【清水利彦コラム】3人の名QBのサインボール〈後篇〉フラン・ターケントン「史上最高のスクランブラー」 2022.08.11

清水利彦(S52年卒)
shimizu.toshihiko2@gmail.com

フラン・ターケントン

彼がどのような選手だったかと問われるならば、百の説明よりも次の画像を見ていただくべきでしょう。「史上最高のスクランブラー」(Greatest Scrambler Ever)という異名を取った理由がおわかりいただけると思います。(3分間のYou Tube映像です)オフェンスラインマン達の活躍ぶりにもご注目ください。

(213) Fran Tarkenton Highlights – Greatest Scrambler Ever – YouTube

私はターケントンに「ヘルメットを被った牛若丸」という仇名を勝手に付けています。
彼のもう一つの特徴は、「フィールドでひらりひらりと身をかわす姿と、防具を脱いだ時のサラリーマン然とした風貌が全く一致しない」点でしょうか。まるで「ある会社の経理課長が、社長に命令されてしかたなく、不本意ながら防具を付けて試合に出ている」という風情なのです。(笑)全然アスリートらしい顔立ちではありません。

引退後のフラン・ターケントン 実業家・経営者としても成功を収めています。この写真を見て「往年のNFL最高のQB」と想像出来る人は少ないでしょう。(出典:Wikipedia)

フラン・ターケントンは1940年に、メソジスト派の牧師の子供として生まれました。現在も82歳でお元気です。強豪ジョージア大にて、オールSECリーグのQBに2回選出されています。
1961年、ちょうどその年に新設球団として誕生したばかりのミネソタ・バイキングスからドラフト3位で指名されました。そして9月17日の開幕戦(つまりバイキングスの初めての試合)にスターターとして起用され、衝撃的なデビューを果たしています。この試合でターケントンは、4回TDパスを投げ、ランでも1TDを挙げて37-13でベアーズに逆転勝ちしました。「NFL入りして最初の試合で4回TDパスを投げた」という記録は、54年後の2015年にタイタンズのマーカス・マリオッタにタイ記録で並ばれましたが、いまだにターケントンが作った記録として残っています。

華々しいプロデビューを飾ったターケントンでしたが、創設されたバイキングスはその後勝ち切れず、6年間で29勝51敗4分でした。「ターケントンは優秀なQBだが、チームを優勝に導くほどではない」と判断されたのでしょうか、1967年彼は将来のドラフト権と引き換えに、NYジャイアンツにトレードされ、バイキングスはカナディアンフットボールリーグ(CFL)で活躍していたジョー・カップを正QBに起用します。
ターケントンが放出された年からバイキングスを率いたのが、同じくCFL出身のバド・グラント・コーチでした。一年目だけ負け越しましたが、バド・グラントはそこから10年以上に渡り、バイキングスの黄金時代を築くことになります。

ジャイアンツに移ったターケントンは、すぐにアール・モーラルとの正QB争いに勝ち、5年間に渡りほぼ全試合に先発出場します。この間4回プロボウルに選出されるなど、QBとしての能力は高く評価されるのですが、ジャイアンツは33勝36敗と波に乗れませんでした。

その時に手を差し伸べてきたのが、バイキングスのバド・グラント・コーチでした。1972年、ターケントンは32歳で、再びバイキングスにトレードで呼び戻されますが、この時は3人の選手と二つのドラフト権という高い代償を払っての交換でした。バド・グラントはターケントンの優秀さを再認識し、どうしても彼が欲しかったのでしょう。

1973年、メジャーの結果、ファーストダウンにわずかに足りなかったことを示す、33歳のフラン・ターケントン(出典:The Football Book, Sports Illustrated)

バド・グラントの目論見は見事に成功します。ターケントンは以後7年間38歳までプレーしますが、その間にバイキングスは64勝27敗2分と勝ちまくり、プレイオフ出場6回、スーパーボウル出場3回を果たします。

ターケントンは大器晩成の見本のような選手で、彼のパス記録の多くは35歳以上で作られており、「シーズン・パス成功345回、パス獲得距離3468yd」という彼の最高記録は、引退直前の38歳で樹立されたものです。ジョニー・ユナイタスが作った記録を次々と塗り替え、パスに関するほとんどの通算記録を、約20年後ダン・マリーノに破られるまで保持していました。ターケントンはプロボウル出場9回、1975年シーズンMVP、1986年プロ殿堂入り。背番号10はミネソタ・バイキングスの永久欠番になっています。

「生涯通算パス獲得距離」の最高記録推移を見ますと、「NFL最高のQB」の歴史と見事に一致します。「NFLリーディング・パサー」と名乗れるQBは85年間でわずか10名しか生まれておらず、ターケントンはそのうちの一人であったということです。

通算パス獲得距離でトップに立った選手のリスト(古い順)
※年次はNFL実働期間を示す

  1. サミー・ボー        1937-52    21886 yd
  2. オットー・グラハム     1946-55    23584
  3. ノーム・バン・ブロックリン 1949-60    23611
  4. Y.A.ティトル         1948-64    33070
  5. ジョニー・ユナイタス    1956-73    40239
  6. フラン・ターケントン    1961-78    47003
  7. ダン・マリーノ       1983-99    61361
  8. ブレット・ファーブ     1991-2010    71838
  9. ペイトン・マニング     1998-2015    71940
  10. トム・ブレイディ      2000-現在    84520

走れるQBターケントンは、ランでも3676ydを稼いでおり、もちろん当時はQBとしてNo.1でした。40年以上経過した今も、彼以上に走ったのは、ランドール・カニンガム、スティーブ・ヤング、マイケル・ヴィック、キャム・ニュートン、ラッセル・ウイルソンという、錚々たるランニングQBの5名しかいません。「パス+自らのラン」を要素に考慮するならば、ターケントンがQB史上第1位でしょう。

ターケントンは身長が183cmとQBとしては小柄で、すごく足が速いわけでもありませんでしたが、卓越した俊敏性とパス力、類稀なる状況判断能力によって「史上最高のスクランブラー」の異名を獲得しました。

1976年のフラン・ターケントン Photo by Malcolm W. Emmons 出典:The Sporting News selects Football’s 100 Greatest Players この写真は2000年にスポーティングニューズ誌が「NFL歴代最高の100名」というタイトルで編集した書籍に掲載されています。100名のうちQBから18名が選ばれており、ターケントンはそのうちの1名でした。

フラン・ターケントンにとって唯一欠けている点は「優勝経験がない」ことです。3回スーパーボウルに出場していますが全て敗れています。この点はY.A.ティトルも同じ事で、一方、長年控えQBだったアール・モーラルが3回の優勝を経験しているのは、「運命のいたずら」を感じます。

「3人の名QBのサインボール」の話に戻りましょう。1967年のモントリオール万国博覧会に「3人の名QBが来場し、人だかりが出来ていた」と書きましたが、正確には、この時点で有名でありスーパースターだったのはY.A.ティトル一人でした。アール・モーラルとフラン・ターケントンは、このサイン会の時点では「中流のQB」でしたが、その後に、とてつもない偉業を積み上げ、有名になっていったわけです。
私は3人の名QBのサインボールを持つことを誇りに思い、行列に並んでサインをもらってくれた父に感謝しています。皆さんの中で、「フットボールに関するお宝」をお持ちの方がおられましたら、是非お知らせください。

(3人の名QBのサインボール 完)


クォーターバックになろうとする選手へのヒントを示そう。

  • 自信を持て。自分自身を信じろ。
  • 常に大きな声でコールせよ。
  • チームのボスとなれ。
  • 相手チームの弱点を見出し、頭にたたき込め。
  • 雨で泥だらけのグラウンドでは、無理をせずパントで陣地を回復し、
    敵にプレーさせてファンブルを誘え。
  • チームを活気づけるのは自分の仕事だと思え。
  • 仲間を叱りつけてはいけない。全員を勇気づけるのが君の役目だ。
  • 不安なことがあっても、仲間に悟られてはいけない。
  • 風下の時はゆっくりプレーし、風上の時は早くプレーを出せ。
  • リードしているときはゆっくりプレーし、
    リードされているときは早くプレーを出せ。
  • 強いオフェンスを持つチームを相手にするときは、
    できるだけ攻撃に長い時間を掛けろ。
  • 試合がいかなる緊迫した状況になろうと、常にリラックスし冷静であれ。
  • 敵陣に攻め入ったときは、第一ダウンにベストプレーを使え。
  • ターンオーバーでボールを奪った直後は、敵のディフェンスが
    浮き足立っている。一気にロングゲインを狙え。
  • トリックプレーがうまく効く『相手の心のスキ』がいつであるかを見極めよ。
  • 自軍選手の長所短所を研究し、敵の長所短所を研究せよ。
  • たとえ相手のほうが身体能力で勝っていても、戦術に長けた優秀な
    クォーターバックはチームに勝利をもたらすことが出来る。」

ヌート・ロックニ ノートルダム大伝説の名コーチ
全米王座獲得3回(1924,29,30年)
1931年、飛行機墜落事故のため43歳にて死去
今から90年以上前の、1930年にこの名言が語られている
ことにご注目ください

「清水利彦のアメフト名言・迷言集」
https://footballquotes.fc2.net/
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