【清水利彦コラム】 ノートルダム大学歴代ヘッドコーチの写真展 2023.10.12

清水 利彦(S52年卒)
shimizu.toshihiko2@gmail.com

皆さんは10月1日におこなわれた法政vs立教(法政6-3立教)の試合をご覧になりましたか?
私はオンライン放送で観ましたが、いやあ、立教惜しかったですねえ。
獲得ヤードも全く互角(法政225,立教205)で、あの法政の強力オフェンスをきっちり封じ込め両軍とタッチダウンなしという極めて珍しいスコアの試合となりました。最後に立教が短いFGを失敗したのが本当に悔やまれますが、「立教強し」という印象を叩きこまれた試合でした。

「法政が6点しか取れずに勝った試合って、過去にあるのだろうか?」という素朴な疑問が湧いて、簡単にではありますが調べてみました。間違っていたら何卒ご容赦ください。
私の調べた限りでは、1973年(昭和48年、ちょうど50年前)に遡り、法政が6-0で明治に勝っています。この当時の関東リーグ各校の試合得点結果がすべて偶数ですので、試合場にゴールポストが設置されておらず、FG3点やXPキック1点が存在しなかったのだろうと想像しています。ですからこの時は法政が1タッチダウンだけ(TFP失敗)で勝ったと思われるのです。
つまり、法政がTD獲得ゼロで勝ったのは、今回の立教戦法政史上初めてという可能性がある、というのが私の推察です。

ノートルダム大学の現在のヘッドコーチは、超カッコいい!

今年9月28日付のコラムでご紹介したように、ノートルダム大学は最後の1秒でオハイオ州立大に逆転されて負けた(OSU17-14ND)のですが、この試合で印象に残ったのは、サイドラインに居たノートルダム大の若きヘッドコーチでした。
精悍で覇気にあふれ若々しく筋肉隆々で、すごくカッコいい!すぐにでも現役選手に復帰できそうな感じです。白人ではなく浅黒い肌で、顔立ちにはちょっと東洋的な雰囲気が漂っています

ノートルダム大のコーチと言えば、ヌート・ロックニ、ダン・デバイン、ルー・ホルツ、チャーリー・ワイス、ブライアン・ケリー等々老獪で経験豊富だが、いまいち風采の上がらない白人のオッサンが歴代コーチに就いているという印象があります。(NDファンの皆様ごめんなさい!)ところがは、これまでのコーチの印象と全く異なるタイプの人がチームを率いているのです。
そこで現在のコーチ、マーカス・フリーマン(Marcus Freemanについて調べてみました。

2023年、母校であるオハイオ州立大に敗れたマーカス・フリーマン


フリーマンはオハイオ州出身。
アフリカ系米国人の父親と韓国人の母親を持つ37歳です。高校でフットボールの他に、陸上短距離走や円盤投げ等でも活躍したアスリート。185cm、109kg。

地元オハイオ州立大に入学し、ラインバッカーとして活躍。ALL BIG TENのセカンドチームに2回選出され、NFLドラフトでシカゴ・ベアーズから第5巡指名されます。しかし心臓肥大という持病ため定着できず、プレーを1年で諦め、コーチの道を歩み始めました。
11年間で4つの大学のアシスタントコーチとなり、2020年にシンシナチ大でDefense Coordinator of The Yearを受賞。その功績が認められ2021年ノートルダム大の守備コーディネーター就任。

ND(Notre Dame)就任一年目シーズンのボウルゲーム出場直前に、当時のノートルダム大ヘッドコーチ、ブライアン・ケリーがルイジアナ州立大に突然引き抜かれたため、フィエスタボウルでいきなり指揮を執ることになります。(当時35歳、オクラホマ州立大に35-37で負け)そのままヘッドコーチ就任し、翌2022年9勝4敗でゲーター・ボウル勝利と好成績を挙げ、今シーズンに臨んでいます。

ノートルダム大歴代コーチ達の写真展

マーカス・フリーマンは第30代のノートルダム大ヘッドコーチです。
初代から第12代までは1年ないし2年でヘッドコーチが交代していました。まだフットボールコーチという職業が確立していなかった時代で、日本の大学監督のように手弁当で務めていたのでしょう。
第14代のヌート・ロックニが初めて全米王座を獲得し、長期政権(1918-1930)となります。ここから105年間で17人のコーチが生まれました。(平均6.2年)

優勝を期待されるノートルダム大コーチ達ですが、30人のうち全米王座獲得した人は5名しか居ません。
14代 ヌート・ロックニ 任13年 全米王座3回 1924,1929,1930
17代 フランク・リーイ 任11年 全米王座4回 1943,1946,1947,1949
22代 アラ・パーシーグエン 任11年 全米王座2回 1966,1973
23代 ダン・デバイン6年 全米王座1回 1977
25代 ルー・ホルツ任11年 全米王座1回 1988

ノートルダム大は創部以来の通算勝率が.728と超高勝率ですので、歴代コーチは勝率が7割を切ったら「ダメコーチ」の烙印を押されてしまいます。求められるレベルが桁違いに高いのです。「全米で最も厳しいが、最もやりがいのある職業は、アメリカ合衆国大統領の職と、ノートルダム大のフットボールコーチ」いう言葉がありますが、あながち冗談とも思えません。
歴代コーチの中の数名をご紹介しましょう。

1960年ND史上最悪の戦績のジョー・クハリッチ 出典:Wikipedia

30人の中で一人だけ勝率5割を切ったコーチがいます。ジョー・クハリッチ(1959-62)はかつてノートルダム大で名選手として活躍していたため、はえぬきコーチとして期待されましたが17勝23敗に終わり4年でクビでした亡くなりましたが、生前はさぞかし肩身の狭い思いをされていたことでしょうね。決してコーチング能力がない訳ではなく、NFLで10年のヘッドコーチ歴があります。

 

幻のNDコーチ、ジョージ・オレアリー 出典:Wikipedia

ジョー・クハリッチより、もっと酷かったのがジョージ・オレアリーでした。ジョージア工科大で好成績を上げ、ノートルダム大に迎えられたのですが、自ら提出した経歴書に嘘があることが着任5日目にバレました。「ニューハンプシャー大で選手として活躍した、とあるが、彼は一度も試合に出たことがない」「大学院で修士号を獲得した、とあるが、実在しない大学の名前が記載されている」が露呈しわずか5日でクビになりました。「ノートルダムのオレアリー・スキャンダル」として有名です。彼は30人のリストに含まれていません。この人も「風采の上がらない」グループに入ると思います

ところが事件で解任された3年後、セントラルフロリダ大のコーチに就任し、以来12年間務めて立派な戦績を残しています。「嘘つきではあるが、優秀なコーチ」ということでしょうか。

 

1929年ヌート・ロックニ 出典:The College Football Book, Sports Illustrated

一方、勝ちまくったのは伝説のコーチ、ヌート・ロックニ。105勝12敗5分 勝率.881。
飛行機墜落事故で亡くなりましたが、そうでなければどこまで勝ち星を伸ばしたでしょうか。ただし、ご覧のように全然見てくれは良くありません。丸い頭の頭頂部に少しだけ髪の毛が残っており、キューピー人形のようです。

 

アスリートらしくない顔立ちのダン・デバイン 出典:Wikipedia

風采が上がらない容姿、と言えばまず思い出されるのがダン・デバインでしょう。「庭の芝刈りをしている隣の家のオトーサン」という風貌です。ただしコーチとしては超優秀でNDでは53勝16敗1分.764。3つの大学通算172勝。NFLパッカーズのコーチも4年間していました。

 

フットボールコーチというよりは大学教授の風貌、ルー・ホルツ。 出典:Quotable Lou, by Monte Carpenter

現在、生存するコーチの中ではルー・ホルツ(86歳)が最も偉大な方だと私は確信しています。NDで100勝30敗2分.765。6大学通算249勝132敗7分。ケント州立大で下手クソなLBでしたが、コーチとしては大成功を収めました。ユーモアとウィットに富む名言・迷言が有名で、これまでUnicorns Netにも数多く登場しています。この人も街を歩いていたら、誰もフットボールコーチとは気づかないでしょう。

(ド田舎であるアーカンソー大のコーチに就任して)

「ここが地の果てとは言わないが、校舎の屋上に登ると
そこから地の果てが見える。」

「私の事を『悲観的すぎるコーチ』と批判する人は多いが、
タイタニック号の乗客で、楽観主義だった人は全員死んでいる
という事実を皆さんはご存じないのだろうか?」

ルー・ホルツ

 

2009年、体重過多のチャーリー・ワイス 出典:Wikipedia

27年間という長い長いアシスタントコーチ歴を経て、期待されてノートルダム大に迎えられたチャーリー・ワイスでしたが、35勝27敗.565という「普通の大学ならまずまずだが、NDでは標準以下」の戦績しか残せず5年で退任しました。彼は最優秀コーチにはなれませんでしたが、ND史上最重量コーチであることは間違いないようです。

 

1946年、気取り屋のコーチ、フランク・リーイ 出典:Rites of Autumn, by Richard Whittingham

風采の上がらない顔ぶれが続きましたが、ちょっとタイプが違うのが、最多の全米王座4回を誇るフランク・リーイ・コーチです。NDで87勝11敗9分.855 ヌート・ロックニにわずか及ばずの高勝率でした。この人はたしかにスタイリッシュでカッコいいのですが、どうも自意識が超過剰な方のようで、彼の写真いくつか見ると、このように気取ったポーズをとって映っている姿が多いのです。
彼の左隣は、伝説の名QBジョニー・ルージャックです。

 

1964年、就任初年度、ウイスコンシン大を破り選手たちに肩車をされるアラ・パーシーグエン 出典:Rites of Autumn, by Richard Whittingham

外見的に一番整って見えるのは、アラ・パーシーグエンでしょう。95勝17敗5分.836 期待に応える好成績をあげ続けました。この人の唯一の弱点は、名前Ara Parseghian が難しくて誰にも読めない事。記者会見で「貴方の名前は読みにくく覚えにくい」と指摘され、
「私の名前を覚える簡単な方法を教えよう。【パー】はゴルフのパー。【シーグ】はシーグラム・ウィスキー。【エン】は日本の円。だから【パーシーグエン=酔っぱらった日本人ゴルファー】と覚えればいいんだ。」
と答えて爆笑を誘いました。おかげで私も彼の名前を正確に覚えています。


さあ、ノートルダム大の様々なコーチをご紹介しましたが、
現在のコーチ、マーカス・フリーマンがこれまでの歴代コーチとはちょっと異なる新種のタイプであることはご理解いただけたことと思います。
ノートルダムはいつも勝っているようなイメージがありますが、1988年にルー・ホルツが全米王座に導いて以来、既に35年という長い月日が経っています。

勝てば英雄、負ければボロクソ」がお決まりのノートルダム大コーチですが、マーカス・フリーマンはどのような戦績を残せるか注目ですオハイオ州立大に最後の1秒で負けたものの、強敵相手善戦が評価され、負けてもAPランキングはあまり下がっていません。(10/6現在10位)
果たしてフリーマンはND史上6人目の全米王座コーチとなれるでしょうか?

私は今年ノートルダムを応援します。
頑張れ!マーカス・フリーマン!!


おまけ

私が「今年ノートルダム大を応援します」との原稿を書き終えた途端、10月7日にノートルダム大が格下のルイビル大(ACC)に20-33で完敗しました。とほほ、、、
もう2敗(5勝)となって今年のノートルダム大の全米王座はほぼ消えましたね。「清水が応援するチームはコロコロ負ける」という伝統は今年も引き継がれています。

先週末の全米カレッジで一番面白かったのは、全勝対決となったテキサス大とオクラホマ大の定期戦でしょう。まだ結果をご存じでない方は、4Q最後の7分間のダイジェスト版You Tube画像を是非ご覧ください。

https://www.youtube.com/watch?v=4t_KnjuYokQ


「清水利彦のアメフト名言・迷言集」
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