【清水利彦コラム】NFL本拠地移転の歴史 2020.10.22

清水利彦(S52年卒)

先日、BS放送でレイダースvsビルズの試合を見ていて気が付いたことがあります。レイダースの本拠地がラスベガスに移転されており、ラスベガス・レイダースとして登場したのです。もちろん、移転の話は以前記事で読んで知っていたのですが、すっかり失念していたため、「おおっ」という気分でした。

ラスベガスの方たちはとても嬉しいでしょうが(皆さんも、もしNFL東京レイダースが突然出現したら嬉しいですよね)、地元NFLチームを失ったオークランドのファンがどのように感じたかをついつい気にしてしまうのです。

レイダースの創設は1960年ですので、今年で61年目となります。生まれた時から熱狂的なレイダースファンという方がたくさん居ます。オークランド・コロシアムのゴールポスト後方最前列(一番安い席)は「ブラックホール」と呼ばれ、全米で最も熱狂的で騒がしい、黒づくめのファンが占める一角として有名でした。

私は阪神タイガースファンですが、もし移転して、富山タイガースとか愛媛タイガースになったら、多分応援しないと思います。本拠地移転は、去られる方の側から見ると、とても悲しいことなのです。(富山と愛媛の方々、例に出してごめんなさい!)

そこで、NFLで「最も多く本拠地移転を経験したチーム」はどこなのか調べてみました。

NFL32チームのうち「一度も本拠地移転を経験していないチーム」は22あります。つまり、移転経験のあるチームは10個だけです。

最多は<移転3回>2チーム
⓪クリーブランド・ラムズ 1937年~ 9年間
①ロサンゼルス・ラムズ 1946年~ 49年間
②セントルイス・ラムズ 1995年~ 21年間
③ロサンゼルス・ラムズ 2016年~ 現在5年目

⓪オークランド・レイダース 1960年~ 22年間
①ロサンゼルス・レイダース 1982年~ 13年間
②オークランド・レイダース 1995年~ 25年間
③ラスベガス・レイダース 2020年~ 初年度

<移転2回>2チーム
⓪シカゴ・カージナルス 1920年~ 24年間
①セントルイス・カージナルス 1960年~ 28年間
②アリゾナ(フェニックス)カージナルス 1988年~ 現在33年目

⓪ロサンゼルス・チャージャース 1960年~ 1年間
①サンディエゴ・チャージャース 1961年~ 56年間
②ロサンゼルス・チャージャース 2017年~ 4年目

<移転1回経験>6チーム
ベアーズ(1920デケイター・ステイリーズ→1921シカゴ)
ライオンズ(1930ポーツマス・スパルタンズ→1934デトロイト)
コルツ(1953ボルチモア→1984インディアナポリス)
チーフス(1960ダラス・テキサンズ→1963カンザスシティ)
タイタンズ(1960ヒューストン・オイラーズ→1997テネシー)
※レッドスキンズ(1932ボストン→1937ワシントン)
※本年はワシントン・フットボールチームという名称で登録

これまでラムズが3回移転で最多でしたが、今年、レイダースが3回で並んだことになります。

シカゴ・ベアーズが本拠地移転を経験している、等と書くと、オールドファンから「いい加減なことを言うな!」と叱られそうですが、創部時に一年間だけデケイターというイリノイ州中部の小都市でプレーし、一年後に290キロ離れたシカゴに移転しました。1921年シカゴ・ステイリーズと名乗り、更に一年後ベアーズになりました。ちなみにステイリーズというのは、創設時に貢献された方がステイリーさんと言う方だからだそうです。シカゴ・ベアーズとなって今年で99年目です。

逆に、最も長く今のチーム名を名乗り続けているのは、グリーンベイ・パッカーズで、1921年から丁度今年で100年目となります。「パッカーズの歴史」の本を読みますと、創部当初はスタジアムなどというものはなく、原っぱで試合をしていました。観客は全員立ち見で、試合中にサイドラインの観客に帽子が回され、試合を気に入った客が帽子に小銭を投げ込んでいたとの記述があります。シカゴ・ステイリーズも同様の状態であったと想像されます。ステイリーさんは100年後にプロフットボールが今のようなビッグ・ビジネスになっているとは考えなかったでしょう。

移転の多いチームが、ロサンゼルスがらみであることに気づきました。ロサンゼルスはカレッジフットボール(USC、UCLAなど)の他にも、野球・バスケットボール・映画・テーマパークなど、あらゆる娯楽が集まっており、プロフットボールはマネーゲームによる買収に翻弄され、一つのチームが根付かない街、とも言えるでしょう。

さて、レイダースに話を戻しますと、ラスベガスを史上初めて本拠地として、アレジアント・スタジアムという65000人収容の最新のドーム球場を建設し、万全を期して移転した途端にコロナ災禍に見舞われたわけです。ラスベガス市の人口は60万人。周辺人口を含むと220万人いますが、多くは観光産業従事者であり、コロナの打撃を最も大きく受けている都市のひとつであることは間違いないでしょう。

10月19日現在、レイダースは3勝2敗と上々のスタートを切っています。チームの運営は誠に厳しいと思いますが、なんとか「また、すぐ身売り・移転」などが起こらぬよう、頑張ってもらいたいものです。