【清水利彦コラム】オレンジとユニコーン 2021.03.18

清水利彦(S52年卒)
shimizu.toshihiko2@gmail.com

前回は米国におけるチーム名の歴史について述べましたが、今回は日本のチーム名についてです。
(※本号の記述は、筆者の「たぶん、こうであろう」という推測にもとづく部分が多く含まれています。もし記述内容に誤りがありましたら遠慮なくご指摘ください。訂正させていただきます)

法政大学が近年、トマホークスからオレンジに改名しました。単なるアメリカンフットボール部のニックネームにとどまらず、バスケットボール部・ラグビー部・ラクロス部も合わせて「法政オレンジ」と名乗っているので、米国式に大学全体のニックネームとして採用したように見受けます。改名のいきさつは、法政大学アメリカンフットボール部のホームページを見ても記述がないのでわかりませんが、「法政オレンジ」と聞いて、即座に「シラキュース大学オレンジ」を思い出しました。

シラキュース大学は1870年創立で(慶應義塾は1858年)、ニューヨーク州北部にある勉学に優れた名門校です。ジョー・バイデン新大統領の母校として最近また脚光を浴びました。同大のフットボール部も1899年創部の強豪校で(ユニコーンズは1935年)、1959年にはベン・シュワルツワルダーという名コーチのもとで全米チャンピオンに輝いています。
シラキュース大のニックネームが「オレンジ」であることは有名です。大学全体のネーム呼称はオレンジですが、体育会の男子部員達は「オレンジメン」、女子バスケットボール部員などは「オレンジウィメン」と呼ばれています。

シラキュース大のオレンジメンは、「オレンジを摘む人」という意味ではありません。かつてヨーロッパの宗教革命の中で、オレンジ公ウイリアム1世(1533-84年)という指導者がいて、彼を信奉するプロテスタント達をオレンジメンと呼びました。このプロテスタント達が米国でメソジスト教会を開き、その流れをくむ大学がシラキュースであるという史実に基づく、由緒ある名称であるようです。
法政大学の方たちも、シラキュース大のことを十分研究したうえで命名されたのでしょう。歴史を知ると、オレンジというニックネームが格好良く思えてきますね。

いよいよ我らがユニコーンズというニックネームについてお話しします。私はユニコーンズという名称を心の底から愛しています。その理由は三つあります。

1.伝説に由来した、歴史上の由緒ある名前であること。
2.勇壮でありながら気品のあるイメージを持つ名称であること。(チンパンジーズとか、タランチュラズとかの名前でなくて、本当に良かったです)
3.他のチームが使用していない、ユニークなチーム名であること。

「他のチームが使用していないチーム名」に関して少し説明します。私の蔵書の中に、ESPN社が出版した「カレッジフットボール・エンサイクロペディア(百科事典)」があります。全1629ページ、重量3.3kgという、とんでもなくデカい本ですが、1891年からこの本が発行された2004年までの、全米カレッジ一部校に関するあらゆる記録・統計が記載されています。この本を一応全部見てみたのですが、(ヒマな奴と笑わないでください)ユニコーンズを名乗るチームはありませんでした。アメリカでも他に例がない、全くオリジナルなネーミングと受け止めています。
(米国の二部・三部大学やクラブチームに同じ名前が存在する可能性はあります。高校レベルで、テキサス州にNew Braunfels Unicornsというチームがあることがわかっています。また、米国アマゾンで調べると「Pounded by the Gay Unicorn Football Squad」というタイトルの書籍があり、ユニコーン・フットボールリーグに所属するゲイのアメフト選手にまつわるエロチック小説だそうです。笑)

Google で「Unicorns football」と検索しますと、慶應ユニコーンズの他に、ジャーマン・フットボールリーグ(GFL)というドイツにあるアメリカンフットボール組織に所属する「Schwabisch Hall Unicorns」と名乗るクラブチームがあることがわかりました。GFLで何回も優勝経験があるようです。このチームが使用するスタジアムの収容能力が1000名強しかないので、市場規模としては日本の大学アメフト界と同等、あるいは少し小さいのではないかと推測できます。

さて、ここで私は、「なぜ米国にユニコーンズという名前のフットボールチームが存在しないのか」という疑問を持ちました。勇壮でありながら気品のある名前なのですから、他に採用しているチームがいくつもあってもおかしくありません。

英語版および日本版ウィキペディアで「unicorn」と検索すると、長文の解説が出てきますので要約してみます。
・ユニコーンは伝説上の生き物で、額に角がはえた白馬として描かれることが多い。
・聖書の中にレームという名前の動物が見られるが、これを英訳するとユニコーンとなる。
・中世ヨーロッパにおける様々な書物や絵画にユニコーンの存在が多数紹介されている。クイーン・エリザベス2世の紋章にもユニコーンが描かれており、(資料A)単なる「想像上の動物」にとどまらず、極めて格式・尊厳の高い存在であることがわかる。
・ユニコーンは極めて獰猛で、力が強く、勇敢で、俊足で、何ものにも恐れず立ち向かってゆく。大きさはまちまちに紹介されており、山のように大きい時もあれば、女性の膝の上に乗るほど小さい時もある。
・ユニコーンを人間が生け捕りにすることは出来ない。捕まえることが出来ても、激しい怒りを燃やし、ユニコーンは自ら死を選ぶ。
・ユニコーンを捕らえる唯一の方法は、(あくまで伝説の話ですよ)処女の娘を連れてきて誘惑させるというやり方である。森の中に処女を一人置いておくと、その香りに魅せられて近づいてくる。そして処女の膝の上に頭を置き、眠り込んでしまい、麻痺したような状態になるので捕らえることが出来る。1600年頃、画家ザンビエーリの描いた「処女と一角獣」(資料B)がその模様を示す有名な作品である。
・ユニコーンの角には解毒作用があると言われ、中世ヨーロッパではユニコーンの角が盛んに売買されたが、実はこれはクジラの一種であるイッカクの角であった。江戸時代の日本でもイッカクの角がユニコーンの角であると偽って輸入されている。偽りの利用のためイッカクの生態数は激減した。
◎フランスの小説家フローベールが書いた「聖アントワーヌの誘惑」に、一本の角を持つ美しい白馬としてユニコーンが登場する。この小説が人気作となったため、ユニコーンは優美でエレガントな動物としてのイメージが定着した。
◎1968年、ピーター・ビーグルが書いた「The Last Unicorn(最後のユニコーン)」というファンタジー小説が超ベストセラーとなり、アニメ映画にもなった。他のユニコーンが皆死に絶えて、この世で最後の一頭となったメスのユニコーンが旅に出て、自らのルーツを求め様々なキャラクターと巡り合うという物語。これもメスのユニコーンが非常に優美でメルヘンチックに描かれている。

「なぜ、ユニコーンズという名前のチームが米国に見られないか?」という点には、上記の最後の二つの記述(◎)が影響しているのではないか、と感じます。
ユニコーンが優美で、しばしば女性的なイメージとして扱われる(多くの絵画がその傾向を示している)ため、勇猛なフットボールチームのニックネームとしてはふさわしくない、と考えられているのではないでしょうか。「女性に誘惑されておとなしくなる」という性質もマイナス要因なのかもしれません。

伝説上の生き物の名前が、米国でフットボールチーム名に採用される例はあまり多くありません。
ケンタウロス(上半身人間、下半身が馬)、ペガサス(翼をもつ馬)などのチーム名は、米国に有ってもよさそうなものですが、聞いたことがありません。明治大学はグリフィンズ(上半身が鷲、下半身がライオン)という伝説上の動物名を採用していますが、これも米国では聞きませんね。日大のフェニックス(不死鳥)は、アトランタ・フェニックスという女子アメフト・プロチームで採用されています。

ちなみにグリフィンは、馬を目のカタキにしており、馬を殺して食うと言われています。もしかしたら、グリフィンズという命名は、明治の慶應に対するライバル心の現れかもしれません。関東の古参チームが3つも(日大、明治、慶應)伝説上の生き物をチーム名にしているのも興味深い現象です。

このコラムを、米国に住んでいるユニコーンズ卒業生も大勢読んでおられることと思います。周囲のアメフトファンの米国人に、私の仮説に対するご意見を聞いてみていただけませんか?お便りお待ちしております。

さて、次回はいよいよ「慶應義塾におけるユニコーンの謎」に迫ります。どうぞお楽しみに。

資料A:女王エリザベス2世の紋章

資料B:ザンビエーリの絵画「処女と一角獣」