【清水利彦コラム】ユタ大の特製ヘルメット 2022.10. 27

清水 利彦(S52年卒)
shimizu.toshihiko2@gmail.com

前号コラムで、10月14日ユタ大(4勝2敗)が当時ランク6位で6勝0敗のUSCを、43-42の劇的スコアで破ったことをお知らせしました。この試合の最後の逆転劇、およびユタ大ファンたちの歓喜の姿をご覧になりたい方は、下記You Tube でどうぞ。第4Q残り6分からの映像を4分強に編集しています。

(379) #7 USC vs #20 Utah THRILLING Ending | 2022 College Football – YouTube

試合内容も凄かったですが、私がこの試合で一番驚いたのは、ユタ大選手達が被っているヘルメットでした。なにやら人の顔のようなものが、ヘルメットの両側に大きく映っているのです。正直に申し上げて、はじめ私は「ブキミだ」と感じました。

ユタ大ヘルメットの右側

ユタ大ヘルメットの左側 斜め後ろから撮影したもの

USC戦の一週間前、ユタ大はUCLAとのアウェイ試合(負け試合)では、昔ながらのロゴが付いたヘルメットを被っていますので、この「人の顔ヘルメット」はPac 12リーグ最強の敵、USCを地元ユタ州で迎え撃つために特別に用意されたヘルメットであると考えました。
何か理由があってやっていると感じましたので調べてみたところ、驚くべき事実がわかりました。浅い知識にて書いていますので、正しくない記述がある場合は何卒ご容赦の上、ご指摘ください。

ヘルメットの両側に描かれた顔は、ユタ大の元選手2名、Ty JordanとAaron Loweです。
タイ・ジョーダン選手は2年前の2020年に入学した優秀なRBでした。一年生ながら大活躍して、Pac 12リーグの最優秀オフェンス新人賞を獲得しており、将来を非常に有望視された部員でした。彼の新人賞受賞は、2020年12月24日(クリスマス・イヴ)に発表されましたが、その翌日12月25日に、ジョーダンは実家のあるテキサス州にて銃で撃たれ、19歳で死亡しています。彼の告別式は翌年1月6日に、テキサス州アーリントンのAT&Tスタジアムにておこなわれ、ユタ州からチャーター機でコーチングスタッフ・部員ほぼ全員が参加しました。

ジョーダンの死を悼んで、「タイ・ジョーダン・メモリアル奨学金」という制度が発足され、最初の受賞者がDBアーロン・ロウ選手でした。ロウは、ジョーダンの同期チームメイトであり、しかもテキサス州ウエスト・メスキート高校から一緒にユタ大に入学した親友同士でした。アーロン・ロウは、ジョーダンの意志を受け継ぎたいと、ジョーダンが付けていた背番号22を自分が背負うことにしました。
ところが、ジョーダンの死から9か月後の2021年9月26日(翌シーズン開幕後すぐ)、アーロン・ロウ選手も銃で撃たれて死亡しています。
ユタ大は二人の付けていた背番号22を永久欠番としています。

今回のUSC戦は、二人の死を悼んで特別なヘルメットを用意し、今シーズン最大の難敵であるUSC戦に選手のモチベーションを上げようという企画であったと受け止めています。劇的な勝利をおさめたのですから、この企画は大成功であったと言えましょう。試合後、ユタ大の選手が興奮のあまり泣きながら握手を交わす映像もあり、この試合に賭けた意気込みが伝わってきます。

今回、ユタ大特製ヘルメットの意味を知って感じたことを申し上げます。

アメリカの銃社会って、いったいどうなっているのでしょう?銃で撃ち殺されるという、有り得ない事態が、同じ大学チームの中で9か月間に2回起こっているのです。
アーロン・ロウ選手の場合、事件の原因は「友人宅でおこなわれたパーティーに参加していたところ、招待されていない者が加わろうとした。入れる・入れないで口論となり、相手が発砲した」とのことです。こんなことで大切な命が失われなくてはならないのかと情けなくなるような話ですし、撃った方も大きく人生を狂わす結果となり、さぞかし後悔していることと思います。
ジョーダン選手については、銃撃の原因について資料に記述が見当たらずわかっていません。
些細なケンカや酒に酔っての行動が、銃を持っていることにより大変な事件につながるケースが多いと伺っています。本当に恐ろしいことですし、根深い社会問題と感じます。

「人の顔写真をヘルメットの球面部分に印刷する」などということが、今の時代には可能なのですね。どうやっているのでしょうか?詳しいことをご存じの方、お教えください。この特製ヘルメットは試合後どうするのでしょうか?画像を剥がして、色を塗り直したり、別のロゴを貼り付けたりするのでしょうか?1試合だけしか使わないということであれば、あまりにも勿体ない気がします。また、何度もぶつかって傷だらけになることを前提としたヘルメットの表面に、亡くなった、愛する人の顔写真を映すという行為が、少し日本人の感覚とは違うように思います。
もし私がユタ大の関係者だったら、「22という刺繍を入れたワッペンを作って、ジャージに縫い付けるという方法でどうだろうか?」と提案したでしょうね。

ユタ大のケースは「二人の部員の死」に基づく非常に特殊な事情であるので、この企画はこれで良いと感じます。ただ、ユタ大の企画が成功したことで、今後いろいろなチームが事あるごとに新しいデザインのユニフォームを繰り出して、モチベーションを上げる作戦とする事には、私は反対です。

近年、カレッジフットボールのユニフォームが華美で、過度に贅沢になっていると感じます。例えば、オレゴン大は、常時使用しているデザインだけでも5種類のユニフォームを用意しており、ヘルメットやパンツの組み合わせを変えれば、膨大な種類のユニフォームを持っている事になります。この他にも、特別なイベント試合の際に使用する特製ユニフォームも存在するとのこと。実際、オレゴン大は毎試合のようにユニフォームを変えて戦っています。「これがオレゴン大の姿だ」と簡単にイメージ出来るユニフォームがないのです。

オレゴン大の5種のユニフォーム。 出典:Wikipedia

オレゴン大OBがナイキ社の役員になっていることから、同大学はナイキ社との専属使用契約を何年も続けているのだそうです。オレゴン大が「ナイキ社が提供してくれるのだから、ユニフォームがいくつ有っても良いだろう。」と考えているのであれば、ちょっと首を傾げます。

実は日本のスポーツ界でも同様の問題を感じています。阪神タイガースは短期間ではありますが、シーズン中に「ウル虎の夏」なる特別なユニフォームで試合をしています。

阪神タイガースのウル虎の夏ユニフォーム。毎年夏にこういうイメージのユニフォームを使用し、かつデザインが毎年変わります。

虎の顔の、どアップをあしらったデザインは、「派手好きな大阪のオバチャンが、買い物に行くときの定番、虎柄シャツ」にそっくりで、これを試合で選手に着させる球団の方針に、オールドファンである私は複雑な思いをしています。ちなみに大阪の街は、「虎柄やヒョウ柄のシャツを着て歩いているオバチャンに出会う確率が、世界一高い街」であると確信しています。笑

全米カレッジで、一番地味なユニフォームを長年に渡り、変えずに使用しているのは、Penn State(ペンシルバニア州立大)でしょうね。すごくシンプルで、ヘルメットもロゴなしですが、「伝統に裏打ちされた首尾一貫性」が感じられてカッコイイと思っています。他にもアラバマ大、オクラホマ大などが「ユニフォームを変えない、伝統の強豪校」であると感じます。

オハイオ州立大は、ある時突然、上下チャコールグレーのような濃いドブネズミ色系のユニフォームを着て現れたので仰天しました。テキサスクリスチャン大は、かつて上品な青紫色で好きだったのですが今はやはりドブネズミ系で、しかも先週と先々週で微妙に背番号の色等が違いますね。試合ごとに「ちょっとユニフォームを変えてみました」というような風潮があるのかなと推察しています。

「変えないことの価値」を理解するチームが絶滅しないことを心から願っています。

長年同じユニフォームでプレーするペンシルバニア州立大 出典:Wikipedia


「清水利彦のアメフト名言・迷言集」
https://footballquotes.fc2.net/
「今週の名言・迷言」を木曜日ごとに更新しています
左下の「三田会コラム」という黒い小さなバーをクリックして
いただくと、これまでのコラムのアーカイブがご覧いただけます