広報部会 横田 孝(H11年卒)
昨年、慶應義塾大学体育会アメリカンフットボール部のフルタイムの監督に就任した前田晃監督。2019年の不祥事を受けて部の再建を担う前田監督にとって、昨年は部の体質を根本から見直す再生プロジェクトと、BIG8からの再出発の一年だった。昨シーズンは全勝優勝で終えた慶應だが、新型コロナウイルスの影響で自動昇格や入替戦が行われなかったため、今年もBIG8からTOP8への昇格を目指す一年になる。今シーズンの取り組みと部の現状について、前田監督に話を聞いた。
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──昨年度は再出発の年でBIG8全勝優勝を果たしましたが、今年度はどのような取り組みでシーズンに臨みますか。
まず、シーズンを考える上で4つの前提条件がある。
1つ目が再生プロジェクトの2年目のシーズンということ。
2つ目が、組織として昨年よりも成長していないといけないこと。とかく学生スポーツは人が入れ替わってしまうため、一年草のように1年で枯れてしまうケースが多いが、それではいけない。多年草のように、何年かは咲く、というのもだめ。
樹木のように、毎年年輪を重ねて成長し続けるような組織でないといけない。
3つ目が、今年もBig8からの出発であるということ。
さらに4つ目──これは昨年同様、どのチームにも当てはまるが、引き続き新型コロナウイルスによる様々な制約がある中でのシーズンが始まること。
これらが2年目の前提条件で、学生にも伝えてある。
──今年のチーム目標は。
学生たちには、自分たちでコミットできるものを作るようオーダーした。
この中で部員に期待しているのは、チームの目的、目標、手段の面において昨年よりもよりレベルの高いものを目指すということ。
昨年は、自粛があったところからスタートしてゼロよりマイナスからのスタートだった。部の存立の目的から考え直したのが昨年だったため、「目的」という点において今年はその部分での基礎がある。部則にもあるが、部活動を通じて健全な人間性豊かな学生を社会に出すということ、そして学生日本一を目指すこと──これらはすでに周知されている。
「目標」については、学生全員がコミットできる明確なチームの目標を作るよう伝えている。
そして「手段」については、全員が主体的にオーナーシップを持ってチーム運営に関わることを部員に求めている。2年目なので、学生が関与している部の運営において質も量も高いレベルを目指して欲しいというオーダーを出した。
──コロナ禍の収束が見えない中でのチームビルディングに難しさもあると思いますが、現時点での取り組みは。
試合や大会がない体育会の部はキャンパスに来ないよう学校から通達されているため、グラウンドでの練習の見込みはまだ先になる。そのため、現在はミーティングをオンラインで行ったり、各自が自宅やジムでトレーニングをしたりしている。
トレーニングについては、洞口一也ストレングスコーチ監修の下、学生たちが選手一人ひとりに対して3ヵ月を通したトレーニングメニューを作成している。基本的には共通のメニューだが、負荷やレップ数を個人別に変えている。あとは自己管理でやってもらっている。
2月中頃からはプレーブックの見直しやミーティングを毎日行っていく。
──再生プログラム2年目ですが、部の体質改善を含めた進捗は。
まだまだだ。
試合会場での連盟の人への挨拶や立ち居振る舞いなどまだ改善する余地はある。試合中にボールを審判に手渡しすることなど誉められた部分もあるが、まだチームの外から厳しい指摘を受けているのが現状だ。
フィジカルの面でも、昨年は体を強くする目標を選手一人ひとりが自分で体重設定をし、目標と定めたが、半分以上の選手が自分で立てた目標すらクリアできなかった。
昨年の勝敗だけを見れば結果が出たように見えるかもしれないが、体が強くなったかというとどうか。
そうした中でも、もちろんポジティブな収穫、成長もあった。
一番大きいのは、どんな相手であれ、自分たちのパフォーマンスをすべて出し切る、ということを完遂できたことだ。
これは、今までの慶應ではなかなかできなかったことだった。以前の慶應は、どうしても相手に合わせてしまっていた部分もあり、例えば50点以上取り、大差で勝利した試合はあまりなかっただろう。
その意味で、一番目に見えた成果で言えば、相手が誰であれ、きっちりと自分たちのパフォーマンスを最後まで出し、なおかつ全ての選手を試合に出すことが叶った。
しかも、昨年は1年生を含めて、選手全員が出場した試合が2試合あった。スタメン取った1年生もいるし、未経験者の1年生も試合に出た。
1年時からこれだけの量の選手が試合出場している例は、他校を含めてないと思う。こうした代の学生たちが切磋琢磨していくと、ものすごくいい循環になる。
──今年度のオフェンス、ディフェンス、キッキングそれぞれの戦力はどうでしょうか。
オフェンスについては卒業生のロスがほぼない。昨年やってきたことをさらに熟成させる形になる。おそらくグラウンドアタックになる。ガンとオプションを併用。オフェンスは昨年の主要メンバーがそのまま繰り上がるのでいい。
ディフェンスは選手層の面で再構築の年になる。昨年はスターターのほとんどが4年生で、彼らがごっそりと抜けてしまった。主力メンバーが大幅に入れ替わるため、選手層をもう一度厚みを増すために頑張る必要がある。
2本目の選手はスターターと遜色ないものの、3本目はやはり差があったため、全体の底上げが必要だ。
キッキングは、山本小次郎(R3卒)が抜けた穴が大きい。特にフィールドゴールは彼が全部蹴っていた。距離を出せるキッカーはいるが、FGの精度を担保できるかが課題になる。キックオフの時はいいが、FGを蹴る際にはタイミング、高さ、方向などより緻密な要素が絡んでくる。キッカーを育てることが急務だ。
──秋シーズンへの見通しは。
非常にタフなシーズンになる。昨年は5試合しかなかったが、今年は入れ替え戦を入れれば8試合になる。
何よりも重要なのは、今年は再生プロジェクトの2年目だということ。コロナの状況にも左右されるが、入れ替え戦があれば学生たちも昨年とは異なるプレッシャーにさらされる。それに対してどれだけ立ち向かえるかが今年のポイントだろう。
昨年のチームとも比べられるし、結果も出さないといけない。周りからもそういう目で見られる。
その証に、春シーズンは5試合予定しているが、全て他校からの申し出によるもので、しかも強豪校からしかオファーが来ていない。
今年は学生たちが昨年とは違うプレッシャーを感じながら取り組むので、それを励みに昨年よりもステップアップして欲しい。
そして、それができる部員たちだと思う。