【清水利彦コラム】頑張れ、70歳のマック・ブラウン・コーチ! 2021.09.30

清水利彦(S52年卒)
shimizu.toshihiko2@gmail.com

インターネットの時代となり、全米カレッジフットボールに関する情報を得ることが本当にラクになりました。NCAAやESPNのページを開けば、試合の途中結果がリアルタイムで表示されますし、You Tube では毎週ごとにランキング上位チームの試合のダイジェスト版が見られます。「College Football Full Game」と検索すれば、カレッジ史上に名を遺す多数の好試合を全プレー観ることも出来ます。

30年以上前、私にとって全米カレッジフットボールの最新情報を得る方法はひとつだけでした。秋のシーズンが始まると、毎週火曜日の会社帰りに大阪・梅田の紀伊国屋書店に立ち寄るのです。The Japan Times という英字新聞を購入すると、Top20にランク入りしているチームの先週末の試合結果が出ており、新しいランキングが発表されていました。たったそれだけの情報を得るために、一般新聞よりずっと高価な英字新聞をわざわざ書店まで足を運んで買っていたのです。

さて、You Tube で「College Football 2021 Week 1」を見ていたところ、ノースカロライナ大vsバージニア工科大の試合で、ノースカロライナ大サイドラインにマック・ブラウン・コーチが立っているのを見て、たいそう感激しました。
まだUnicorns Netでマック・ブラウンを紹介したことはなかったと思います。まずは全米コーチ勝利数ランキングをご覧ください。これは一部有力校で全米王座を狙うレベルのコーチだけを対象としています。したがってグランブリング大のエディー・ロビンソン(408勝)等は除外されています。

マック・ブラウンは現役コーチの中では最多勝(259勝)を誇り、歴代でも第7位に輝いています。1951年(昭和26年)8月生まれですから、先日70歳になりました。ユニコーンズでは昭和49年卒の竹内主将の代と同期にあたります。

マック・ブラウンの履歴をご紹介しましょう。高校時代から優秀アスリートとして注目され、フロリダ州立大でRBでしたが、膝の負傷により幾度も手術を受けて選手を断念し、同大のWR学生コーチとなります。その後いくつかのアシスタントコーチ歴を経て、1984年にはオクラホマ大でHCバリー・スイッツア―の下でオフェンス・コーディネーターを務めます。

1985年、34歳でマックは南部の伝統校チュレーン大のヘッドコーチに就任します。初年度1勝10敗、二年目4勝7敗、三年目6勝6敗とスロースタートでしたが、3年目でマイナーボウル出場を成し遂げた手腕を買われ、37歳でノースカロライナ大のコーチとなります。
ノースカロライナ大は、バスケットボールの強豪校として有名で、7回バスケットボールの全米王座を獲得しています。NBA史上最高の選手と言われたマイケル・ジョーダンも同校の卒業生です。フットボール部は全米王座経験なし。いささかバスケットボール部の後塵を拝し日陰者となっている感があります。有名なOBとしてはLBローレンス・テイラー(NYジャイアンツ)がいます。

ノースカロライナ大に着任したマック・ブラウンは、最初の2年間で2勝20敗と地獄を見ます。彼の着任前の2年間が12勝10敗ですから、彼が来て突然戦績が急降下したことになります。それでもクビにせずに我慢強く彼を使い続けたことが大学経営陣の慧眼でした。3年目に6勝4敗1分とV字回復し、残り8年間で67勝26敗1分、勝率.720、ボウルゲーム出場6回の好成績を収めました。

1998年、47歳のマック・ブラウンは強豪名門校テキサス大に招かれます。ノースカロライナ大で勝ち方を覚えたマックは、今度は就任当初から好成績をあげ、ランキング上位の常連校となりました。リクルーティングに特に力を入れ、有力高校生を集めてチーム作りをおこなうため、彼には「2月のコーチ」という仇名が付きました。
2005年、シーズンを全勝で乗り切ったテキサス大は、同じく全勝でランク1位のUSCとローズボウルで全米王座を賭けて直接対決しました。この試合はUSCにQBマット・ライナート、RBレジー・ブッシュという二人のハイズマン賞選手がいましたが、5回の逆転劇の末、テキサス大が41-38で勝利しました。この試合はいまだに「カレッジフットボール史上最高の試合」として語り継がれています。まだご覧になっていない方はYouTubeで「Rose Bowl 2006」と検索してみてください。

マック・ブラウン コーチ

テキサス大の16年間で158勝48敗(.767)とチームの黄金期を築いたマック・ブラウンは、2013年62歳での引退を発表します。誰もが彼のフットボール人生はこれで終わったと思っていましたが、5年間TV解説者を務めた後、2019年、68歳でノースカロライナ大のヘッドコーチに復帰するのです!

これには大勢の人が度肝を抜かれました。ペンシルバニア州立大のジョー・パターノ・コーチのように、同じチームで40歳から84歳になるまでコーチを続けた例は他にもありますが、高齢になってから新たに就任し、ゼロからチーム作りを始めてゆくのは至難の業です。有名なケースとしては、ルー・ホルツが59歳でノートルダム大のコーチを退き、3年のブランクの後、62歳でサウスカロライナ大のコーチに復帰して67歳になるまで続けたという例があります。しかし、マック・ブラウンははるかにそれを上回っています。

もしかしたら今までの自らの輝かしい戦績に泥を塗ることになるかもしれないリスクをかけて、マック・ブラウンは着任しました。22年前までお世話になったノースカロライナ大に初めての全米王座を届けるのが彼の目標と感じます。最初の2年間2勝20敗だったにもかかわらず、クビを切らずに我慢して使い続けてくれた大学の恩に報いたいという思いもあるでしょう。現在の推定年収が350万ドル(約4億円!)とのことですから、大学側の期待も想像を絶するものがありますね。
初年度、2019開幕戦でノースカロライナ大は宿敵サウスカロライナ大に24-20で勝利しファンを熱狂させました。当時ランク1位のクレムソン大を地元に迎えた時は20-21と、あと一歩まで迫りながら敗れています。

初年度7勝6敗、二年目8勝4敗と少しずつ改善の様子を見せながら、今年70歳で3年目を迎えました。彼が自らリクルートしたサム・ハウエルという優秀なQBが今年3年生となりますので、今年は本気で全米ランク上位を狙っているのではないかと思います。
2021年シーズン初戦は強豪バージニア工科大に10-17で競り負けましたが、その後は大量得点で2連勝しています。(9月21日現在)10月30日の敵地ノートルダム大戦まで勝ち続ければ、大変な話題となるでしょう。

頑張れ! 70歳のマック・ブラウン!!

「清水利彦のアメフト名言・迷言集」
https://footballquotes.fc2.net/
「今週の名言・迷言」を木曜日ごとに更新しています。

マック・ブラウンがまだ若き新米コーチだった頃には
こんな面白い迷言も残していました。

(采配ミスによる敗戦が続いて、自暴自棄になって)
「ああ・・・俺はダメな男だ・・・
ヤリ投げの試合に出て、コイントスに勝って
レシーブを選択するくらいバカな男だ・・・」

マック・ブラウン(チュレーン大コーチ)

(新人コーチ就任以来、最悪の7連敗を喫して)
「思いあまって、テレフォン人生相談室に電話をしてみたら、
私の名前を言った途端、電話を切られてしまったよ。」

マック・ブラウン(チュレーン大コーチ)