【清水利彦コラム】全米カレッジ史上、最も愚かな反則 2022.12.15

清水 利彦(S52年卒)
shimizu.toshihiko2@gmail.com

皆さんは、全米カレッジ一部校の中で唯一、「正式な大学名称で呼ばれることはなく、常に通称名で呼ばれる大学」があることをご存知でしょうか?

それはミシシッピ大学です。大学の正式名称はUniversity of Mississippiですが、そう呼ばれることはまず有りえず、誰もが「Ole Miss(オール・ミス)」と呼びます。私がコラム執筆のため毎回閲覧するデータサイト「College Football Reference」にもMississippiだからと言って「M」の欄をいくら探してもミシシッピ大のデータは見つかりません。もしやと思い「O」の欄を探すと「Ole Miss」として載っているので、「どうなっているんだ!?Ole Missが正式名称なのか?違うだろ!」と叫びたくなります。

ではOle Missがミシシッピ大のニックネームなのかと言うとそれも間違いで、Rebels(反逆者)というニックネームが別途存在し、フットボール部は「Ole Miss Rebels」と呼ばれます。Oleというのはかつて南部の人間がOldをくだけて言った言葉ですから、Ole Missで「古き良きミシシッピ」というような意味合いなのでしょう。Mississippiというのは米国人にとって、とても発音しにくい厄介な名前なので、呼ばなくて済むようにOle Missとなったのではないかと推察しています。

ミシシッピ大はSECリーグに所属する名門校で、1960年には全米チャンピオンになったこともある強豪です。同じ州からミシシッピ州立大(Mississippi State University こちらはちゃんとミシシッピと読まれています!)と2校だけSECリーグに参加していますので、両校は毎年激しいライバル争いを繰り広げており、通算でOle Missの64勝47敗6分と拮抗しています。今年も両校とも8勝4敗と、かなり高いレベルを維持しています。

1960年、全米王座に輝いたミシシッピ大(Ole Miss)。全員白人のチームでした。出典:Wikipedia

今回はミシシッピ大(OM)とミシシッピ州立大(MSU)との伝統ある対校戦で発生した、名門ミシシッピ大が大恥をかいた珍事件についてご紹介します。

わりと最近、2019年11月28日のことです。MSUの地元でおこなわれたシーズン最終戦は大接戦となりました。MSU21-14OMとリードされて最後の反撃に出たミシシッピ大は、残り4秒の絶体絶命の場面からロングパスを受けたWRムーアがギリギリで見事なタッチダウンを決めました。

ミシシッピ大応援席が湧きたち、「同点、そして延長戦へ突入」と誰もが思った、その瞬間でした。WRムーアが喜びのあまり、何を思ったかエンドゾーンで四つん這いになり、犬のようにごそごそと動き回ったあげく、右足を上げて、なんと犬が小便をするようなポーズを取ったのです!

2019年ミシシッピ大ムーア選手 カレッジ史上、最も愚かな反則の瞬間

これを見た審判は直ちにフラッグを投げ、パーソナルファウル(アンスポーツマンライク・コンダクト)をコールします。15ydの罰退はトライ・フォー・ポイントのプレーに科せられ、本来ならば敵陣ゴール前3ydからのキックであるはずが、18yd地点からのキックに変わりました。それでも通常ならばさほど難しいキックではなかったでしょうが、突然の状況変化にキッカーやホルダーは平静を失ったのでしょう。キックを外してしまい、MSU21-20OMで試合は終了しました。

大勢のミシシッピ大ファンが呆然と立ちすくみ、ミシシッピ大のコーチがムーアを大声で怒鳴りつける映像が残されています。ヒーローであったはずのWRムーアが一瞬で大犯罪人となった瞬間でした。私はこのプレーを自分勝手に「全米カレッジ史上、最も愚かな反則」と呼んでいます。

ムーア選手は、この日から長い年月をかけて自らの愚かな行為の報いを受け続けることでしょう。「Doggy Moore(ワンちゃんムーア)」というような悲しい仇名を背負って今後の人生を過ごすことになるのではないでしょうか。

喜び過ぎたあまりに愚かな行為をして、ひどい結果を生んでしまうのは、どうもアメリカ人によくある習性のようで、本件だけでなくこれまで何度も目にしています。

どこのチームだったか忘れましたが、NFLでもRBが独走態勢となり、ゴールライン寸前まで来たのにわざとスピードを落とし、片手でボールを持って両手を左右に広げ、キリストが十字架にかけられたようなポーズをとりました。そこに必死で追いすがったDBが腕を弾いたため、ボールは転がってエンドゾーンから飛び出し、タッチバックとなりました。

ロングパスを捕って独走したWRが、相手選手をからかおうとしてエンドゾーンに入らず、1yd地点を真横に走って、背後から来た敵にタックルされたプレーも見たことがあります。

そんな失敗が何度も起こっているのに、エンドゾーンの手前でわざとスピードを落として「ザマ見ろ」と言いたげなポーズをとる選手は、今でも後を絶ちません。「愚か者たち」と感じています。コーチは選手にどのような教育をしているのでしょうかね。

試合の点数とは関係ない話ですが、つい先日も「愚かだな」と思う光景を見ました。

11月26日におこなわれたミシガン大vsオハイオ州立大の事です。両校ともそこまで全勝で、ランク2位(オハイオ)対ランク3位(ミシガン)の激突となったため大変な注目を集めました。前半はほぼ互角でしたが、アウェーのミシガン大が後半に圧倒的な力を見せ、45-23の大差で快勝しました。オハイオ州立大の地元コロンバスでミシガン大が勝ったのは、なんと2000年以来22年ぶりのことでした。

ミシガンの選手達の喜びはわかりますが、まだ試合時間が数十秒残っているのに、サイドラインで15名ほどのミシガン選手がワーワーギャーギャーいいながら重なりあって、なんと記念撮影のカメラに向かいポーズを作ったのです。

おそらくサイドラインに立つ許可を得ているプロカメラマンが、本来撮るべきではない早過ぎるタイミングでベンチを撮影しようとしたために起こった行為であり、責任はカメラマンにあると思われますが、写真にポーズを決めた選手達や、行為を許したコーチ陣にも問題はあります。このような傲慢な行為を許していたら、いつかはミシシッピ大のような大失敗や不祥事が起こるぞと私は言いたいです。

オハイオ州立大vsミシガン大の決戦では、昔から私はミシガンを応援していましたが、今回の件を見て、この学校を応援する気持ちがすっかり萎えました。

今回のコラムで紹介した問題行為の共通点は、全て「勝っている時」「喜びで有頂天になった時」に起こっていることです。崖っぷちに立って苦しんでいる時には愚かな行為は発生しないのです。我々はこの珍事件を他人事と思わず、勝った時、有頂天の時こそ、自分達を戒める教訓にすべきと、私は考えています。

 

「勝ったときには謙虚にならねばならないし、

負けたときにも謙虚にならねばならない。

そして、負けたときに謙虚になる人間は、いつか必ず勝つ。」

     ポール・ベア・ブライアント  アラバマ大コーチ

「清水利彦のアメフト名言・迷言集」

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