【清水利彦コラム】永遠のライバルシリーズ  「カリフォルニア大vsスタンフォード大」その3 Big Gameで起こったカレッジ史上最大の奇跡「The Play」2025.06.12

S52年卒 清水利彦
shimizu.toshihiko2@gmail.com

 

Big Game(カリフォルニア大vsスタンフォード大対校戦)の歴史

カリフォルニア大とスタンフォード大が、「我らこそが西海岸最高の大学」というプライドを賭けて激突するのがBig Game です。Big Gameは1892年に開始されましたが、これはスタンフォード大が創設された翌年にあたります。大学の歴史とフットボール対校戦の歴史がほぼ同時に進んでゆくのです。

 

そのため、この2校は昨年までに127回も対戦(スタンフォード大の65勝51敗11分)しており、これはNCAA一部校同士の対校戦としては非常に古いものです。

アーミーvsネイビーで125回(ネイビー63勝55敗7分)、テキサス大vsオクラホマ大で120回(テキサス64勝51敗5分)、ミシガン大vsオハイオ州立大で119回(ミシガン62勝51敗6分)、ノートルダム大vsUSCで95回(ノートルダム52勝38敗5分)ですから、それよりも長い歴史があります。

私が調べた範囲ではBig Gameよりも古い対校戦は、ミネソタ大vsウイスコンシン大の134回(なんと通算戦績は63勝63敗8分の同率!)しかありません。

 

アイビーリーグ同士では、エール大vsプリンストン大の146回、ハーバード大vsエール大の140回等々、歴史の古い対校戦がいくつかありますが、アイビーリーグはNCAA二部(FCS=Football Championship Subdivision)に所属しており、全勝でシーズンを終えても全米チャンピオンになれるわけではありません。Big Gameが「一部校対校戦の中では二番目に歴史が古く、最も注目をあつめる試合」と言えますね。

1997年、第100回Big Gameがおこなわれた時の記念パンフレット

1891年、スタンフォード大が創設された際に「第一期入学生」となった、フーバーという名前の若者がいました。フーバーは学業においては平凡な成績しか残せませんでしたが、大学の諸活動に積極的に参加し、そのうちのひとつとして「スタンフォード大フットボール部と野球部の学生マネージャーを兼務」しました。

フーバーの友人が「カリフォルニア大フットボール部の学生マネージャー」となっていたため、両校でフットボール対校戦をおこなう話が二人のマネージャーの間でとんとん拍子に進み、1892年3月に試合をすることになりました。これが第1回Big Gameとなります。「一万枚のチケットを用意したが、二万人の観客が集まり、大混乱になった」との記述が残されています。(14-10でスタンフォード大の勝利)

この時のスタンフォード大の学生マネージャー、フーバーこそが、のちの第31代アメリカ合衆国大統領ハーバート・フーバーとなるのです。

私はかつて「アメリカ合衆国大統領になったフットボール選手」というコラムを書いたことがあります。

【清水利彦コラム】 新春特別企画「アメリカ合衆国大統領になったフットボール選手達」2024.1.11 | アメリカンフットボール三田会

しかし、「アメリカ合衆国大統領になったフットボール部マネージャー」が存在したという話は今回初めて知ったため、身体が震えました。

この時以来、Big Gameは毎年交互に両校の本拠地で開催されています。開催できなかったのは1915~1918年(第一次世界大戦)と1943~1945年(第二次世界大戦)の7回だけです。コロナ災禍の2019年以降も途切れることなく続けられています。

通算戦績はスタンフォード大の65勝51敗11分ですが、直近4年間はカリフォルニア大が4連勝しており、差が縮まりつつあります。

Big Gameの勝者には「スタンフォードの斧(Stanford Axe)」という優勝盾が渡され、翌年の試合まで勝利校がStanford Axeを保持できるという伝統があります。

2010年、Big Game勝利によりStanford Axeを獲得したスタンフォード大選手達 出典:Wikipedia

 

カレッジフットボール史上、最大の奇跡「The Play」

43年前、1982年のBig Gameの結末は「The Play」と呼ばれる奇跡となりました。カレッジフットボールの歴史において、永遠に語り継がれてゆくと思われますので是非皆さんも知っておいてください。

この年はスタンフォード大のQBジョン・エルウェイの最終学年でした。ジョン・エルウェイはオール・アメリカに選ばれた最高のQBでしたが、ハイズマン賞は獲得していません。ジョージア大3年生にハーシェル・ウォーカーという傑出したRBがいて、(ウォーカーが1年の時ジョージア大が初の全米王座獲得)1982年はウォーカーがハイズマン投票で1位となり、エルウェイが2位でした。

実はジョン・エルウェイを擁しながら、当時のスタンフォード大の戦績は特筆すべきものではありません。エルウェイは2年生からスターターとなりましたが、2年時6勝5敗、3年時4勝7敗で、4年生になっても強敵オハイオ州立大やワシントン大を倒す殊勲の勝ち星をあげながら、最終戦Big Gameを残し、5勝5敗と芳しくありませんでした。

UCLA戦に35-38で敗れたように「いくらエルウェイがTDを挙げても、それ以上に失点して負ける」ことが多かったのです。エルウェイは、まだ一度もボウルゲーム出場がありませんでした。

しかし、1982年(4年時)「最終戦Big Gameに勝利すれば、スタンフォード大がホール・オブ・フェイム・ボウルに招待される」ことが公表されました。スタンフォード大ファン、そしてエルウェイ・ファン達にとって「ジョン・エルウェイがスタンフォード大のユニフォームを着て、ボウルゲームに出る姿を観たい!これが最後のチャンス!」だったのです。

レギュラーシーズン最終戦Big Gameは大変な注目を集めて行われました。一方、カリフォルニア大はここまで6勝4敗と既に勝ち越しを決めています。

1982年11月20日、カリフォルニア大のメモリアルスタジアムには76000人の大観衆が集まり、スタンフォード大カーディナル(STA)対カリフォルニア大ゴールデンベアーズ(CAL)のBig Gameは、史上まれに見る大激戦となりました。得点経過をご覧ください。

前半終了           CAL 10-0 STA

第3Q終了          STA 14-10 CAL

第4Q途中          CAL 19-14 STA       CALがTD後2ポイント・コンバージョン失敗

残り1:34           CAL 19-17 STA       STAがFG成功で追い上げ

残り0:04             STA 20-19 CAL       STAがFG成功で逆転

 

残り4秒の逆転FGにつなげたQBエルウェイの最後の前進は見事なものでした。途中、第4ダウン17ヤードという絶体絶命の場面で、落ち着いて22ydのパスを成功させています。

CAL陣17ydまで前進して、あとはKハーモンの34ydFGに全てを託し、見事成功します。

ただし、ここでSTAコーチ陣は大きなミスを犯しています。FGを蹴る前のタイムアウトを残り8秒で取ったのです。残り8秒ではなく、残り4秒でタイムアウトを取っていれば、FG成功時点で残り0秒となり試合は終了してSTAが勝っていました。

CALは首の皮一枚残った最後の4秒でキックオフリターンに賭けます。リターンをTDに結び付けなければ勝利はありえません。ここで起こった奇跡が「The Play」です。

百聞は一見に如かず、87秒のYou Tube画像をご覧ください。米国スポーツ界の歴史上で、最高の瞬間の一つとして、現在も語り継がれています。感極まったTV中継アナウンサー、ジョー・スターキーの絶叫の連続も忘れえぬ語り草となっていますので是非聴いてください。

The Play from the Cal vs. Stanford 1982 Big Game #GoBears  87秒

The Playを有名にした要因の一つとして、スタンフォード大マーチングバンドが、残り4秒逆転FGが成功した時点で勝利を確信してエンドゾーンやフィールドに飛び出してしまったことが挙げられます。

スタンフォード大マーチングバンドたちをかき分け、エンドゾーンに飛び込むCALリターナー、ケビン・モーエン  出典:The College Football Book, Sports Illustrated

5回のラテラルパスをつなぎ、最後にリターンTDを決めたCALケビン・モーエンがゴールラインに近づいた時には、深紅の衣装をまとった122名のバンドメンバーやチアリーダー、そして興奮して観客席から降りてきたスタンフォード大ファンなどが乱入しエンドゾーン内は溢れかえっていました。その人込みをかいくぐるようにして、モーエンはエンドゾーンに走り込みましたが、最後にバンドのトロンボーン奏者ゲーリー・タイレルに激突し、タイレルは吹っ飛ばされ、トロンボーンは壊れてしまいました。この時の壊れたトロンボーンは、現在もカレッジフットボール殿堂に展示されています。

スタンフォード大バンド奏者ゲーリー・タイレルは、CALケビン・モーエンに激突されて倒れ、トロンボーンは壊れました 出典:The College Football Book, Sports Illustrated

スタンフォード大コーチ陣は、「ラトラル(後方)パスの中に、反則であるフォワードパスが含まれており、TDは無効」等と猛抗議しましたが、審判員が協議の上、「フィールド上に不正に侵入した大勢のスタンフォード大関係者たちに邪魔されて、審判が目視で反則を判断するのは不可能な状態であった。よってTDは成立する。」とアナウンスしました。最終スコア CAL 25-20 STA

The Playを最後の瞬間だけでなく、エルウェイがお膳立てした逆転のFGからの長尺版でご覧になりたい方は、下記You Tube画像を見てください。12分

1982 Cal vs. Stanford: THE BAND IS ON THE FIELD!

スタンフォード大の敗北により、ホール・オブ・フェイム・ボウルは「空軍士官学校vsバンダービルト大」の対戦となり、75000人の観客を集めて、空軍が36-28で勝っています。

ジョン・エルウェイは結局一度も大学でボウルゲーム出場を果たせぬまま、1983年ドラフト1位でNFLデンバー・ブロンコス入りしました。

The Playから既に43年が経過しましたが、いまだにスタンフォード大は1982年Big Gameの敗北を認めていません。Big Gameの勝者には「スタンフォードの斧(Stanford Axe)」という優勝盾が渡され、勝利チームが持ち回りします。盾には歴代の試合結果が刻印されていますが、スタンフォード大が勝利すると、優勝盾の刻印を「1982年CAL25-20STA」から「1982年STA20-19CAL」へと勝手に訂正してしまいます。次にカリフォルニア大が勝利すると、また銘板のスコア刻印を元の状態に彫り直すという、両校によるワケの分からない意地の張り合いを今も続けているそうです。愉快な伝統ですね 笑

両校のライバル意識と、自らの誇りに対する思いが、それだけ強いということなのでしょう。

2009年のBig Gameに勝利し、「スタンフォードの斧」を持ち帰ったカリフォルニア大応援団が、翌2010年スタンフォードの斧を返還に来た時の記念写真  出典:Wikipedia

 

「清水利彦のアメフト名言・迷言集」
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