【清水利彦コラム】「チーム名を変更する」ということ 2021.03.04

清水利彦(S52年卒)
shimizu.toshihiko2@gmail.com

ワシントン・レッドスキンズというチーム名が廃止になり、今季はワシントン・フットボールチームという名称でプレーしたことは皆さんご存知の事と思います。
ワシントンは、ボストン・ブレーブス、ボストン・レッドスキンズと呼ばれていた時代を含めれば、1932年の創設で、NFLでは6番目に古いチームです。(ベアーズ、カージナルス、パッカーズ、ジャイアンツ、ライオンズに次ぐ)伝統あるチームで、オールドファンがたくさん存在するわけで、レッドスキンズという名称を捨てるのは断腸の思いであったろうと想像できます。

レッドスキンズという名称が問題になったのは、最近の出来事ではありません。アメリカ先住民(主にアメリカン・インディアン)の団体が、この名称を人種差別にあたると最初に指摘したのは1960年代に遡ります。チーム経営陣とファン達は当然のことながら、親しんだ名称を維持しようと必死に防御の論戦を展開しました。レッドスキンズという名称は、NFLだけではなく、各地の大学や高校でもたくさん採用されている人気のあるニックネームでしたが、しだいに抗議の声が広がり各地のレッドスキンズは圧迫されてゆきます。ユタ大学レッドスキンズは1972年にユーツと改名。オハイオ州のマイアミ大学レッドスキンズは1997年にレッドホークスと改名するなど、だんだん外堀が埋められていきました。
そして昨年になって、ジョージ・フロイド事件(ミネソタ州で、黒人のフロイド氏が白人警官によって地面に倒され、9分半に渡って首を押さえつけられ死亡した事件)などをきっかけに人種差別に対する抗議が国全体に広がり大きな運動となります。大口スポンサーである大企業群が、「チーム名を改めなければ、今後はチームを支援しない」と発表し、ついに名称変更やむなしとなったわけです。正式決定が2020年7月ですから、フットボールシーズンが始まる寸前であり、現場は大混乱だったと想像できます。もちろん新しい名称を用意することはできず、NFL100年の歴史で初めて、ニックネームのないチームがプレーすることになりました。
※詳しくは、Google等で「Washington Redskins name controversy」をご覧ください。

さて、興味は「ワシントンの次なるチーム名は何になるのか」です。まだ発表されていないようですが、このまま「ワシントン・フットボールチーム」を使い続けるとは思えません。
ワシントンにあるNBAバスケットボールは、かつてBullets (銃の弾丸)という名前でして、こちらの方がレッドスキンズより、もっと酷いですね。1963年からBullets を使い続けましたが、抗議の声が広がり、1997年に現在のワシントン・ウィザーズ(魔法使い)に変更されました。
ワシントン・キャピタルズ(首都)という名称は自然な感じですが、NHLアイスホッケーで既に使用されていますので使うのは無理でしょう。大リーグベースボールはワシントン・ナショナルズを名乗っています。個人的には、オールドファンにとって懐かしさが感じられる「ワシントン・セネタース(上院議員)」の復活はいかがかと、、、
大リーグ野球のワシントン・セネタースは1901年から1960年まで実在し、ミネソタに移転した際にツインズとなりました。ワールド・シリーズに3回出場し、1924年にワールド・チャンピオンになった名門チームです。もっとも今時「上院議員」では、逆に人気がなくなるのかも。

実は、ワシントン・セネタースというプロフットボールチームもかつて存在したのですよ。1921年に発足しましたが、運営が上手くいかなかったようで一年で消滅しています。
ロサンゼルス・バッカニアーズ(1926年)、マイアミ・シーホークス(1946年)というプロフットボールチームがかつて存在していたことを今回の調査で初めて知りました。つまり新しいチームが発足するときに、昔にプロで消滅した名前を調べて再採用を検討したのではないか、と考えられるのです。
と言うことで、消滅したプロチーム名リストからワシントンで使えそうな名前を見てみますと、
・カントン・ブルドッグス(1920-26) ジョージア大学ブルドッグスの印象が強すぎるか?
・トレド・マルーンズ(えび茶色、1922-23) 色のイメージは合っていますが、、、
・ロサンゼルス・ドンズ(首領、1946-49) ワシントンのドンでは、悪玉政治家のイメージか?
うーん、難しいですね・・・皆さんはどのようなチーム名を予想されますか?

NFLで「チーム改名の歴史」を見ますと、1940年頃までは改名が頻繁に起こっています。当時はチーム名やロゴの入ったグッズやウェアを売るなどの習慣がなかったので、簡単に改名できたのでしょう。(昔の画像を見ますと、観客席にスーツとネクタイ姿の人が圧倒的に多い)
1940年以降の改名例は、
・1960年にダラス・テキサンズとして発足し、1963年カンザスシティ・チーフスに移転・改名。
・1960年にニューヨーク・タイタンズとして発足し、1963年ニューヨーク・ジェッツに改名。
・1960年にヒューストン・オイラーズとして発足し、1997年に移転によりテネシー・オイラーズとなり、1999年テネシー・タイタンズと改名。
わずかこの3例しかありません。「移転するよりも改名するほうが珍しい」のです。この3例を見ても一度使ったチーム名(タイタンズ、テキサンズ)を新チームに再利用することが多いのがわかります。

面白い例をひとつ。NBAバスケットボールで1974年に「ニューオリンズ・ジャズ」が発足しました。ジャズの街ニューオリンズにふさわしい素敵な名称だと思っていましたが、わずか5年でユタ州ソルトレークシティに移転が決まります。当時米国にいた私は、TVを見ていて「新しいチーム名は、ユタ・ジャズです!」と発表されるのを聞いて、思わず手に持っていたハンバーガーを落っことしそうになりました。「いくらなんでも命名が短絡的すぎる。上(土地の名前)と下(ニックネーム)が合わないだろう!」と憤慨していたのですが、なんとそれから41年経過した今でも、ユタ・ジャズとして活動しており、チーム名がすっかり定着しています。

次回からは日本のチーム名、そして我らのチーム名ユニコーンズの謎に迫ってみましょう。どうぞお楽しみに!!

(記録的な75連敗を喫して)
「うちのチームのニックネームはクルセイダース(十字軍)と言います。
名前と実態が全然合わないじゃないか、と言われても困ります。」

バリー・デービス(ダラス大学バスケットボール部コーチ)

※十字軍 中世に西欧カトリック諸国が聖地エルサレムをイスラム諸国から奪還することを目的とした遠征軍。西暦1100年頃から170年以上にわたり、イスラムと血みどろの闘いを繰り返した。