【清水利彦コラム】永遠のライバル・シリーズ第3回​「グリーンベイ・パッカーズvsシカゴ・ベアーズ」 泥まみれ、血まみれ、憎悪むき出しのライバルリー 2024.05.31

2024/5/30
昭和52年(1977年)卒 清水利彦
shimizu.toshihiko2@gmail.com

「プロフットボールの中で、最も激しいライバル関係は?」と問われるなら、私ならば「グリーンベイ・パッカーズvsシカゴ・ベアーズ」と答えますし、長年に渡りプロフットボールを観続けている方ならば同意してくださる方は多いでしょう。

両チームの感情むき出しのライバル関係を示すエピソードの中で、私が最も気に入っているのが、シカゴ・トリビューン紙の編集者ドン・ピアーソンが書いた次の文章です。
※シカゴ・トリビューン紙は1847年創刊で、かつては「世界最高の新聞」と呼ばれました。

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まだ息子が幼かった頃、夏休みになると、妻と私は子供を連れてシカゴの喧騒を抜け出し、五大湖周辺の静かで緑濃い地域をドライブ旅行するのを習慣にしていた。

ある夏、我々家族はウイスコンシン州を訪れ、クルマで北へ向かっていた。長時間の運転に疲れた私は街道から外れ、一軒のダイナー(食堂)を見つけて車を停めた。そのダイナーはウエイトレスを置かずに、店主が一人で切り盛りしている小さな店だった。

店に入った瞬間から、我々は異様な対応をされていることに気が付いた。店主は我々に挨拶をすることもなく、注文を取りに来ることもせず、ひたすら我々を無視しているのだ。しばらく待っていても何も対応してくれないので、私は次第に腹が立ってきた。見知らぬ旅行者に何故こんなに冷たい扱いをするのかと、ひとこと文句を言ってやろうと立ち上がりかけた時、妻が私の袖を引っ張って言った。

「ねえ、あなた、あれがマズいんじゃない?」
妻が指さした先には息子がいた。その瞬間、私も全てを悟った。

5歳になる息子が、シカゴ・ベアーズのTシャツを着ていたのだ。

ケンカを売っていたのは店主ではなく、我々家族の方だった。この地で絶対にやってはいけない行為をしたのは我々だったのだ。そして、我々は既にウイスコンシン州、つまり「グリーンベイ・パッカーズの王国」の奥深くに足を踏み入れていることを痛感させられたのだった。

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私の好きな慶應の歌の一つに「我らぞ覇者」(作詞:藤浦洸、作曲:古関裕而)があります。

「よくぞ来たれり 好敵早稲田 天日のもとにぞ戦わん」

つまり歌の中でも、早稲田が好敵手であることを認めています。試合の際にはお互いに死力を尽くして戦うが、試合が終わればお互いを認め合い尊敬しあう、という無言の合意が両校にあるわけです。

たぶんハーバード大vsエール大も同じような関係だろうと推察します。

ところが、ベアーズvsパッカーズの闘いに関する書籍を何冊も読みましたが、どうも両チームの間には相手に対する尊敬の念などは微塵もなく、「あいつらだけは何があっても許せん」というような憎悪むき出しの感情のみがあるようなのです。ハーバード大vsエール大の関係よりは、阪神vs巨人の関係に近いと思われます。(読者の方からの反論を歓迎します笑)

「Mudbaths & Bloodbaths」の表紙

先ほどのドン・ピアーソンのエピソードは、「Mudbaths & Bloodbaths」(泥まみれ、そして血まみれ)副題「ベアーズvsパッカーズ、死闘の歴史の内幕」by Gary D’Amato and Cliff Christlという過激なタイトルの本の中で見つけたものです。※Bloodbath には「血の粛清」とか「大虐殺」という物騒な意味もあります。

この本の中で、パッカーズの鉄人オフェンスタックルと呼ばれたフォレスト・グレッグが、シカゴ・ベアーズに対する嫌悪感を次のように語っています。

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もし「15年にわたる私のNFL選手生活の中で、最悪の思い出は何か?」と問われるならば、私は「シカゴへの遠征試合の帰り道で起こった出来事」を挙げるだろう。

ある年、我々パッカーズはシカゴ・ベアーズとのアウェイゲームで、接戦の末、痛い逆転負けを食らった。疲れ切った我々は一刻も早くシカゴの街を出て、飛行機に乗りグリーンベイに戻ることを望んでいた。ところがその日は感謝祭の週末で、シカゴのダウンタウンは買い物客でごった返し、そこに試合が終わったあとの大観衆が流れ込んだので、とんでもない大混雑・大渋滞になっていた。

我々選手用の空港行送迎バスも大渋滞に巻き込まれ、ついに1ヤードも進めず止まったきりになってしまった。具合の悪いことに我々のバスが停止した場所は、シカゴ・ベアーズの熱狂的なファンが集うことで有名なバーの真ん前だった。客の一人が、動けないバスの中にパッカーズの選手達が乗っていることに気付いて、大声で仲間を呼んだので、我々のバスは十数人もの泥酔したベアーズファンに取り囲まれることになった。

マネジャーがあわててバスの窓を閉めて回ったが、時すでに遅く、酔客たちは我々に向かって中指を立て、「バカヤロー!死ね!」「下手くそ!!」「地獄に堕ちろ!!」「とっとと田舎に帰れ!!」などと口々に叫び続けた。最初は冷静さを失ってはいけないと自分を戒めていたが、私の顔が次第に紅潮し、血圧が上がってゆくのが自分でもわかった。

バスが止まっていたのはわずか数分のことだったろうが、私には数時間にも思えた。

その後どうしたのかって?当然だよ、こちらもあらん限りの声で奴らに向かって、思いつく一番汚い言葉を投げ続けたのさ。

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なぜ両チームがこんなにも憎悪むき出しで対決するのかを知るために、まずは「両チーム誕生の歴史」を確認してみましょう。

1950年代、グリーンベイから汽車でシカゴでの試合応援に向かうパッカーズの熱狂的ファンたち。貨物列車を一両改造して「バー専用車両」にしています。この調子で飲んでいたら、おそらくシカゴに着く頃には全員ベロベロに酔っていたのでしょうね。出典:“Mudbaths & Bloodbaths” by Gary D’Amato and Cliff Christl

<ベアーズとパッカーズ、誕生の歴史>

時系列でチーム創設期を示すと次のようになります。

1920年 プロフットボール組織APFA(American Pro Football Association)設立
デケイター・ステイリーズ(のちのベアーズ)が14チームのうちの一つとして発足・参加
              ※シカゴ・カージナルス(のちアリゾナ)も参加

1921年 APFAが21チームに拡大
デケイター・ステイリーズがシカゴに移転し、シカゴ・ステイリーズと改名し、初優勝
      グリーンベイ・パッカーズが発足・参加

1922年 APFAがNFLという新たな組織に変更され、18チームで活動開始
              シカゴ・ステイリーズがシカゴ・ベアーズと改名

1923年 NFLが20チームに拡大 ベアーズは2位、パッカーズは3位

1925年 シカゴ・カージナルス初優勝 NYジャイアンツが新規加盟

1927年 NFLが12チームに一気に縮小 NYジャイアンツが初優勝

1929年 グリーンベイ・パッカーズ初優勝(この年から3連覇)

つまり、次のようなことが言えます。

  • ベアーズとカージナルスが一番早く設立されており、「現存する最古のプロフットボールチーム」である。パッカーズは1年遅れで設立。この3チームはNFLの創設よりも歴史が古い。
  • パッカーズは3番目に出来たチームではあるが、創立以来、移転も改名も一度も経験しておらず、「現在も同じ名前、同じ場所で運営を続けている最古のチーム」である。

1926年、シカゴ・ベアーズのサイドライン風景。下半身を麻袋のようなものに入れて、暖を取っています。選手右端がベアーズ初期黄金時代のスターRBレッド・グランジ。年間12,000ドルで契約し、「プロフットボール界初の高給取り」と言われました。 出典:The Football Book, Sports Illustrated

また、優勝回数を見てみますと、

パッカーズ          NFL選手権優勝9回 スーパーボウル優勝4回 計13回
ベアーズ              NFL選手権優勝8回 スーパーボウル優勝1回 計9回
(※カージナルスはNFL選手権優勝2回 スーパーボウル優勝0回 計2回とかなり見劣りします)

特にスーパーボウル(1966年度~)が始まる前のNFL選手権時代に、44年間でパッカーズとベアーズ合わせて17回優勝しており、両者が「NFLの中で、断トツに強い2チーム」でした。現在でも通算最多優勝回数では1位パッカーズ(13回)、2位ベアーズ(9回)、3位ジャイアンツ(8回)の記録が保持されています。スーパーボウルで何度も勝っているように思えるペイトリオッツやスティーラーズでも、優勝回数は6回ずつしかありません。

この勝利の歴史が、パッカーズとベアーズに「我こそがプロフットボールの盟主」という誇りを持たせ、お互いを「あいつらにだけは負けるわけにはいかない」という感情を抱かせているのだろうと推察します。

1962年、血だらけのユニフォームでベアーズ戦の守備陣を指揮する、パッカーズ主将LBレイ・ニティキ 出典:Football’s Greatest, Sports Illustrated

パッカーズファンの方々には、両チームの数ある対戦の中で、次のYou Tubeダイジェスト動画をお勧めします。(10分)

The CRAZIEST Injury Comeback! (Bears vs. Packers, 2018) (youtube.com)

次号以降でも、パッカーズとベアーズの関係を更に掘り下げてみようと思います。

秘書 「大統領、本日のパーティーにシカゴ・ベアーズの連中が参加するそうですが。」

大統領「それは楽しみだね。私は子供の頃から動物が芸をするのを見るのが大好きなんだ。」

あまりフットボールに詳しくない、カルビン・クーリッジ
(第30代アメリカ合衆国大統領 在位1923-29年)

 

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