【清水利彦コラム】カンザス州の謎 2022.10.06

清水利彦(S52年卒)
shimizu.toshihiko2@gmail.com

9月25日、全米カレッジでは、カンザス州立大が当時ランク6位のオクラホマ大を41-34で下すという金星を挙げました。現在4勝1敗でAPランク20位です。また、カンザス大も開幕5連勝と素晴らしいスタートを切り突如ランク19位に入り、今秋カンザス州のカレッジフットボール・ファンは大いに盛り上がっています。あとで詳しく述べますが、この両校ともが強いというのは奇跡と言ってもよいほど珍しいことなのです。
今回は、「カンザス州の謎」というテーマでコラムを書いてみたいと思います。

謎その1 カンザスシティなのに、カンザス州ではない?

私が「カンザス州は、まだ一度もフットボールで全米チャンピオンになったことがない、フットボール不毛の州です」と書いたら、皆さんはどうお感じになりますか?
「なに言ってんだ、こいつは?NFLカンザスシティ・チーフスが何度も優勝してるだろ!」というお叱りの声がバンバン聞こえてきそうですね。

実はカンザスシティ・チーフス(以下、KCチーフスと表記)はカンザス州ではなく、ミズーリ州にあります。ヘンな話ですよね。お馴染みのアローヘッド・スタジアムも、KCチーフスの本部も住所はミズーリ州です。(※1988年セントルイス・カージナルスがアリゾナに移転してしまったため、KCチーフスがミズーリ州唯一のNFLチーム)ついでに言いますと、大リーグ野球のKCロイヤルズも、野球場・本部ともにミズーリ州にあります。
カンザス州には、米国四大プロスポーツ(フットボール、野球、バスケ、アイスホッケー)のチームがひとつも存在しないのです。

この不思議な現象の種明かしをしますと、「カンザスシティという都市は、ミズーリ州とカンザス州にまたがって存在しており、なおかつ商業・経済の中心はミズーリ州側にあり、カンザス州側は経済規模が小さい。KCチーフスはミズーリ州側に存在し、ミズーリ州のチーム」ということなのです。

カンザスシティのダウンタウン これらの近代的な街並みはすべてミズーリ州側にあります。(出典:Wikipedia)

「またがって存在している」とは言え、州によって法律も制度も全く違うのですから、州の区別ははっきり付けなければなりません。ですからカンザスシティ市・ミズーリ州(以下、KCM)と、カンザスシティ市・カンザス州(以下、KCK)という、同じ名前の二つの市が、「くっついて並んでいる」のが実態と考えるべきでしょう。

KCMが面積830㎢・人口51万人なのに対して、KCKは面積330㎢・人口わずか15万人ですので、スタジアムの建設などはやはりKCM側に作ろうということになるのでしょう。KCKの住民がアローヘッド・スタジアムに行こうとすれば、最も州境に近い人でもクルマを20キロほど走らせなければなりません。
この不思議な成り立ちが、KCK在住者にとってチーフスを「おらがチーム」と呼びにくい状況を作っています。もちろんKCKにはチーフス・ファンがたくさん居ますが、実は西隣のコロラド州にあるデンバー・ブロンコスを応援している人も結構居るそうです。

もともとカンザスシティという町は、ミズーリ川のほとりにあり、船で農作物等の物資を運ぶための港町として繁栄してきました。KCからミズーリ川を下っていくとセントルイス(ここも港町から発展)があり、そこから下流は川の名前がミシシッピ川に変わります。ミズーリ川はミシシッピ川の上流であり、支流なのです。
ミズーリ川+ミシシッピ川で言いますと、長さ7000㎞を超えるという、とんでもない距離になります。(北海道から沖縄で約2500㎞)アマゾン川・ナイル川・揚子江に次ぐ世界で4番目に長い河です。アメリカ中央部の各主要都市は、すべてミズーリ川+ミシシッピ川に沿って作られてきたと言っても過言ではありません。

ミシシッピ川とミズーリ川を強調したアメリカ地図。米国中央部(多くは農業地帯)は、二つの川のおかげで経済発展していきました。(出典:Wikipedia)

カンザスシティという港町が形成されたのが1830年頃で、カンザス州が合衆国の一員として認められたのが1861年ですから、「町が先に出来ており、あとから州が出来て州境線が引かれ、カンザスシティという町は二つの州に分断された」ということなのだろうと解釈しています。
この辺の事情に詳しい方がおられましたら、是非お教えください。

謎その2 カンザス州の大学はなぜ弱い?

さて、カンザス州の謎・二番目は、「どうしてカンザス州の大学はフットボールが弱いのか?」を取り上げます。カンザス州の大学と言えば、カンザス大(University of Kansas)とカンザス州立大(Kansas State University、旧校名はカンザス農業大)が双璧ですが、歴史的に見てどちらも弱いです。

  • カンザス大   1901年創部、122年目。536勝645敗54分、勝率.453
    121年間でリーグ優勝5回、APランク入り7回。全米王座経験なし。
  • カンザス州立大 1912年創部、111年目。494勝617敗35分、勝率.445
    110年間でリーグ優勝3回、APランク入り13回。全米王座経験なし。

NFLのチームを持たない州はたくさんありますが、その代わりに強い大学チームを持つケースが多いのです。(アラバマ州、オクラホマ州、アーカンソー州、ネブラスカ州、アイオワ州、オレゴン州etc.)その点でカンザス州のフットボール・ファンは、プロチームがないし、カレッジも弱いので、長年寂しい思いをしていることでしょう。

両校のうち、より重症に見えるのはカンザス大です。簡単に言いますと「昔からもパッとしなかったが、最近ずっと特に弱い」チームです。昨年までの50年間で勝ち越した年は10回だけ。2010~2021の12年間で23勝118敗(.163)。一番多く勝った年でも3勝止まりでした。それが今年は突然開幕から5連勝したので大騒ぎになっているのです。開幕5連勝は2007年以来15年ぶりのことです。
カンザス大の体育会すべてが弱いわけではありません。バスケットボール部は、なんと今年春の全米大学バスケットボール選手権で優勝しています。全米王座獲得4回、通算勝率.729という超強豪です。「フットボールが弱くても、バスケが強いから、ま、いいか」という妥協もありそうです。

15000人収容できるカンザス大バスケットボールスタジアム。いつも超満員です。(出典:Wikipedia)

カンザス大のニックネームはJayhawks(ジェイホークス)。Jay(カケス)とHawk(鷹)で鳥を表わしますが、Jayhawkとは略奪者とか反逆者を示す言葉で、「ひどく変わった人」という意味もあるようです。名前は強そうなのに、ヘルメットのロゴマークは、まるでディズニーのキャラクターのような愉快な鳥のアニメです。あまりにも漫画チックな絵柄なので、ロゴマークを変えたらもう少し強くなるのではと、私は秘かに思っています。

カンザス大Jayhawksヘルメットロゴマークはまるで漫画

次はカンザス州立大について。
私は、カンザス州立大のキャンパスを訪れたことがある珍しい人間です。カンザス州立大のキャンパスは、カンザス州マンハッタンという人口5万人の田舎町にあります。学生数2万人ですから典型的な大学町です。私はニューヨークのマンハッタンに行くつもりで、間違ってカンザス州マンハッタンに着いてしまったわけではなく、ビジネススクールの入学試験会場だったので行ったのですが、定員20名ほどのプロペラ飛行機で訪れたところとんでもない田舎町でした。ニューヨークのマンハッタンは「ビッグ・アップル」と呼ばれますが、ここの人たちは自虐的に我が町を「リトル・アップル」と呼んでいます。

カンザス州マンハッタンのメインストリート。2005年の写真でこの状態ですから、1981年に私が訪れた時の田舎ぶりは推して知るべし、です。(出典:Wikipedia)

カンザス州立大フットボール部をひとことで表しますと、「昔ずっと長い間メチャクチャ弱かったが、最近かなり強くなってきた」チームです。1993年頃からチーム強化が実を結び、直近30年間でリーグ優勝3回(それまでは80年間一度も優勝できなかった)、ボウルゲーム出場22回と立派な戦績を残しています。先日オクラホマ大を破った試合が「番狂わせ」のように言われていますが、過去11年間でオクラホマ大6勝、カンザス州立大5勝と、ほぼ互角に戦っているのです。

ただし、その前にメチャクチャ弱かった時代の印象があまりにも強いので、「カンザス州立大=弱い」と刷り込まれてしまったオールドファンがたくさん居ます。かつては、NCAA一部校110校の中で一番勝率が低いのがカンザス州立大でした。特に2回の暗黒時代が有名です。

1940年~1952年 13年間で17勝100敗5分 勝率.145 ボウルゲーム出場なし
1983年~1989年 7年間で10勝65敗2分 勝率.133 もちろんボウルゲーム出場なし

ちょうど私が名言・迷言集を熱心に読みだしたのが1990年頃、カンザス州立大の第二次暗黒時代のすぐ後だったので、各書籍にはこの大学の弱さに関する迷言がたくさん掲載されていました。
傑作迷言が多数ありますので、いくつかをご紹介します。

(創部以来93年間で299勝509敗41引分 勝率.370の成績が、
NCAA一部校のワースト記録である、と指摘されて)
「この93年間を、『運が悪かった』の一言で片づけるのは
あまりにも悲しい。」

ビル・ミラー カンザス州立大体育局長

(ビッグ8リーグに加盟して以来、40年間一度も優勝していない
カンザス州立大のコーチに就任して)
「学長に、こう約束したんだ。 『私がコーチになって、
もし40年間優勝できなかったら、責任をとって辞めますから』って。」

ジム・ディッキー カンザス州立大コーチ

(ラン主体のオフェンスから、パス主体の攻撃に変更して)
「昨年までウチは、
第1ダウン・ラン、第2ダウン・ラン、第3ダウン・ラン、第4ダウン・パント
というようなチームでした。今年はおそらく
第1ダウン・パス、第2ダウン・パス、第3ダウン・パス、第4ダウン・パント
というようなチームになるでしょう。」

スタン・パリッシュ カンザス州立大コーチ

(珍しく接戦に持ち込んだのに、逆転を狙った試合終了直前のFGがブロックされて負けて)
「ブロックされた瞬間は、私の所からは見えなかったが、ボコッという大きな音が聞こえたよ。
私がゴルフ場で4番アイアンをミス・ショットして、大木を叩いてしまったような音だった。」

スタン・パリッシュ カンザス州立大コーチ

(負け試合の後、選手たちを集めて)
「試合に負けても、それがこの世の終わりではない。
もし、そうなら、諸君はとっくの昔にこの世を去っている。」

ビル・スナイダー カンザス州立大コーチ

(1987年、0勝10敗1引き分けのシーズンを終えて、OB総会のスピーチで)
「最悪のシーズンでした。こういうことはもう二度と起こらないとお約束します。」

スタン・パリッシュ カンザス州立大コーチ
※翌1988年、パリッシュ率いるカンザス州立大は0勝11敗となり
コーチはクビになりました

皆様ご存じの通り、私は「かつて弱かったが、谷底から這い上がり、強くなっていくチーム」を見るのが大好きで、カンザス州の二つのチームを応援しています。
頑張れ、カンザス大!! 頑張れ、カンザス州立大!!


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