昭和52年(1977年)卒 清水利彦
shimizu.toshihiko2@gmail.com
日本の大学フットボール界はいよいよ大詰めですが、一方、今年の全米カレッジフットボールは面白い!毎週ワクワクしながら試合結果を追っています。
何がどう面白いのか、ご紹介しますね。(11/14の時点でこの原稿を書いています)
全米大学選手権の制度改革が面白い!
今年度から王座決定が12校(昨年までは4校)によるトーナメント方式に変更されています。CFP(College Football Playoff)ランキング12位までがトーナメントに出場できます。(APランクは関係ありませんので、今後はCFPランキングに基づいて話をします)つまり12位以内に入るのと、13位以下では天国と地獄ほどの差があります。11月14日時点でのCFPランキングは次の通りです。
1位 オレゴン大 BIG TEN 10勝0敗 (残り試合 ウイスコンシン、ワシントン)
2位 オハイオ州立大 BIG TEN 8勝1敗 (オレゴン大に負け)
3位 テキサス大 SEC 8勝1敗 (ジョージア大に負け)
4位 ペンシルバニア州立大 BIG TEN 8勝1敗 (オハイオ州立大に負け)
5位 インディアナ大 BIG TEN 10勝0敗 (残り試合 オハイオ州立大、パデュー)
6位 ブリガムヤング大 BIG12 9勝0敗 (残り試合 カンザス、ヒューストン他)
7位 テネシー大 SEC 8勝1敗 (アーカンソーに負け、残り試合 ジョージア大他)
8位 ノートルダム大 独立校 8勝1敗 (ノーザンイリノイ大に負け、残りアーミー他)
9位 マイアミ大 ACC 9勝1敗 (ジョージア工科大に負け)
10位 アラバマ大 SEC 7勝2敗 (バンダービルト、テネシーに負け)
11位 ミシシッピ大 SEC 8勝2敗 (ケンタッキー、LSUに負け)
12位 ジョージア大 SEC 7勝2敗 (アラバマ、ミシシッピに負け)
以下、13位ボイジー州立大8勝1敗、14位サザンメソジスト大8勝1敗、15位テキサスA&M大8勝2敗と続きます。
昨年までなら、既に2敗しているアラバマ大やジョージア大に全米王座の可能性はありませんが、今年は12位以内に入れば十分チャンスが残ります。シーズン終盤の緊迫感が高まりました。
シーズン前半のベストゲームというと、オレゴン大vsオハイオ州立大でしょうか。17分の長尺ですが、You Tube画像で是非ご覧ください。
#2 Ohio State vs #3 Oregon (CRAZY GAME!) | Full Game Highlights | 2024 College Football Highlights
首位を走るオレゴン大が面白い!
トップをひた走るオレゴン大は、まだ全米王座の経験がありません。しかもチームを率いるのは、まだヘッドコーチ経験が3年目の弱冠38歳のダン・ラニングです。
ダン・ラニングは、ウイリアム・ジュエル・カレッジ(ミズーリ州)という三部校でLBをしていました。学生数わずか850人の超無名大学です。当然プロに進めるわけはなく、大学卒業後、地元の高校でアシスタントコーチをしていました。
ある時、ラニングが高校界のコーチングクリニックに参加したところ、ピッツバーグ大学コーチのトッド・グラハムが講師として来ていました。ラニングはグラハム・コーチに必死で請願して、無報酬で良いから自分をチームに入れてくれと頼みます。願いが叶って2015年、25歳でNCAA一部校であるピッツバーグ大の見習い生Graduate Assistant として雇われます。ここから7年間で5つの大学を渡り歩き、アシスタントコーチとしての実績を積み上げていきました。コーチではなく、リクルート・コーディネーターというスーツ組の仕事に就いていた時期もあります。
2018年、ジョージア大のLBコーチとして採用され、名将カービー・スマートの元で働きます。ラニングはよほどカービー・スマートに気に入られたのでしょう。わずか1年で守備コーディネーターに昇格。2021年にジョージア大は全米王座を獲得。この功績によりダン・ラニングには、オレゴン大からヘッドコーチのオファーが来ました。まさにアメリカン・ドリームの実現です。
オレゴン大としては、思い切った賭けに出たものです。まだ一度もヘッドコーチをしたことがない当時35歳のアシスタントコーチと「6年間で2900万ドル(約44億円)」という巨額の契約を結びました。この賭けは今のところ大成功です。ここまでラニングは3年目で32勝5敗、ボウルゲームに2連勝と、見事に期待に応えています。ラニングは果たしてオレゴン大を「部創立107年目にして、初めての全米王座獲得」に導くことが出来るでしょうか。
下剋上満載で面白い!
今年の全米カレッジは、UPSETがすごく多いと感じます。アラバマ大がバンダービルト大に負け、ノートルダム大がノーザンイリノイ大に負けたことは既にご紹介しました。ノートルダム大はこの1敗がなければ9戦全勝でCFPランキングの首位に居たかもしれず、あきらめきれない気分でしょうね。
伝統の強豪校がいくつもボロボロ負けているのも、今期の特徴です。ミシガン大(昨年全米王座)5勝5敗、ワシントン大(昨年全米2位)5勝5敗、オクラホマ大5勝5敗、USC4勝5敗、オーバーン大3勝6敗、フロリダ州立大(昨年全米6位)1勝9敗 等々・・・
USCは5つの敗北が全て7点差以内で、決して弱いわけではないのですが勝利に恵まれません。
アーミーとインディアナ大学の快進撃が面白い!
アーミー(陸軍士官学校)が9勝0敗、インディアナ大が10勝0敗と、ここまで負け知らずで来ています。この2校が全勝というのは実に大変な事なのですよ!
<アーミー(陸軍士官学校)>
アーミーの開幕から9連勝は、1949年以来75年ぶりのこと。1949年は奇しくも第4回甲子園ボウルで慶應が関学と初対戦し敗れた年でもあります。この時はレギュラーシーズンが9試合しかないので、全勝で終えたのですが、APランクの投票で4位となっています。
そこから長い長い低迷期を経て、復活し今年の好成績となりました。アーミーの戦績の歴史は、下記のコラムで詳しく述べています。
【清水利彦コラム】甦れ!アーミー!2021.04.01 | アメリカンフットボール三田会
アーミーはずっと独立校(Independent)だったのですが、今年からネイビーが既に所属しているAmerican Athletic Conferenceに加わりました。このリーグ(タルサ大、ライス大等)はNCAA一部の中では格下と見られており、そのため9戦全勝でもCFPランキングは24位と、あまり高くありません。
アーミーは11月23日に8位のノートルダム大と対戦します。当然下馬評はアーミー不利ですが、もしノートルダム大に勝つようなことがあれば、一気にランキングが上がり、選手権出場の12位以内に入って来る可能性もあります。アーミーが全米選手権で優勝するようなことがあれば、1944,45年の全米王座獲得以来79年ぶりのこととなり、たぶん「21世紀全米スポーツ界最大の快挙」の一つと呼ばれることになるでしょうね。
<インディアナ大>
インディアナ大は1820年創立という長い歴史を誇る名門大学ですが、フットボールにおいては、同じインディアナ州にあるノートルダム大やパデュー大に戦績でかなり見劣りしています。
ノートルダム大 勝率.730 全米王座11回
パデュー大 勝率.515 全米王座なし、BIG TEN優勝12回
インディアナ大 勝率.423 全米王座なし、BIG TEN優勝2回
過去30年間で勝ち越しが3回しかなく、「BIG TENリーグのお荷物」扱いされていました。
そんなチームが開幕以来10連勝を飾り、今シーズン最大の話題になっています。創部(1899年)以来126年目で初めてシーズン10勝を果たしました。これまでの最高は1945,1967年の9勝でした。
インディアナ大で何が変わったのかと言えば、やはり「コーチが代わった」ことに尽きるでしょう。
今年からカート・シグネッティという人がヘッドコーチに就任していますが、この人は着任したばかりの63歳のコーチなのです。ウエストバージニア大でQBとして活躍しましたが、プロからは声がかからず、フットボール・コーチの道を歩みます。7つの大学で22年間アシスタントコーチとして下積み経験を重ねました。アラバマ大(2007-2010)ではニック・セイバンの下でWRコーチとして全米王座を経験しました。
50歳になって初めてIUPという無名の三部校ヘッドコーチになり、イーロン大、ジェームス・マディソン大という二部校でも、合わせて119勝35敗(.772)という好成績を積み上げました。ジェームス・マディソン大においては、在任中に同大を二部から一部校へ昇格させる経験もしています。
そして63歳にして初めて、メジャーなリーグBIG TENのヘッドコーチに就任したわけです。
昨年の3勝9敗という「いつも通りの戦績」から一転し、開幕戦からオフェンスが猛威を振るって勝利を重ねました。ワシントン大、ミシガン州立大という難敵を撃破し、11月10日にはついにミシガン大を20-15で退けました。11/14現在のCFPランキングは5位です。インディアナ大vsミシガン大の模様は下記You Tube画像でどうぞ。(10分)
No. 8 Indiana vs Michigan: FULL GAME HIGHLIGHTS | Big Ten on CBS
インディアナ大は11月23日に現在2位のオハイオ州立大と対戦します。当然下馬評は不利ですが、もし勝利するようなことがあれば、こちらも大騒ぎになることは間違いありません。
オレゴン大、アーミー、インディアナ大、頑張れ!!
「清水利彦のアメフト名言・迷言集」
https://footballquotes.fc2.net/
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