老人が25才の女性と結婚して、
小学校の隣に、ベッドルームのたくさんある家を
買ったような気持ち、というところでしょうか。
要するに、『とにかく頑張るしかない』ということですよ。」

ウディ・ワイデンホッファー (バンダービルト大コーチ)

(アラバマ大が「プロのカレッジフットボールチーム」のように
どんどん強くなっていくことを妬んで)

「アラバマ大には絶対に勝てるわけがない。
我々はツー・プラトーン制を採っているが、あいつらは

  1. オフェンス・チーム
  2. ディフェンス・チーム
  3. 授業に出るチーム   のスリー・プラトーン制で来るからな。」

1968年、フランク・ハワード(クレムソン大コーチ)

 

「清水利彦のアメフト名言・迷言集」
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