前回のコラムで、ノートルダム大学vs南カリフォルニア大学(USC)定期戦について述べました。今回はその続きです。
ノートルダムという大学は、全米カレッジフットボールにおいて極めて「特別な存在」です。
カレッジフットボールに関する原書を私は多数所持していますが、その中で「ノートルダム」という言葉が一度も登場しない本など、ありえません。
ブログ「清水利彦のアメフト名言・迷言集(https://footballquotes.fc2.net/)」には約1600の名言・迷言が掲載されていますが、そのうちの実に107個には「ノートルダム」という言葉が含まれています。こんな語句は他にはありません。(ちなみに「アラバマ大」という語句を含むものが51個)
そこで、「なぜ、ノートルダム大学は全米カレッジフットボールにおいて特別な存在なのか」という疑問を掘り下げる企画を考えてみました。至る所に膨大な資料がありますので、とても1回や2回のコラムで全てをご紹介することはできません。「ノートルダム大、珠玉の指導者達」、「ノートルダム大の忘れえぬ名選手たち」、「ノートルダム大、伝説の名勝負」など様々な切り口が考えられますが、今回はまず、「ノートルダム大学という学校そのものの、価値と魅力、そして特殊性」について述べてみたいと思います。
ノートルダム大学に関しては、ユニコーンズ卒業生の中にも私より詳しくご存じの方がおられることと確信しています。「ノートルダムを紹介するならば、この点を抜かしてはダメだよ」とか「記載内容が間違っているよ」等というご注意の声を歓迎いたします。
ノートルダム大学はインディアナ州サウスベンド市にある、と昔から思い込んでいましたが、正確にはサウスベンド市の北側にあるノートルダムという町に所在します。町の名前が大学より後から付いた、典型的な大学町ですね。サウスベンド市は、シカゴからミシガン湖を回り込むように東に150kmのところにあります。ミシガン湖は「湖」と言っても、南北500km、東西200kmある、とんでもなく巨大な水域です。サウスベンド市の人口は10万人強、ノートルダム町はわずか7千人ほどです。
サウスベンドの冬の寒さはかなり厳しいようで、ノートルダムのヘッドコーチに就任したばかりのルー・ホルツが、あまりの寒さに「大学はサウスベンドにあると聞いていたが、一体ここのどこがサウスなんだ?!!」と怒鳴る逸話が残されています。
ノートルダム大は1842年の設立。180年の歴史を誇りますが、ハーバード大1636年設立、ペンシルバニア大1740年等々と、上を向いたらキリがありませんし、ミシガン大1817年、アラバマ大1820年等の州立大学勢よりも新しいので、ノートルダム大の歴史が特別長いとは言えないでしょう。
Notre Dameはフランス語で、これを英語に訳すと「Our Lady(我らの貴婦人)」つまり聖母マリアを指します。敬虔なカトリック信者やその子弟が集う、極めて宗教色の強い私立大学で、これが第一の特徴ですね。
「全国の僧侶や尼僧も、熱狂的なノートルダム大フットボール部の
ファンなのです。私がセントメリー高校の生徒だった頃、
一列に並んでノートルダム大の勝利のため祈りを捧げるように、
尼僧から強制されていましたから。」モンティ・スティックルス ノートルダム大タイトエンド
学力レベルの高さも特筆すべきものです。ウォールストリート・ジャーナル紙の発表した「全米大学学力ランキング」で第28位。NCAAに加盟している大学だけでも全米に約1100校ありますので、上位3%以内に入る超優秀な学生揃いの学校です。(ちなみにアラバマ大やネブラスカ大は同ランキング400位台)
「もし私が現役学生時代、ノートルダム大の入学試験を受けていたら、
間違いなく落ちていたでしょう。
そう言う意味では、ノートルダム大のフットボール・コーチになる方が
ノートルダム大の学生になるよりも、ずっと簡単ですね。」ルー・ホルツ (ノートルダム大コーチ)
年間の授業料はなんと63000ドル(約900万円!)。当然のことながら、学生の9割は超富裕層の子弟です。白人が7割で、黒人学生はわずか3%。(統計はいずれもウィキペディア英語版より)
ノートルダムは学生数が非常に少ない、小ぶりな大学であることに驚きます。2022年秋で、4年制大学8900人、大学院3900人、合計でわずか12800人しか居ないのです。まさに少数精鋭です。(慶應義塾大学は約34000人)
ノートルダム大学はキャンパスが極めて美しいことで有名です。
これに関する昔の笑えるエピソードをご紹介します。
私は1981年にユニコーンズ同期の吉村佳彦さん(故人)と二人で、私のオンボロ中古車でコロラド州デンバーからシカゴ経由でニューヨークまでドライブ旅行をしました。(片道走行距離2900km!)
当時の私は「全米各地のフットボールの強い大学を訪問し、キャンパス見学をして、土産に大学Tシャツを買って帰る」というヘンテコな趣味を持っていました。そこでニューヨークまでの道すがら、ネブラスカ大、ミシガン州立大、ノースウェスタン大などを訪問しながら東海岸を目指したのですが、なぜかこの時、「ノートルダム大学を訪問しよう」という考えが思い浮かびませんでした。わずか数十㎞程度の回り道をすれば、溜め息の出るような美しいキャンパスを見ることが出来たのに、素通りしてしまったことを今でも後悔しています。
ネブラスカ大で買った「NEBRASKA – GO BIG RED !」と書かれた真っ赤なTシャツを着て、無謀にもニューヨークの五番街を歩いていたところ、多くのニューヨーカーから「田舎者」と蔑むような眼で見られました。たった一人、白人のオッサンが「おお!君もか!私も同郷だよ!」と大喜びして、抱きつかんばかりの勢いで握手されたことを覚えています。
あの時、「ネブラスカ大ではなく、ノートルダム大学のTシャツを着ていたら、もう少しニューヨーカーから敬意を込めた眼で見られたのに」と今でも悔やんでいるわけです。(笑)
この写真には「Golden Domes」というタイトルが付けられています。ノートルダムの金色のヘルメットが、キャンパス内のゴールデン・ドームの姿を模したものであることは間違いありません。だからノートルダムのヘルメットに、ロゴマーク等の模様が一切無いのは当然の事なのでしょう。
ゴールデン・ドームに次ぐ、キャンパス内の有名サイトは「タッチダウン・ジーザス」(Touchdown Jesus)です。大学図書館の外壁に縦41m、横21mのイエス・キリストの巨大な壁画が描かれており、壁画には「Word of Life Mural」という正式名称があるのですが、誰もがタッチダウン・ジーザスと呼びます。何故そう呼ばれるのか、という説明は必要ありませんよね。
美しいキャンパスの中に78000人を収容できる「ノートルダム・スタジアム」があります。伝説の名コーチである「ヌート・ロックニが建てた家」と呼ばれています。
かつて、このスタジアムを訪れた事がある人から「駒沢第二球技場のフィールドの周囲に、八万人座れる観客席が設置してあるような球技場だと想像してほしい。フィールドが狭く、観客席との距離が近いので、どこからでもメチャクチャ観やすいんだ。」と言われたことがあり、本当にうらやましいです。
このスタジアムでは、なんと1964年から58年間連続して、全試合の入場券の「Sold Out(完売)」状態が続いているそうです。
同じキャンパス内に、ベースボール・スタジアムもあるのですが、野球場の収容能力は2500人。この差が、ノートルダム大におけるフットボールと野球の人気の差を明確に示しています。
ノートルダム大学の特徴の最後に、「卒業生組織の強固さ、そして卒業生たちの強烈な母校愛」を挙げます。ノートルダムは小さい大学ですので、生存する卒業生は13万人程度と言われますが、この13万人が全米そして全世界に散らばって活躍し、母校のために一体となって強烈な支援をおこないます。この項目に関して、私はノートルダム大学と慶應義塾大学の共通点を感じ、ノートルダムを応援したくなるのです。(慶應の場合、年度別三田会だけの会員合計で概算38万人)
「ノートルダム大学=フットボール部」というイメージが強いので、卒業生たちのフットボール部への応援ぶりも強烈です。期待があまりにも大きいため、万一、試合に負け続けたりすると、卒業生群からヘッドコーチへの痛烈な批判が巻き起こる事でも有名です。
「全米で、最も厳しいが、最もやりがいのある仕事のトップ2は、アメリカ合衆国大統領の職と、ノートルダム大学ヘッドコーチ」という言葉がありますが、あながち冗談とも思えません。
「世の中には二つの種類の人間がいる。
ノートルダム大の熱狂的ファンと、
ノートルダム大を心から憎んでいる人達だ。
どちらも私にとっては、煩わしい存在ではあるが。」ダン・デバイン ノートルダム大コーチ
ノートルダム大学フットボール部についての詳細は、今後少しずつ紹介していきます。
どうぞお楽しみに。
「清水利彦のアメフト名言・迷言集」
https://footballquotes.fc2.net/
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