富士通フロンティアーズQB高木翼さん(H27年卒)による法政大学戦ゲームレビュー 2021.06.18

広報部会

6/13(日)に実施された法政大学戦のオンライン配信において解説を勤められた富士通フロンティアーズQBの高木翼さん(H27年卒)にゲームレビューをしていただきました!

ライスボウルでMVPを受賞されるなど日本フットボール界において先頭を走られている高木さんのレビューになりますので、是非ご一読ください!

※なお高木さんが解説された法政大学戦のオンライン配信は、現在“無料見逃し配信”されておりますので、もしよろしければご覧ください。
https://elevensports.jp/video/77180

高木翼さん(H27年卒) 幼稚舎からフットボールを始め、QB一筋。慶應卒業後、オービック・シーガルズを経て富士通フロンティアーズ。2019年度シーズンのライスボウルでMVP、2020年には日本代表に初選出。

▼法政大学戦の試合結果・ゲームレポート▼
https://keio-unicorns.com/mita-kai/game-report/210618-1/


高木 翼(H27年卒)

2021年春のオープン戦全勝対決として注目された慶應vs法政は膠着状態が続く展開となったが第3Qに均衡を破られた慶應が0-7と完封負けを喫した。本番である秋に向けた春の試合とはいえ、最後まで見応えある試合を演じてくれた両チームを称えたいと思う。

私事だがUNICORNSの試合を現地でみるのは、李卓主将が率いた2016年東京ボウル(慶應VS立命館)以来。とてもエキサイティングな気持ちで観戦させて頂いた。初めての試合解説をしながらの観戦だったため、見落としている点も多くあると思うが、いくつかのポイントをもとに試合を振り返りたい。

先制のチャンスがあった最初の2シリーズ

チャレンジャーとして挑む試合の定石はいかに先制点を奪い、相手を焦らせることができるか。もちろんそれだけで試合の勝敗が決まる訳ではないが、重要な要素だと個人的には考えている。

リターンを選択した慶應がいきなり魅せる。リターンチームが50ys付近まで戻す良い入りをした。慶應OFFにとっての最初の12プレーは2TE体系からエースRB#7大河原のRunで真っ向勝負を挑む選択。同じサイドに2TEを並べる体型で恐らく事前のスカウティングから有効なプレーと判断したものと思われる。しかしそれを上回る法政のDL/LBのプレッシャーがあり、2プレーで効果的なゲインを生めず、3rd-downPassでゲインを奪うもPuntで攻守交代。

法政OFF1Play目でQBShot GunSnapを取りこぼすミスが出て慶應DEFQB Sack23プレー目でも法政エースRBを慶應DEFが見事に止めて3rd-outPunt。その後のシリーズでもShot GunSnapミスがあるなど明らかに浮足立っていた。

2シリーズ連続で好フィールドポジションから開始するチャンスをものにしたい慶應OFFだったが、またしても3rd-Down outPunt

このように慶應はリターンチームとナイスDEFで得た最初の2シリーズをスコアできなかったのが痛かった。挑戦者としては先制点が欲しかったが、法政DEFを崩すことができなかった。

両チームで異なるDEF Game Plan 「Box内の人数」

慶應・法政共にエースRBを擁しており、Running Gameが一つのカギを握ることは試合前から確実だった。それに対する両DEFGame Planに特徴があったので触れたいと思う。

Down & Distanceや相手OFFTEFBを用いるHeavy体型なのか、WR4枚広げるSpread体型なのかで厳密には断言できないが、慶應DEF はBox内の人数で数的優位を作っていた。通常はField最後尾にいる2枚のSFのうち1枚を前列にあげていた。するとその代わりに本来はWRをカバーしてPassを守らないといけないLBBox内に入ることができ、Run StopBlitzをかけることができるようになる。Runに対して手厚く守ることを選択したのだ。一方の法政DEFは基本的には2枚のSFを後ろ=奥に置いていた。その分、LBBox外にでてWRをマークする必要があるのだ。

つまり法政は慶應に比べて1人少ない人数でRunを守ることができ、Passに避ける人数を増やせたということになる。法政DEFは少ない人数でRunを守ることができると判断して、それを遂行したと言える。

この試合で唯一のTDとなった法政が演じた後半の攻撃機会では、ハーフタイムで確りとAdjustしたと思われる。慶應DEFは人数の構造上、どうしてもWR vs CB11になる。慶應CB#21原選手、#7藤田選手をはじめとしてアスリートが揃っている。現に法政エースWR#11とのマンツーマンに勝ったCE#7藤田選手のINTは素晴らしかった。このプレーは法政QBとしてはどうしようもない、藤田選手にとっては本当に素晴らしいプレーだったと言える。WR vs CB11における最優先はLong Gainや一発タッチダウンを防ぐこと。10yds以下のパスプレーはどうしても捕球してからタックルする形となってしまう。またこの日、再三良いプレーをしていたDL/LB陣もQuickタイミングでパスを投げられるとプレッシャーをかけることは不可能に近い。法政はこの点を上手く利用してQuickShort) Passで崩して得意のRunで仕留めるといったRun/Passのバランスアタックで見事に均衡を奪った。

一方の慶應オフェンスは6人で守る法政のRunディフェンスを攻略できず、5人で守るPassを攻略するのは難しかったということになる。

アグレッシブなDEF

慶應DEFGame Planを遂行する選手達が素晴らしかった。

先述の通りBox内の人数を多くしてまずはRunを徹底的に止めていた。大半のプレーでは11でタックルもできていたし、かわされたとしても2人目3人目が素早く集まって仕留めていた。なによりも法政エースRBにロングゲインをほとんど許さなかった点が素晴らしい。筒井DCDEFはアグレッシブにBlitz/Stuntsで崩すスタイルが基本と思っている。過去の上位校との試合では11でタックルできずにロングゲインを許すシーンが多かったが、この試合ではしっかりと防いでいたと言える。DB陣もRunに対するオープンタックルはもちろん、PAからのカムバックに対して相手のエースWRに勝ってINTを奪ったCB#7藤田選手のプレーは本当に素晴らしく、法政DEFをトラブルに陥らせた。他にも#97中尾選手、#9佐藤主将、#33橋本副将、#52希代選手、#21原選手、#23千葉選手と多くの選手が法政と対等以上に闘っていた。全体としても最初のタックラーが確実に仕留めるなど細かい点の向上に期待したい。

苦戦したOFF

前半は1st Downの更新がゼロで結果的に完封されたOFFは試合通じて辛い展開となった。

DEFKICKの奮闘で硬い展開になったことも1つの要因であると思う。膠着状態ではOFFとしてミスをしないことも重要になる。その点、#2久保田選手は試合を作ることに徹したと感じた。その遂行力は良かったと思う。先述の通り1人多い人数で守る法政Pass DEFに対して無理投げせず我慢強くOFFを率いた。今後に向けては正しい判断をした上での積極的なPassプレーが増えるとより良くなると思う。

後半から出場した#15相馬選手は自らの足で打開するポテンシャルを見せた。パス能力を絡めての成長に期待したい。

トリプルオプションを任せられる#12松本選手は高校ではQBながら主将を務めた人材。私も高校の練習を見学させてもらう機会があったが冷静に11つのプレーを遂行する姿が印象的だった。法政の圧力にファンブルしてしまったが、良い学びになったと思う。Pass能力も持っているため、成長に期待したい。

OFF全体を通じて解説席から感じた印象は「静か」という一言に尽きる。この日の前半は1st Downの更新がゼロと苦戦するなど、なかなか良いプレーがでていないので必然ではある。サイドラインでの雰囲気までは分からなかったが、デイビッドHCが常々口にする「Ask Me」を誰が体現するか。第4Qに自らの連続Runで闘志を見せたエースRB#7大河原選手以外にもプレー内外に問わず、一歩前に出て雰囲気を変えるような選手が出てくることを期待したい。

より高みを目指してほしいKicking

K#23千葉、P#14松下&#7大河原、Returner#6石黒といったスペシャリストのレベルはとても高いと感じた。平均をはるかに超える出来であったのは間違いない。

4Q敵陣深くでのPunt SituationLong Snapが乱れ、Safetyのチャンスも法政Punterに脱出された。慶應としてはEnd Zone内で相手Punterを仕留めていれば違う展開になったのは間違いない。このまま精度を上げて、Scoreに直結する働きを期待したい。

試合巧者な法政

法政のRun OFFは後半のTD Driveはもちろん、時間を潰す「4minutes」でことごとく止められていた Runを出してたのもキーポイントの1つになった。Runが来ると分かっている状況で確りとRunを出して慶應OFFに攻撃権を渡さずに試合終了に持ち込んだ。近年は甲子園ボウルに遠ざかっているもののやはり試合巧者の法政と感じた点であった。

解説で手元のデータとして頂いた情報では1995年以来、慶應は法政に勝利できていない。私が大学2年で闘った上保主将率いる2012年の秋リーグでは2TD差を追いつかれてタイブレークで敗戦。記憶に新しい最も悔しい敗戦は「勝てば甲子園」として迎えた李卓主将率いる2016年といえるだろう。このように法政は常に慶應に立ちはだかっている。今年はBIG 8で闘うため、法政にリベンジするチャンスはない。本当に残念で仕方ない。4年生にはBIG8で文字通り圧倒してもらい、TOP 8昇格を決めるまでチームを率いて欲しい。そして3年生以下はこの敗戦を「単なる1本差で惜しかった」と捉えずに高みを目指してリベンジの時に備えて欲しい。