【清水利彦コラム】続・全米カレッジ プレシーズンランキング〈ユタ大学って、どんな学校?〉2022.09.01

清水利彦(S52年卒)
shimizu.toshihiko2@gmail.com

先週にご紹介したカレッジのプレシーズンランキングで、ユタ大が8位にランクされていました。長年のカレッジフットボール・ファンでも、多くの方はユタ大という名前をあまり聞いたことがないと思いますので、この機会にご紹介します。

ユタ州って、どんなところ?

ユタ州はビジネスにおいても観光においても、日本とは接点が少なく、どんなところか知らない人がほとんどだと思います。唯一、「2002年にソルトレークシティで冬季オリンピック大会が開かれた州」であることはご存知かもしれません。極めて特殊な成り立ちを持つ州です。

ユタ州ソルトレークシティ ロッキー山脈の麓の砂漠地帯に、突然美しい近代都市が現れます。出典:Wikipedia

実は私は26歳の時「ユタ州を訪れたことがある」珍しい人間です。米国留学中に、モルモン教徒の友人が結婚式を挙げるので、ソルトレークシティに招待されました。裕福な白人の家庭の息子だったため、往復の飛行機チケットまで送ってくれて、超ぜいたくな数日間をユタで過ごし、「金持ちの白人って、こんなに豊かな生活をしているんだ!」と目から鱗が落ちる思いでした。披露宴は男性全員タキシードの着用が義務付けられていて、この時レンタルで生まれて初めてタキシードを着ました。映画「ゴッドファーザー」のシーンさながらの、楽団付きの煌びやかな結婚披露宴は夢のようでした。

ユタ州は「モルモン教の総本山」というべき場所で、人口の半分以上がモルモン教徒です。訪問した時、最初は「どんな人たちなのか」と心配していましたが、極めて善人の紳士淑女ばかり(ほぼ全員白人)でした。ただし教義により酒が飲めないので、私は絶対に入信できません。(笑) 帰りがけに土産としてモルモン教の聖書をもらい、アパートに置いていたところ、当時のガールフレンド(のちの妻)が家の中にモルモンの聖書があるのを見つけて、「とんでもない人と知り合ってしまった」と大いにビビッたそうです。

ユタとは先住民の言葉で「山に住む人々」という意味があるそうで、ロッキー山脈の真っ只中にあります。平均の標高が1800mを超える高地にあり、一番高い山は4120mあるキングス・ピークです。州の面積は22万㎢で、日本の総面積の約60%ある広大な州です。それなのに人口は327万人しかおらず、1㎢あたり14人しか住んでいません。では人口が減っているのかというと、全くの間違いで、私がユタ州を訪れた1982年と比べると人口は倍以上に増えています。もともと先住民(アメリカン・インディアンのプエブロ族やナバホ族)以外は誰も住んでいない、砂漠の荒野だったのです。
今でも人口の80%近くが白人で、黒人は1~2%しかいないという「白人天国」です。逆に言うと有色人種には極めて住みにくい土地なのでしょう。

ユタ州ブライスキャニオン国立公園。もともとユタ州はこういうイメージの岩と砂漠だらけの土地でした。出典:Wikipedia

ユタ大学って、どんな学校?

ユタ州のフットボール強豪校としては、ブリガム・ヤング大が有名です。1984年度には全米王座に輝いています。この学校名は、モルモン教の二代目教祖ブリガム・ヤング氏に由来しています。(モルモン教の創始者はジョセフ・スミス)
ブリガム・ヤング氏は、若者たちに教育を与えるための機関として、二つの学校を設立しました。1850年に出来た最初の学校が、のちにユタ大学(University of Utah)という州立大学になり、1875年に出来た二つ目の学校がブリガム・ヤング大(Brigham Young University=BYU)という私立大学になりました。つまり二つの学校は同じルーツということになります。

ユタ大学のフットボール部は1905年創部で116年の歴史を持ちます。先住民にちなんでレッドスキンズというニックネームでしたが、人種差別に当たるとの指摘を受け、1972年にユーツ(ユタ人の意味)と改名していますが、いまだにワシントン・レッドスキンズを彷彿させるロゴマークを採用しています。ユタ大学ユーツとは、日本大学がニックネームを「日大ジャパニーズ」と付けるようなもので、ヘンな命名だと思っています。

ユタ大学のロゴマーク。レッドスキンズというニックネームは禁じられても、このロゴだけは使い続けるぞ、という大学の意地を感じます。出典:Wikipedia

創部以来の通算戦績は、670勝450敗30分 .596 と高い勝率を残しており、もちろん何度もリーグ優勝していますが、これには「からくり」がありました。ロッキー山脈周辺の、あまり強くない大学同士のみで長年リーグを組んでいたのです。(Rocky Mountain Conference、Mountain State Athletic Conference等、しばしばリーグ名称を変更しています)
1991年頃からユタ大は学校をあげてのフットボール部強化に本腰を入れて取り組み、ボウルゲームの常連校となりました。しかしリーグ自体が弱い為、マイナーボウルに呼ばれるだけで、メジャーな大会、メジャーな相手と対戦する機会はありませんでした。

2004年、ユタ大はレギュラーシーズンを11戦全勝で乗り切り、フィエスタボウルでもピッツバーグ大に勝ち、パーフェクトシーズンを初めて達成しましたが、最終ランクは4位でした。「田舎の弱いリーグの優勝校がたまたまボウルゲームに勝っただけ」と世間では受け止められていたのです。
そして2008年、ユタ大に歓喜と悲劇が同時に訪れます。

この年、シーズン開幕戦でユタ大は、ミシガン大を敵地にて25-23で倒すという大金星を挙げ、そのままレギュラーシーズンを12連勝してシュガーボウルへの初出場を果たします。シュガーではその時点でランク4位だったアラバマ大を31-17で破る二度目の大金星で、13戦全勝と二度目のパーフェクトシーズンを終えます。ところが、この年の全米王座は12勝1敗のフロリダ大であり、ユタ大の最終ランクは2位でした。ミシガン大とアラバマ大に勝っての全勝ですから、「本当はユタ大が一番強いんじゃないか?」という声は当然出ていました。

この時、ユタ大関係者は「今のリーグ(当時はMountain West Conference)に居る限り、いくら勝ち続けても永遠に全米王座には着けない」と痛感したことでしょう。パワー5カンファレンス入りを切望するようになりました。
2008年の大躍進も後押しして、2011年からユタ大は、USC他の強豪が居並ぶPAC-12リーグへの加盟という念願を果たします。加盟当初数年間はPAC-12の中位に甘んじましたが、昨2021年、USC・UCLA・スタンフォード・オレゴン等を次々に下し、加盟11年目で歓喜のリーグ初優勝を遂げます。今年の正月に行われた初出場のローズボウルはオハイオ州立大と対戦し、第2Qに一旦21-7とリードしましたが、逆転を許し38-55で敗れました。

2007年、ポインセチア・ボウルでネイビーを35-32で下したユタ大(赤)出典:Wikipedia

急速に力を付けて強豪校の仲間入りを果たし、今年もランク8位と予想されているユタ大学。前回ご紹介したベイラー大とは道のりが異なりますが、どちらも長い年月をかけて深い谷間から這い上がってきており、勝たせてやりたいと感じます。

ユタ大学の今シーズン開幕戦(9月3日)は、なんと2008年に全米王座を奪われた感のあるフロリダ大という因縁の相手です。ユタ大の有利が予想されていますが、フロリダのホームゲームですので、接戦になることは間違いないでしょう。
いよいよフットボールシーズン到来!寝不足の日が続くことでしょうね。

※モルモン教の歴史等については、薄っぺらな知識で書いておりますので、不正確な記述がありましたら、何卒ご容赦ください。

<追記>

今回のユタ大学の記事に関連して、清水さんご了承の下、以下の情報を追記させていただきました。(広報部会・横田 孝 H11)

ユタ大学には、慶應高校、大学UnicornsでWRとして活躍した工藤眞輝さん(慶應高校H31年卒業)がその後、渡米留学し選手として在籍しています。昨年、レベルの高い部内での競争に勝ち残り、見事ロスターに名を連ね、今年正月のローズボウルには選手としてサイドラインに立っていました。
昨年度は「Redshirt Freshman」として一年生扱いでしたので、今後も活躍のチャンスがあります。ご健闘をお祈りします!

 


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