【清水利彦コラム】私が勝手に選んだ「年間最高試合」(Game of the Year)2022.03.10

清水利彦(S52卒)
shimizu.toshihiko2@gmail.com

前号で、「今の情報には極めて浅学」と書いたのに、その舌の根の乾かぬ内に、「私が選んだ年間最高試合(NFL&カレッジ Game of the Year)を発表する」という、けしからん新企画です。

私の考えを皆様に押し付ける気は全くありませんので、「なにを言っているんですか!○○vs△△の試合の方がずっと凄かったですよ!」等々のご意見メールをいただくことを歓迎いたします。

<カレッジフットボール Game of the Year>
テキサスA&M大 41-38 アラバマ大

この試合はシーズン前半、2021年10月9日にテキサスA&M大の地元カレッジステーションのカイル・フィールド球技場にておこなわれました。カイル・フィールドは収容能力10万3千名と巨大で、「世界で5番目に大きい球技専用スタジアム」として知られています。こんなスタジアムが大学のキャンパス内にあることが信じられません。

当時アラバマ大は5戦全勝で全米ランク1位。2020年度は13戦全勝で全米王座に輝いており、最後に負けたのは2019年11月のオーバーン大戦(アラバマ45-48オーバーン)まで遡ります。テキサスA&M大戦までに3年がかりで19連勝中。過去12年間に6回全米王座に着いている絶対王者です。

一方テキサスA&M大は開幕から3連勝のあと、アーカンソー大、ミシシッピ州立大に2連敗してランキング25位から脱落し、既にリーグ優勝の可能性は消えています。アラバマ大には過去7連敗中で、その間の平均得失点差がマイナス23点と「接戦に持ち込むのも難しい」状態でした。

アラバマ大は「ランキング25位に入っていないチームに対しては、14年間で100連勝中」という、とんでもない記録も当時継続中で、アラバマからすると、「テキサスA&M大は負けるはずのない相手。ただしカイル・フィールドの熱狂的な大観衆だけは調子に乗せると厄介。」というようなイメージで試合に臨んだのではないでしょうか。

試合はテキサスA&M大のショートパスが小気味よく決まり、96ヤードのキックオフリターンまで飛び出して、第3Q残り5分でA&M31-17アラバマと予想外のリードを奪います。ところがここからアラバマが地力を発揮し、4回の攻撃権を全て得点に結びつけ、第4Q残り5分でアラバマ38-31A&Mと逆転。多くのA&Mファンが「ああ、やはり今年も勝てないのか」と天を仰ぎましたが、次の攻撃でA&MがTDを奪って38-38の同点。続くアラバマの攻撃を3 & Outに抑え、残り2:08で攻撃権を得たA&Mはしぶとく前進して最後の3秒から28ydの決勝FGを決めました。

テキサスA&M大の観客席には何千人もの「軍人養成クラス」の学生がいますが、彼らは全員ベージュ色の軍服で応援します。「試合を観るのではなく、選手と一緒に闘っている」という感覚です。勝利の瞬間、1万人を超える「ベージュの軍服と、エンジ色Tシャツの一般学生」がフィールドになだれ込み、誰かれ構わず抱き合い、涙を流す様子を見て、筆者もウルウルきていました。

ハイライト映像はYou Tube「alabama vs texas a&m 2021」(12分)にてどうぞ。

<NFL Game of the Year>
カンザスシティ・チーフス 42-36 バッファロー・ビルズ

2022年1月23日 於カンザスシティ、アローヘッドスタジアム

Divisional Roundと呼ばれるこの週は、「スーパーボウルへの準々決勝」と言うべき4試合がおこなわれましたが、3点差3試合、6点差1試合と、どちらも手に汗握る大接戦でした。その中でも、このチーフスvsビルズ戦が群を抜いて面白かったと思います。もし誰かが「アメリカンフットボールって、ルールが難しくてよくわからないし、つまらない」などと失礼な事を言うのであれば、「だったら、この試合の映像を観てみろ」と言い返したくなるような試合でした。

この試合における「勝利へのモチベーション」はビルズの方が強かったと思います。

チーフスが2020年のスーパーボウル王者となったのに対し、ビルズは「悲しい歴史を背負ったチーム」と呼ばざるを得ません。(通算戦績449勝492敗8分 .477)

ビルズは1960年に新興リーグAFLの一員として創設され、1964年65年にはAFLチャンピオンとなり順調なスタートを切りました。ところが1970年にNFLに加盟して以来、まだ一度も優勝経験がありません。長い期間「弱小チーム」との烙印を押されています。

1987年にマーブ・レビー・コーチが就任し、QBジム・ケリーの活躍等で一気に強くなり、4年連続でスーパーボウルに出場しましたが、その結果は、

1991年 敗戦 19-20ジャイアンツ
1992年 敗戦 24-37レッドスキンズ
1993年 敗戦 17-52カウボーイズ
1994年 敗戦 13-30カウボーイズ

と、やればやるほど王座が遠のいていくような感じでした。4年連続スーパーボウル敗退というのは、もしかしたら永遠に破られない記録かもしれません。

その後20年間程、再び低迷していましたが、QBジョシュ・アレンの加入以来、直近3年連続プレイオフ出場となり、初優勝に向けて再起の気配が見えています。

ちなみにバッファローという町はニューヨーク州にありますが、ではマンハッタンに近いのかというと、とんでもない間違いで、クルマで600キロ離れておりエリー湖のほとりにあります。ナイアガラ滝も近くです。一年のうち4か月は平均気温が零度以下。豪雪の街としても有名です。市の人口は30万人ほど。周辺を合わせても100万人ほどと少なく、どうしてここにNFLのチームを作ったのかなと不思議に思うことがあります。

1962年当時のビルズのヘルメット・ロゴマーク。「躍動感のない、ダサいロゴマーク」と言うなかれ。スペインのアルタミラ洞窟内に旧石器時代の人類が描いた「バッファローの絵」をモチーフにした、由緒あるデザインです。 出典:Sports Illustrated “The Football Book”

チーフス(KC)vsビルズ(BB)の試合の話に戻りましょう。

第3QまでKC23-21BBの大接戦。第4Qに入ってチーフスがFGを加えて、KC26-21BBとリードを広げて残り2分となります。ここからの2分間はNFLの歴史に刻まれるような内容であったと確信します。なにせ、

「最後の2分間に、TD3回とFG1回が記録された」
「最後の2分間に、3回の逆転劇と、1回の同点劇が起こった」のですから。

1:54 ビルズが17プレー75ydドライブで逆転TD  BB29-26KC (2ポイント成功)
1:02 チーフスが6プレー75ydドライブで逆転TD  KC33-29BB
0:13 ビルズが6プレー75ydドライブで逆転TD  BB36-33KC
0:00 チーフスが2プレーで44yd前進し、49ydの同点FG成功  KC36-36BB
延長戦(15分)突入
10:45 チーフスが8プレー75ydドライブでTD  KC42-36BB 試合終了

NFL最高峰の2人のQB、マホームズ(26歳)アレン(25歳)の競演が見事でしたね。

まだご覧になっていない方にはYou Tube「Chiefs vs Bills Divisional Round Highlights(17分)」をお勧めします。

<NFLの延長戦ルールに物申す>

「史上最高の2分間」を見せてくれた素晴らしい試合でしたが、ただ一つの不満としては、「延長戦に入ってからの、あっけない幕切れ」が挙げられると感じます。
チーフスが延長後最初のドライブでTDした局面で試合終了となり、「あれ?ビルズの攻撃は無いの?ジョシュ・アレンの出番は??」と首を傾げた方が多かったのではないでしょうか。

NFLのオーバータイム・ルールでは、
・コイントスにより、キックオフかレシーブを選択する。通常通りのキックオフをおこなう。
・最初の攻撃権において、A軍(攻撃側)もしくはB軍(守備側)がタッチダウンするか、セフティーが発生したら、その時点で試合終了。
・A軍がFGに終わる場合は、B軍が攻撃権を得る。B軍がTDすれば勝ち。0点ならA軍の勝ち。B軍もFGの場合は、試合を継続し、サドンデス方式で勝負を決める。A軍が0点の場合も同様。
ということのようですが、この試合のように最初の攻撃権でTDし、即終了となると「最初のレシーブを得たA軍が有利」のように思えて不公平感があります。

フットボールは「攻撃権とフィールドポジションを競うスポーツである」と言われますが、それなら延長戦に入っても、両軍に「同等の攻撃権とフィールドポジション」を与えなければならない、というのが筆者の意見です。
カレッジにおいては、「両軍が敵陣25ydから、野球のように表と裏の攻撃をおこない、得点の多い方が勝ち。同点の場合は二回目の表と裏をおこなう。3回目からは3yd地点から両軍が2ポイントコンバージョンを繰り返す。」という延長ルールですから理にかなっています。

NFLとしては、「過去の延長戦の統計を見ても、A軍の勝率が高いわけではない」というのが論旨のようですが、本音としては「カレッジ方式で延々とやって決着がつかなかったらどうするんだ?」ということと推察します。実際、今季のアラバマ大vsオーバーン大戦では4回の延長が発生しています。かなり長時間の試合となったことでしょう。
さて、皆さんはどのように感じておられますか?

「清水利彦のアメフト名言・迷言集」
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