【清水利彦コラム】甦れ!アーミー!2021.04.01

清水利彦(S52年卒)
shimizu.toshihiko2@gmail.com

以前のUnicorns Netでも報告したことがありますが、全米カレッジフットボールにおいては、近年アーミー(陸軍士官学校)が復活の兆しを見せています。

2018年に11勝2敗という好成績で全米最終ランキング19位となり、これは1958年の全米3位(8勝0敗1分)以来60年ぶりの快挙でした。2020年も9勝3敗と大きく勝ち越し、リバティボウルに出場しています。一部の強豪校として定着したイメージがあります。

陸軍士官学校は、時代の変遷とともに大きく戦績が揺れ動いたチームです。

黄金期

1941年に伝説の名コーチ、レッド・ブレイクが就任し、最強のチームを作り上げました。彼のアシスタントコーチにビンス・ロンバルディがいました。ロンバルディを優秀なコーチとして育てたのがレッド・ブレイクだったのです。

1958年までの18年間で121勝33敗10分(勝率.768)と猛烈な勢いで勝ち続け、1944年・1945年には全米王座に輝きました。

1945年(昭和20年)は忘れもしない日本軍敗戦の年です。1944年には太平洋戦争における日本の劣勢は明らかになっており、沖縄等で民間人を含む大量の人間が犠牲となり、本土でも武器や食料が尽きて「国民総自決」などという言葉が飛び交っていました。ちょうどその頃、アメリカ本土では陸軍士官の卵たちがフットボールの試合に大観衆を集めて勝利し、喝采を浴びていたのですから、あまりの国力の違い・情勢の違いに愕然とします。

1944年のアーミーは9勝0敗、総得点504(1試合平均56.0点)総失点35(3.9点)という圧倒的な強さを誇り、史上最強と呼ばれました。ノートルダム大に59-0で勝利し、シーズン最終戦ではランク2位のネイビー(海軍兵学校)との直接対決にも23-7で勝ちました。(ネイビーの最終ランクは4位、陸海両方とも強かったのです。)

添付した写真は1955年のものです。スタンドの学生達が、規律の塊のように見え、大変気に入っている一枚です。ほとんどの士官学生が白人であったことがわかります。女子の入学が認められたのは1976年からで、今では約20%が女子学生です。

この時代はヘルメットを被っていますが、フェイスガードがありません。「前歯が折れて、なくなっているのがフットボール選手の勲章」と言われた時代です。ちなみに16番の選手はドン・ホランダーで、オール・アメリカに選ばれた優秀なレシーバーですが、のちにベトナム戦争で戦死しています。

低迷期

レッド・ブレイクが引退したあとは、40年近く「勝ったり負けたり」の状態が続きました。数年に一度大きく勝ち越すことがあっても、高い戦力を維持し続けることはできなくなりました。そして1997年からは「アーミー暗黒の時代」を迎えます。

2013年までの17年間で50勝149敗(勝率.251)という、笑いものにされるような戦績しか残せなくなりました。2003年には0勝13敗という地獄を経験しています。6連敗した時点でコーチをクビにして入れ替えましたが、それでも勝てませんでした。

復活期

アーミー復活の原因は、2014年に就任したコーチ、ジェフ・モンケンに負うところが大きいです。最初の2年間は勝てませんでしたが、2016年に8勝(5敗)をあげ、負けの連鎖を断ち切ることが出来ました。それ以降5年間で4回ボウルゲームに出場しています。

モンケンは1967年生まれの53歳。イリノイ州のミリキン大学という学生数2000人の全くの無名校でWRをしていました。そこから21年間アシスタントコーチとして多くのチームを渡り歩き、途中一年間高校のヘッドコーチをしたこともある苦労人です。43歳でジョージアサザン大のヘッドコーチになり、38勝16敗という好成績を残して、アーミーに迎えられました。

アーミーは、他の有力校と異なり、優秀な高校フットボール選手を好条件で引き抜いてくるようなことは出来ません。一方、体力的に優れた人材はたくさん居ますし、また、厳しい規律や猛訓練を当然と受け止める選手ばかりのはずです。彼らをどのように育てるか、ジェフ・モンケンの手腕にかかっている部分は大きいと推察します。

アーミーvsネイビー定期戦は、「America’s Game」と呼ばれ、大変な人気カードです。フィラデルフィアなどの中立サイトの巨大スタジアムを満員にしておこなわれ、時の大統領が観戦にやってくることが幾度もありました。1890年以来、戦争中も一度も途絶えることなく121回おこなわれており、対戦成績はネイビーが61勝53敗7分とリードしています。アーミー暗黒の時代に14連敗したため、逆転され差がついてしまったのですが、最近4年間はアーミーが3勝1敗と盛り返しています。

実はこのアーミーvsネイビー定期戦も、筆者が「死ぬまでに訪れてみたい試合」の一つです。ユニコーンズ卒業生の中で、この定期戦を実際にスタジアムで観戦した方がおられましたらご一報いただけませんか?様子をお尋ねしたいと願っています。

2018年9月、アーミーは全米5位にランクされていたオクラホマ大とアウェーで戦い、一歩も譲らぬ大接戦を演じました。21-21で延長となり、オーバータイムで力尽きましたが、アーミーの奮闘ぶりはアメリカ全土に驚きを与え、人々は「陸軍士官学校が本気で全米王座復帰を狙っているのではないか」と認識したのです。

甦れ!アーミー!