清水 利彦(S52年卒)
shimizu.toshihiko2@gmail.com
テキサスA&M大マーチングバンドについて詳しく知ろうと、様々なYou Tubeサイトを調べていたところ、偶然「TBDBITL141:The Movie」というワケのわからない題名のテレビ用映画作品を発見しました。思わぬ掘り出し物と感じたので皆様に紹介します。
これはオハイオ州立大マーチングバンド部の記録映画です。2018年8月の新バンド・チーム結成から、秋のフットボールシーズンの演技の全て、そして翌年1月のローズボウル出場(28-23でワシントン大に勝利)までを、マーチングバンド部員たちがどのように過ごしたかを克明に記録したドキュメンタリー映画になっています。
上映時間約2時間と長尺ですが、You Tubeですから無料で見ることができます。英語版しかありませんが、幸い英語の字幕が付いているので、少しは話の内容もわかりますし、映像と音楽だけでも十分楽しめると思います。(学生たちの話す超早口の英語は、字幕がなければ私にはさっぱりわかりません。米国人にもわかりにくいので字幕を付けているのではないかとさえ思います)
関係者へのインタビューが延々と続く退屈な場面もあり、2時間に及ぶ映画を「是非、皆様ご覧ください」と自信をもって言えるわけではありませんが、この記録映画のおかげで、オハイオ州立大マーチングバンド部員達の活動ぶりが非常によく理解できましたので、内容をお知らせします。(マーチングバンドのパフォーマンスだけご覧になりたい方は、最初の50分とインタビュー場面をスキップすることも一案です)
先日私は、テキサスA&M大マーチングバンドが、「軍楽隊に相応しい、一糸乱れぬパフォーマンスで素晴らしい」と書きましたが、オハイオ州立大マーチングバンドは全くタイプが異なる演技で、こちらもまた素晴らしいです。
A&Mバンドが「規律によって成り立つ、超辛口の整然とした行進演技」であるのに対し、オハイオ州立大は「観客を楽しませることに主眼を置き、人文字でフィールドに様々なシーンを描く、楽しい動きの演技」が魅力です。どちらも全米トップクラスの評価を得ています。
百聞は一見に如かず、です。
You Tubeで「Ohio State Marching Band Hollywood Blockbusters Halftime Show 10 26 2013」をご覧ください。これは2013年のオハイオ州立大vsペンシルバニア州立大の試合のハーフタイムにおこなわれた、9分弱の映像です。スーパーマン、ジュラシック・パーク、パイレーツ・オブ・カリビアン等おなじみのキャラクターを人文字で描きます。私は演技を見ていて「神業」という言葉が浮かびました。
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記録映画のあらすじは次のようなものです。
8月のサマースクールからオハイオ州立大に入学した新入生たちが、マーチングバンドに加わることを志願して、三々五々集まってくるところから映画が始まります。新チーム結成から9月のフットボール開幕戦までの期間が短いため、この間に猛練習を積み、そしてバンドメンバーに加われるかどうかの「Try Out(セレクション)」を受けなければなりません。約350名が2日間かけたトライアウトに挑戦し、審査を受け、チーム入りする228名が選ばれ発表されます。
マーチングバンド部には「二軍部員、控え奏者」という概念はありません。「228人に入るか、去るか」のどちらかしかありません。猛練習を続けてきたのに、セレクションに落ちるとその部員は退部になるのです。トライアウトには1年生から4年生まで、全部員が参加します。つまり上級生であっても不合格(退部)となる可能性があります。次年度以降のチーム構成を考慮すれば、たとえ技量が劣っていても、相当数の1年生もチームに入れておかねばなりません。合格発表で自分の名前を聞いて泣きじゃくる女子部員の姿があり、胸を打たれました。
合格者たち228名が新たに隊列を組むことになるのですが、合格の時点から「君はF-11」というようにチームの中の行進時のポジションが指定され、「バンドの中で、どの位置に居て、どのような動きをするか」が決まり、コンピューターへの登録により動きが管理され指示されます。チーム内に自分と全く同じ動きをする者など一人もいません。したがって病気になったり、脱落・退部したりの場合も、誰かが簡単に交代できるわけではなく、チームに大変な迷惑をかけることになります。
しかも猛練習の一方で、授業・宿題・テスト等をこなしてゆかねばなりません。オハイオ州立大は学業も、公立(州立)大学としては非常に高いレベルにあります。
オハイオ州立大マーチングバンドと言えば、「スクリプト・オハイオ(人文字でOhioと書く)」が有名ですが、この他に毎試合新たなパフォーマンスを加えて披露していることは知りませんでした。考えてみれば観客席には、シーズンチケットを買って全ての試合を観に来る熱心なファンがたくさんいるわけで、毎回同じパフォーマンスをするわけにはいかないのです。毎試合新たな動きを演じるために、どれだけの練習を積んでいるのだろうと溜め息が出ます。
オハイオ州立大マーチングバンドのパフォーマンスは超有名・超人気なため、様々な招待を受け、あちこちで演奏することを求められます。
テキサス・クリスチャン大との遠征試合では、バンドメンバーも全員飛行機に乗り込みチームに帯同しています。また、シーズン途中の平日にニューヨークのメイシ―百貨店から招待を受け、バスで片道10時間かけてニューヨークに到着します。”Macy’s Thanksgiving Parade”に参加し、数十万人が見守るマンハッタンのど真ん中で演奏・行進をおこないます。(午前中の本番行進に備え、リハーサル開始は1:30amでした)演技が終わると、またバスで10時間かけて学校に戻り、2日後には地元での試合があるのです。想像を絶する過密スケジュールで彼らが活動していることを知りました。
シーズンに一度だけ、シンシナチ・ベンガルズ(同じオハイオ州)の試合のハーフタイムに招かれて、NFLファン達の前で演技することも初めて知りました。
マーチングバンドの映画ではありますが、バンドはフットボールチームと極めて連携して活動しており、フットボール部活動の舞台裏も見られて、実に興味深かったです。
試合の前には、オハイオ州立大フットボール部のヘッドコーチ、アーバン・メイヤー(同校7年間で83勝9敗、勝率.902!全米王座1回)が必ずマーチングバンド部員達の席を訪れ、挨拶をしています。またシーズン中に選手達とバンド部員の交歓会が開かれ、バンドの演奏で選手がダンスを披露したり、楽器の出来る選手がバンドと一緒に演奏したりする、楽しさあふれるシーンがあります。選手とバンドがまさに一体となって、母校の為に闘い、「カレッジフットボールの世界」を作り上げているわけです。
You Tube「TBDBITL141:The Movie」のTBDBITLは、”The Best Damn Band In The Land”の略称で、オハイオ州立大マーチングバンドの代名詞になっている言葉です。(「この国で一番の凄いバンド」と訳すべきでしょうか)141はバンド創部141年目の第141代チームを表わしています。部員達は「自分たちは全米一のマーチングバンド」と自負しています。
新チーム結成直後は、おどおどした、あどけなさの残る新入部員が、シーズン終盤には別人のように自信に満ち溢れる引き締まった表情に変わり、堂々とインタビューに答えるシーンがあります。たった5か月で部員が人間的に大きく成長した様子が明らかでした。部活動は非常に厳しくつらいものですが、マーチングバンドに入ることが、若者たちの人間形成に役立っていると痛感しました。
記録映画の最後に、エンドロールが出て、まるで出演俳優陣の紹介のように、228名の名前がズラリと並んだのには感動しました。
筆者は10年程前、慶應義塾大学応援指導部の演奏会を見学したことがあります。驚いたのはバンドメンバー達が舞台の上で、隊列を組んで行進したりする「マーチングバンド」のパフォーマンスが含まれていたことでした。その後、応援指導部の奏者と話をする機会があったので、「君達、ちゃんとマーチングバンドが出来るんだね。アメリカンフットボールの試合でもやってもらうことはできないのかなあ。」と話しかけたところ、「え?そんなことが可能なのですか?可能ならばやってみたいです!」という意外な返事が返ってきました。彼らには、「アメリカンフットボールの試合でフィールドに出られるのは、チアリーダーだけ」という間違った思い込みがあるようです。野球の試合では、バンドがフィールドに降りていって行進する事などないですから、フットボールも同じように受け止めているのでしょう。
どなたか彼らと真剣に話し合った上で、出演要請をしてくれる方はいないでしょうか?
ユニコーンズの試合で、慶應のマーチングバンドが演技を披露してくれる日がいつか来ることを楽しみに待っています。
「清水利彦のアメフト名言・迷言集」
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