【清水利彦コラム】フットボール・シーズン開幕!全米カレッジ・プレシーズンランキングについて 2022.08.25

清水利彦(S52年卒)
shimizu.toshihiko2@gmail.com

いよいよフットボール・シーズンの到来です!
ユニコーンズは9月3日土曜16時、東京ドームという、願ってもない素晴らしい舞台にての開幕となります。
NFLは9月8日木曜にラムズvsビルズという好カードで先行開幕。9月11日日曜から一斉スタートです。全米カレッジは8月27日土曜には数試合がおこなわれ、本格スタートは9月3日土曜となります。
3日には、オハイオ州立大vsノートルダム大、ジョージア大vsオレゴン大という大一番が早くも組まれています。

カレッジフットボールにおいては、2022年プレシーズンランキング(Coach’s Poll)が発表になっていますので、お知らせしておきます。参考まで、その表に「全米王座獲得回数」と「最後に王座に着いた年号」を加えてみました。(全米王座記録出典:NCAA.com)

1位        アラバマ大          全米王座16回(2020年)
2位        オハイオ州立大                 8回(2014年)
3位        ジョージア大                    2回(2021年)
4位        クレムソン大                    3回(2018年)
5位        ノートルダム大                 12回(1988年)
6位        ミシガン大                        9回(1997年)
7位        テキサスA&M大             2回(1939年)
8位        ユタ大                               王座経験なし
9位        オクラホマ大                    7回(2000年)
10位    ベイラー大                    王座経験なし
11位      オクラホマ州立大             王座経験なし
12位      オレゴン大                        王座経験なし
13位      ノースカロライナ州立大   王座経験なし
14位      ミシガン州立大                 3回(1966年)
15位      USC                                   8回(2003年)
16位      ピッツバーグ大                 4回(1976年)
17位      マイアミ大                        5回(2001年)
18位      テキサス大                        4回(2005年)
19位      ウエイクフォレスト大      王座経験なし
20位      ウイスコンシン大             王座経験なし

1位から6位までを見る限り、「少しも新鮮味のない、いつもと同じ顔ぶれ」のように感じます。「また、アラバマかよ。過去13年間に6回全米王座となっており、勝ち過ぎで興味を削がれるよ」とお考えの方は多いと思います。もっともアラバマ大ファンに言わせれば、「なに言ってるんだ!直近4年間で1回しか優勝してないんだぞ!今年こそ優勝してもらわねば!」という話になってゆくのでしょうね。

アラバマ大にとって最大の敵は、「ニック・セイバン・コーチの加齢」なのかもしれません。55歳でアラバマ大コーチに就任したセイバンは、15年間で178勝25敗(.877)というとんでもない戦績を築き上げてきましたが、今年シーズン中の10月には71歳となります。選手入場の際に、選手たちの先頭に立って猛ダッシュでフィールドに駆け込んで来ることで有名なセイバン・コーチでしたが、今も全力ダッシュは続けているのでしょうか?69歳で亡くなった伝説のコーチ、ポール・ベア・ブライアントの年齢を既に上回っています。

2008年、選手入場の際に先頭を切って走るニック・セイバン・コーチ(当時57歳)
出典:Sports Illustrated, ALABAMA FOOTBAL

筆者がご贔屓のテキサスA&M大が7位に入っているのは嬉しいニュースです。ここ3年程非常に良いリクルーティングが出来ているそうで、好選手がずらりと並ぶ布陣となりました。「1939年以来、83年ぶりの全米王座復帰なるか?」興味深いところです。
※ユニコーンズは1948年のシーズン以来、74年ぶりの学生王座復帰が掛かっています。

ランキング8位以下はなかなかフレッシュな顔ぶれが揃いました。今回はその中で10位のベイラー大にスポットを当ててみましょう。

ベイラー大ってどんな学校?

創立1845年(178年前)という歴史のある大学です。なんとテキサス州で一番古い大学なのです。

  • ベイラー大:1845年設立 私立大学 学生数20600人
  • テキサスA&M大:1876年設立 州立大学 学生数73000人
  • テキサス大:1883年設立 州立大学 学生数52000人

と、「私立のこぢんまりとした学校」であり、他のビッグ2とはかなり異なる性格の大学と言えます。
ダラスから南へ150kmほど行ったウェイコという人口14万人ほどの小さな町にあります。
創始者R.E.B.ベイラー氏等によってバプティスト派教会の学校として設立されました。現在も大学のモットーが「For Church, For Texas(教会のために、テキサス州のために)」ですから、宗教色が強く、地域密着度の高い学校と推察します。

フットボール部設立は、1902年テキサス大、1903年テキサスA&M大・ベイラー大と、3校ほぼ同時で、立派な歴史を持っています。ただし、全米王座経験のあるテキサス大、テキサスA&M大と比べて、ベイラーの通算戦績は609勝502敗37分(.578)と決して弱くはないのですが、「117年間、全米王座と全く縁がなかった大学」ということができるでしょう。

出典:Wikipedia
ベイラー大キャンパス内に45000人収容できるフットボールスタジアムがあり、同校の伝統で、一般学生の新入生歓迎会(Baylor Lineと呼ばれる)がスタジアムの中で、フットボールのホームゲームに先立っておこなわれます。フィールド上に黄色いジャージを着て並んでいるのは選手ではなく、一般新入学生です。この儀式を毎年続けていれば、「フットボールの試合を一度もスタジアムで観たことがない学生は、一人も居ない」わけで、本当にうらやましい伝統です。

1915年にテキサス州の有力校と、周辺の州の名門校が集まってSWC(Southwestern Conference)が結成された際に、ベイラー大は当初から加盟しています。1922年と1924年にSWC優勝していますが、当時はまだボウルゲームや全米王座ランキング制度がありませんでした。その後パッタリと勝てなくなり、次の優勝は50年後、1974年にグラント・ティーフという優れたコーチが着任する時までありませんでした。

グラント・ティーフの前任コーチ、ジョン・ブリッジャースは、かつて記者会見で「ベイラー大は何故39年間も優勝できないのですか?」と質問されて、「モーゼは悟りを開くのに40年かかっている。我々はモーゼを超えるわけにはいかんのです。」と答えて爆笑を誘っています。
グラント・ティーフ自身もコーチ就任記者会見で、「どうしてベイラー大は何十年も優勝出来ないのでしょうか?」と訊かれて、「我慢強いことが、我がチームの最大の欠点だと思う。」と答えて失笑を買いました。つまり、かつては「勝てなくて当たり前」という雰囲気の強い大学だったのです。

ベイラー大はグラント・ティーフの功績により、1974年、1980年にSWCリーグ優勝しましたが、いずれもコットン・ボウルで敗れており、全米王座に近づく事は出来ませんでした。
1996年にSWCが解体され、テキサス大やオクラホマ大とともにBig 12に加盟してからは、地獄の14年間を過ごします。1996-2009年までで43勝117敗(.268)と完全に「リーグのお荷物」扱いされていましたが、2010年から急に強くなり始め、直近12年間で10回ボウルゲームに出場しています。

そして昨年2021年12月、創部117年目にして最高の瞬間が訪れます。10勝2敗でレギュラーシーズンを終えたベイラー大は、Big12のリーグ優勝決定戦に進みオクラホマ州立大と対戦しました。オクラホマ州立大はこの時点(11勝1敗)で、まだ初の全米王座の可能性を残していました。
ベイラー大が21-16とリードして試合時間残り3:30。ここからオクラホマ州立大(赤)がどのように攻め、ベイラー大(白)がどのように守ったかは、両校の歴史に永遠に刻まれることでしょう。ご覧になっていない方は下記のYou Tube映像を是非ご覧ください。痺れるような結末です。

Big12リーグ優勝したベイラー大はシュガーボウルに出場し、ミシシッピ大に21-7と快勝。最終ランキング5位でシーズンを終えました。ランク5位は創部117年目での最高の地位となりました。この快進撃があったため、今年のプレシーズンランキング10位という評価に繋がっています。せっかくここまで深い谷間から這い上がって来たのですから、ベイラー大に初の全米王座に着かせてやりたいなと思っているのは、私だけではないはずです。

プレシーズンランキングに新鮮な顔ぶれが並んでいるということは、一方で脱落した常連組がいるわけです。ルイジアナ州立大、オーバーン大、フロリダ大、フロリダ州立大、ペンシルバニア州立大等が常連組と言えますが、彼らも虎視眈々とランク上位復帰を狙っている事と思います。

今季の全米王座大胆予想

私は今シーズンの全米王座獲得確率を次のように予想しています。

A アラバマ大が優勝する確率:50%強
B ジョージア、オハイオ州立大、クレムソンのいずれかが優勝する確率:30%
C ノートルダム、ミシガン、オクラホマのいずれかが優勝する確率:10%
D 上記以外の大学が優勝する確率:10%弱

そしてDが実現することを心の底から願っている事も申し添えます。Cの大学群も全て20年、30年以上優勝から遠ざかっているので、Cの実現でもOKです。さあ、どうなりますことやら。

長々と全米カレッジについて書きましたが、どうか卒業生の皆様方には、まず9月3日土曜16時、東京ドームに足をお運びいただきたくお願い申し上げます。今年は「TOP8に10チーム居て、下位(9位、10位)2チームが自動降格。7位、8位はBIG8との入替戦出場」とのことで、ここ数十年で最も厳しいリーグ戦になると感じております。今年はシーズン中ずっと「赤の応援」をすると伺っておりますので、赤い服をお持ちの方は是非ご着用の上、スタジアムにお出で下さい。
我々ユニコーンズを応援する者達の声援により、慶應のボールを更に1ヤード前に進めましょう!


「清水利彦のアメフト名言・迷言集」
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