昭和52年(1977年)卒 清水利彦
shimizu.toshihiko2@gmail.com
今年度のスーパーボウルは、ペイトリオッツvsシーホークスという、2014年度以来、11年ぶりの組み合わせになりました。
この時は大接戦の末28-24でペイトリオッツが勝利しています。(今年は日本時間2月9日午前中にカリフォルニア州サンタクララ市のリーバイス・スタジアムで開催)
実は私は、ビルズ・チャージャース・ジャガーズ・テキサンズなど「スーパーボウル未勝利」のチームが勝ってほしいと願っていたのですが、残念ながら願いは叶いませんでした。
スーパーボウルにおいては、戦術や選手特性などは皆さんの方が私よりずっと詳しいと思いますので、私からは、「おそらくTV解説者も言及しないであろう、注目すべき歴史的ポイント」について述べさせていただきます。
ペイトリオッツ、NFL史上最大のV字回復なるか?
昨年12月25日のコラムにおいて、私は「もし今年度ペイトリオッツがスーパーボウル勝利するならば、NFL史上極めて稀なV字回復になる」と述べさせていただきました。ただしこの時は、この主張が正しいのか何も確認していませんでした。実際にペイトリオッツがスーパーボウルに進出したので、私のコメントが正しかったのか調査してみましたところ、すごい事実がわかりました。
スーパーボウルは1967年に始まっており、今年で第60回目の開催となります。(Super Bowl LX)
過去59回で、「前年度に勝ち越しのできなかったチームが、スーパーボウル王者となったケースは過去5回ある」ことがわかりました。ただし、そのうちの3回は7勝9敗など、前年ほぼ互角の戦いをしていたチームが優勝したわけです。レギュラーシーズンで勝率3割3分未満の弱小チームが、翌年スーパーボウル王者となったのは過去2回しかありません。
①セントルイス・ラムズ 1998年4勝12敗、1999年13勝3敗、スーパーボウル優勝
②ニューイングランド・ペイトリオッツ 2000年5勝11敗、2001年11勝5敗、SB優勝
つまり、これまでで過去最大のV字回復は「1999年ラムズ」であったことになります。この年は「QBカート・ワーナーのシンデレラ・ストーリー」として有名な劇的スーパーボウル勝利であり、また女性オーナー、ジョージア・ローゼンブルーム(もしくはジョージア・フロンティア)が初めて女性として優勝トロフィーを受け取った年であると、過去のコラムでお知らせしたことがあります。
【清水利彦コラム】QB黄金列伝第3回「カート・ワーナー物語」 時給5ドル50セントの夜勤アルバイトが成し遂げたシンデレラ・ストーリー 2025.10.31 | アメリカンフットボール三田会
【清水利彦コラム】ジョージア・ローゼンブルーム物語 プロフットボール界、最強の女性 2025.10.03 | アメリカンフットボール三田会
また2001年のペイトリオッツV字回復(この時がペイトリオッツの初優勝)は、トム・ブレイディが初めてスタメンQBとして定着した年であり、そこから2019年まで19年間に及ぶ「ペイトリオッツ黄金期」の最初の年でありました。
ペイトリオッツは、昨2024年度の戦績が4勝13敗という惨状であり、もし今年度スーパーボウルチャンピオンとなれば、1999年ラムズの偉業を超えて「NFL史上最大のV字回復」となります。
なお、ペイトリオッツのヘッドコーチ、マイク・ブラベルは、今季が就任一年目です。スーパーボウル59年の歴史で、ヘッドコーチ就任初年度にチャンピオンとなったのは、以下4例しかありません。
1970年 ボルチモア・コルツ (コーチ名)ドン・マカファーティ
1989年 サンフランシスコ49ers ジョージ・シーファート
2002年 タンパベイ・バッカニアーズ ジョン・グルーデン
2015年 デンバー・ブロンコス ゲーリー・クービアック
マイク・ブラベルが5人目となれるかどうかも、注目されます。

1961年から1992年まで32年間使用されたペイトリオッツのヘルメット・ロゴマーク。こんな複雑な絵がヘルメットに貼り付けられていたことに、初めて見る若手卒業生の方々は驚かれるでしょうが、私はこのロゴが大好きでした。
ペイトリオッツの歴史
ペイトリオッツは、1960年、NFLに対抗して創設されたAFL(American Football League)のオリジナルメンバー8チームのうちのひとつでした。当初はボストン・ペイトリオッツという名称でした。
初期のペイトリオッツの印象は「今一つパッとしないチーム」。創設から16年間で75勝102敗8分、勝率.423。優勝なし、プレイオフ出場が1回だけありますが、敗退しています。当時の代表選手はQBデイブ・パリーリ、LBニック・ブォニコンティ等と、やはり地味な印象ですね。
チーム創設まもなくして、ペイトリオッツは資金不足で倒産の危機に陥ります。この危機を救ったのがバッファロー・ビルズ、オーナーのラルフ・ウイルソンでした。本来、AFLのライバル同士でありながら、ウイルソンはペイトリオッツに多額の資金を提供して、ペイトリオッツを救いました。
「ペイトリオッツは、バッファロー・ビルズに足を向けて眠ることができない」とも言えますね。
AFL時代のペイトリオッツは、本拠地スタジアムを持っておらず、ハーバード大やボストン大のスタジアムを借りて試合をしていました。ボストン・レッドソックスの野球場フェンウェイパークで試合をしていた時期もあります。1970年にNFLがAFLを吸収合併する形で、ペイトリオッツはNFLの一員になります。そして翌1971年、ボストン市近隣のフォックスボローに新スタジアムが建設され、ペイトリオッツはフォックスボロー市(人口わずか2万人の小都市)に本拠地を移転します。
ボストンの市外に出たのですから、ボストン・ペイトリオッツはその名前を変更すべきと考えました。そして出された案が「ベイ・ステート(Bay State)・ペイトリオッツ」です。ところが、このチーム名をNFL本部に申請したところ、拒絶されました。
Bay Stateというのは、地元民がマサチューセッツ州を呼ぶときの愛称ですが、「ベイ・ステート」では一体どの地を指すのか全米市民にはわからない、というのがNFL本部の見解でした。
そしてチームに与えられた名前が「ニューイングランド・ペイトリオッツ」だったのです。
1616年に英国の提督ジョン・スミスがこの地に上陸して一帯を支配し、新英国(ニューイングランド)と名付けたのが地域名の起源です。

赤線で囲まれた巨大な地域がニューイングランド。赤丸ボストンから青丸メイン州バンゴーまで380kmあります。
皆さんは「ニューイングランド」という地名の定義をご存じでしょうか?
私はざっくりと「ボストンより東側の海岸地帯を、ニューイングランドと呼ぶ」と思っていたのですが、全然違いました。現在では、ニューイングランドとは「マサチューセッツ州、ロードアイランド州、コネチカット州、バーモント州、ニューハンプシャー州、メイン州」の6つの州を合わせた地域を指します。
(日本の約半分に相当する広い地域ですが、全部で1500万人しか住んでいません)
したがって、ボストンから遠く離れたメイン州の人々に「あなた方の州にはプロフットボールのチームがなくて、つまらないですね」などと言おうものなら、「失礼な!何を言ってるんだ!ペイトリオッツが我々のチームだ!!」と叱られることになります。ただし、メイン州バンゴー(Bangor、メイン州で3番目に大きい都市、とは言え人口はわずか3万人)からボストンまでは380kmも離れており、メイン州がペイトリオッツを「我がチーム」と呼ぶのはちょっと無理がありますね。
NFLの各チームは、都市名または州名をチーム名としており、6州まとめた地域をチーム名にしているのはペイトリオッツだけ。カロライナ・パンサーズは北カロライナ州と南カロライナ州を併せた地域名を名乗っています。
昔はパッとしなかったペイトリオッツですが、球団創設から41年後の2001年に、ヘッドコーチ、ビル・ベリチック、スタートQBトム・ブレイディとなって初優勝し、そこから19年間でスーパーボウル出場9回、優勝6回の黄金期を築きました。今年はベリチックとブレイディ抜きで優勝する初のチャンスとなります。
スーパーボウル出場を決めたAFC決勝戦(vsブロンコス)のYou Tube映像(15分)をご覧ください。途中から豪雪になり、フィールドが真っ白に変わってゆく様子がすごいです。もう少し良いコンディションで試合をさせてあげたかったです。
New England Patriots vs Denver Broncos Game Highlights | 2025 NFL Season AFC Championship
シアトル・シーホークスの歴史
シーホークスの創部は1976年。NFLのエクスパンション(拡張戦略)により、タンパベイ・バッカニアーズとともに設立され、今季でちょうど50周年となります。
2005年にマイク・ホルムグレン・コーチが率いてスーパーボウルに初出場しましたが、スティーラーズに10-21で敗れました。当時のQBはマット・ハッセルベック。
2010年、ピート・キャロルがコーチとなって俄然強くなりました。14年間チームを率いて137勝89敗1分、勝率.606。2013年度のスーパーボウルで2度目の出場を果たし、ブロンコスに43-8と圧勝し初優勝。QBはラッセル・ウイルソン。
今季はそれ以来12年ぶり2回目のスーパーボウル優勝を狙うことになります。
NFLとAFLが合併したのが1970年ですが、それ以降にエクスパンションで創設されたチームは6つあります。その戦績を比較しますと次のようになります。丸囲み数字はスーパーボウル優勝回数
ボルチモア・レイヴンズ 1996年~ 276勝208敗1分 勝率.570 ②
シアトル・シーホークス 1976年~ 416勝376敗1分 勝率.525 ①
カロライナ・パンサーズ 1995年~ 227勝273敗1分 勝率.454
ヒューストン・テキサンズ 2002年~ 174勝214敗1分 勝率.449
ジャクソンビル・ジャガーズ 1995年~ 215勝286敗 勝率.429
タンパベイ・バッカニアーズ 1976年~ 326勝466敗1分 勝率.412 ②
エクスパンション・チームの中で一番成功しているのは、レイヴンズと言ってよいでしょう。一方、一番負け続けているのがバッカニアーズで、現在のNFL32チームの中で最も低い勝率です。それなのに2回優勝しているのが不思議です。
シーホークスは通算勝率5割を超えており、良くやっている方ですが、50年間で優勝は一度しかなく、「今年こそ」というファンの思いは非常に強いでしょうね。
シーホークスのマイク・マクドナルド・コーチについて
ピート・キャロル・コーチは14年間シーホークスを率いて、2023年に72歳(NFL最高齢)で勇退しましたが、後任として指名を受けたのが、36歳のマイク・マクドナルドであり、当時のNFLで最も若いヘッドコーチでした。「最高齢から最年少に、コーチが入れ替わった」ことになります。
※ピート・キャロルは、今季2025年度に74歳でラスベガス・レイダースのヘッドコーチに復帰して話題になりましたが、3勝14敗とコテコテに負けて、一年で解任されています。

シーホークスの若きヘッドコーチ、マイク・マクドナルド 出典:Seahawks Website
マイク・マクドナルドの経歴を読んで本当に驚きました。彼は大学でのプレー経験が無いのです。
ジョージア大学というフットボール強豪校の出身ですが、プレーしていません。
1987年6月生まれのマクドナルドは、ジョージア州のセンテニアル高校でFB兼LBとして活躍しましたが、最終学年で足に重傷を負い、大学でのプレーをあきらめました。ジョージア大に一般学生として入学し、在学中に近隣の高校でLBコーチとして教えています。
大学卒業後、ジョージア大フットボール部のGraduate Assistantという立場でチームに加えてもらい、4年間を過ごしました。その間に大学院に通って勉強し、スポーツ経営学の修士号を取得しています。
26歳になったマクドナルドは、NFLボルチモア・レイヴンズのコーチ見習い(Coaching Intern)に転進しました。そしてここから、まるで豊臣秀吉の出世物語のように駆け上がっていきます。レイヴンズを率いる名将ジョン・ハーボー(レイヴンズ通算18年で180勝113敗、スーパーボウル優勝1回)にマクドナルドはよほど気に入られたのでしょう。レイヴンズに7年間在籍しましたが、後半4年間はLBコーチとして正式に雇用されました。
2021年、33歳のマクドナルドはミシガン大学の守備コーディネーターに抜擢されました。当時のミシガン大学ヘッドコーチはジョン・ハーボーの弟、ジム・ハーボーですから、兄ジョンから弟ジムに「マクドナルドという男は優秀だから使ってみろ」という推薦があったものと想像します。
マクドナルドは、わずかな期間のうちにミシガン大学のディフェンスを飛躍的に強化させます。その年ミシガン大はリーグ優勝を果たし、全米最終ランク3位となりました。
2022年、マクドナルドはたった一年で再びボルチモア・レイヴンズに呼び戻され、ジョン・ハーボー・コーチのもとで守備コーディネーターに起用されます。ここでもマクドナルドは守備チームの強化改善に手腕を発揮します。2023年にはレイヴンズが13勝4敗の好成績を収め、シーズン通算総失点280は、NFL全チームの中で最少失点でした。
そして2024年、シアトル・シーホークスは36歳のマイク・マクドナルドにヘッドコーチの職をオファーしました。10年前までは見習いという立場で、コーチの肩書さえ付いていなかった男が、NFLのチームを率いることになりました。
2024年度は10勝7敗の好成績でしたが、プレイオフ出場は逃しました。そして今季は14勝3敗とNFCでの最高勝率を上げ、シード順1位でプレイオフに進んだのです。
プレイオフで49ersに41-6で圧勝したのには驚きました。シーホークスのエースQBサム・ダーノルドは、2年前49ersに在籍していましたが、正QBブロック・パーディーの下で、二軍QBとしてわずか1試合しか使ってもらえず、放出されていたのです。ダーノルドは古巣のチームに完勝し、さぞかし溜飲を下げたことでしょう。
NFC決勝でもシーホークスは31-27の接戦でラムズを破り、スーパーボウルに進出しました。(18分)
Los Angeles Rams vs Seattle Seahawks Game Highlights | 2025 NFL Season NFC Championship
「大学でもプロでも一度もプレーしていない男、マイク・マクドナルドが、NFLヘッドコーチになり、スーパーボウル優勝を果たす」というアメリカンドリームを完成させるか、まさに見ものです。
ペイトリオッツも、シーホークスも「絶対に勝ちたい、勝たねばならない」理由を持つチームと言えるでしょう。実力は全く互角と拝察します。スーパーボウルのキックオフは日本時間2月9日月曜午前8時半です。楽しみですね!!!
(訂正)前号コラムで、「カレッジとプロで両方チャンピオンになったヘッドコーチは、ジミー・ジョンソンとバリー・スイッツアーの二人だけ」と書きましたが、これは当時の文面をそのまま訳した為の間違いで、その後ピート・キャロルがUSCとシーホークスの両方で優勝しています。
「清水利彦のアメフト名言・迷言集」
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