【清水利彦コラム】スーパーボウルMVPの話、ジェイソン・マイヤーズ物語 2026.02.20

昭和52年(1977年)卒 清水利彦
shimizu.toshihiko2@gmail.com

今年度のスーパーボウルは接戦になると思っていましたが、意外な結果でしたね。
第3Q終わりまでにシーホークスが4回のFGを決めて12-0とリード。結局この差が10点以下に縮まることは一度もありませんでした。
ペイトリオッツは試合開始から第3Q残り5分までに9回の攻撃権を得ましたが、結果はすべてパント。その後試合終了直前までに5回の攻撃権を得ましたが、うち3回がターンオーバー喪失。これでは勝てません。シーホークス守備陣の圧勝でした。
マイク・マクドナルド・コーチは、33歳でミシガン大守備コーディネーター、34歳でNFLレイヴンズの守備コーディネーターに抜擢された「ディフェンスの鬼才」ですが、まさに本領発揮でした。
前号コラムで書ききれなかった事柄も含めて、スーパーボウルのおさらいをしてみます。

スーパーボウルMVPの話

今回のスーパーボウルMVPは、シーホークスRBケネス・ウォーカーⅢに決まりましたが、私はディフェンスの選手から選ばれるかなと思っていました。攻撃選手から選ぶのであればプレースキッカー(K)のジェイソン・マイヤーズにあげてほしかったなと思います。
なにしろ60回のスーパーボウルで、キッカーやパンターがMVPとなったことは一度もないのです。
ポジション別のMVP受賞回数はQB 34回、RB 8回、WR 8回、守備選手10回(LB4、DL3、DB3)、リターナー1回となっています。ほとんどが攻撃バックフィールド選手なのです。
スーパーボウルMVPに関するエピソードをいくつかご紹介しましょう。

第1回(1967年)、第2回のスーパーボウルMVPを連続受賞したQBバート・スター(パッカーズ)。この写真はスーパーボウルのものではありませんが、トイメンで向かい合うのはシカゴ・ベアーズ伝説の名LB#51ディック・バトカスです。 出典:Vince Lombardi on Football

●1978年にカウボーイズの「2人同時にMVP受賞」(DLハーベイ・マーティンとDLランディ・ホワイト)がありましたので、トータル受賞者数は61名となります。
●1997年、99ydのキックオフリターンTDを決めてMVPとなったデスモンド・ハワード(パッカーズ)はWR兼務ですが、この日パスレシーブは1回もなく、リターナーとして受賞しました。
●過去にはなんと、「負けチームからMVPが選出された」ことが一度だけあります。1971年、第5回大会のチャック・ハウリー(カウボーイズLB)です。当時、勝者ボルチモア・コルツにはQBジョニー・ユナイタスという絶大な人気を誇るスター選手がいました。ところがこの試合はユナイタスが負傷で引き下がり、代わりに出てきた控えQBアール・モーラルの活躍によりコルツが勝利しました。「モーラルにMVPを授与すると、ユナイタスのファンが怒り出す」しかし「スーパーボウルで活躍していないユナイタスにMVPを授与するわけにもいかない」という板挟みになって、困り果てたNFL委員会が、「負けたチームからMVPを選んで痛み分けにした」ものと私は推測しています。本当のところはどうなのでしょうか?
●過去のMVP最多受賞者はトム・ブレイディの5回です。しかも最後の5回目は、ペイトリオッツからバッカニアーズに移籍してから獲得したものです。3回受賞者はジョー・モンタナとパトリック・マホームズ。他に2回受賞はバート・スター、テリー・ブラッドショー、イーライ・マニングと、複数回受賞者は全てQBです。
●今回のMVP受賞者ケネス・ウォーカーⅢは、2022年ドラフト2巡目でシーホークスに指名されました。ミシガン州立大でエースRBとして大活躍し、ハイズマン賞投票で6位となっています。大学時代の映像がありますのでご覧ください。6分
Kenneth Walker III – Heisman Highlights ᴴᴰ

遅咲きのキッカー、ジェイソン・マイヤーズ物語

Kジェイソン・マイヤーズは、今回の試合で5回FGを成功させており、これはスーパーボウル新記録です。キッカーに初めてMVPを受賞させる絶好の機会だったと思うのですがね。
Kマイヤーズの経歴がとても興味深かったのでご紹介いたします。

ジェイソン・マイヤーズは1991年カリフォルニア州生まれで現在34歳。今ではNFL屈指のキッカーとなっていますが、「非常に遅咲き」の選手でした。地元の高校でフットボール部とサッカー部に所属。サッカーではカリフォルニア州高校選手権に優勝するなど活躍しましたが、フットボール部キッカーとしては注目される存在ではありませんでした。

入学した大学はニューヨーク州のマリスト大学(Marist University)。私はカレッジフットボールに比較的詳しいと自負していますが、この学校名は聞いたことがありませんでした。学生数6000人と小規模のキリスト教系学校で、フットボール部はNCAA二部(FCS)所属です。マイヤーズはキッカーとパンター兼務で試合に出ていましたが、特筆すべき記録は残していません。マリスト大学にはキッカーを教えるコーチがいなかったため、彼は独学で練習していたのです。もちろんNFLドラフトで指名されるはずもなく、故郷に戻ってアリーナリーグに参加していました。

アリーナリーグ在籍中、元NFLベテランキッカーのマイケル・ハステッド氏から教えを受ける幸運に恵まれ、キッキングの理論を叩き込まれたマイヤーズの人生は大きく変わってゆくことになります。
もともと「キッカーとしての素質はあったが、正しいキック理論を教えられていなかった」マイヤーズは、目から鱗が落ちたように長い距離のFGの成功率を改善させてゆきます。
2015年ハステッド氏の紹介によりNFLのトライアウトを受けることになり、マイヤーズ(24歳)はジャクソンビル・ジャガーズから契約をもらいます。

マイヤーズはジャガーズ入団初年度から一軍キッカーとして起用されました。FGを30回蹴って26回成功させますが、一方エクストラポイント・キックを7回失敗し課題も残しました。
2年目は改善を見せたものの、3年目のシーズン当初から重要なFGの失敗が続き、6試合終了時点でマイヤーズはクビを宣告されました。

2018年1月(27歳)マイヤーズはシアトル・シーホークスから契約を得ましたが、他のキッカーとの一軍争いに敗れ、8月中にクビになりました。つまり当時シーホークスでは1試合も出ていません。
しかし直後にNYジェッツから採用される幸運に恵まれ、必死にプレーしたマイヤーズは、「1試合で7回FG成功」という球団新記録を樹立するなど活躍し、その年のプロボウルに選出されています。

2019年、ジェッツでの好調ぶりを見たシーホークスは、今度は4年間1500万ドル(約23億円)という契約をマイヤーズにオファーします。1年ちょっと前に自らクビにしておきながら、シーホークスは巨額の報酬で再雇用したわけです。

2020年、ラムズ戦で自己最長の61ydFGを成功させて喜ぶジェイソン・マイヤーズ

シーホークスに再入団したマイヤーズは、その後は安定して記録を塗り替え続け「NFLナンバーワン・キッカー」と呼ばれるにふさわしい活躍を続けています。
37回連続FG成功(NFL歴代4位)もありましたし、2020年には24回FGを蹴って全て成功させ、パーフェクトシーズンとなりました。24回の中には61ydという彼自身の最長FGも含まれています。
本年度はエクストラポイント・キックを59回すべて成功させ、プレイオフを含めた年間の総得点206(FG49回、XP59回)という新たなNFL最高記録を作りました。

マイヤーズの50yd以上のFGだけを編集した映像がありますのでご覧ください。(6分)
Every Jason Myers 50+ Yard Field Goal As A Seahawk | Seattle Seahawks

「シーホークスはディフェンスをしっかり固めて、FGでコツコツと得点を重ねて勝つ」というマイク・マクドナルド・コーチのゲーム戦略は、「Kジェイソン・マイヤーズが居たからこそ実践出来た」と言えるでしょう。シーホークスは昨年12月のコルツ戦に18-16で勝ちましたが、この時はマイヤーズが6回のFGを成功させ、一人で全得点を挙げています。スーパーボウルにおいても、全く同じ戦略で勝利したのですから、「マイヤーズにMVPを獲らせてやりたかったな」と思うわけです。

スーパーボウル終了にて今年度のフットボール・シーズンが終わってしまいました。これからしばらくの間、どうやって生きていけば良いのでしょうかね。トホホ、、、

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