【清水利彦コラム】追悼、ジョン・マデン・コーチ 2022.05.06

清水 利彦(S52年卒)
shimizu.toshihiko2@gmail.com

フットボール・シーズンたけなわの昨年12月28日に、オークランド・レイダースの元ヘッドコーチであったジョン・マデン氏が85歳で亡くなっています。その時点ではNFLやカレッジの試合結果を追うのに必死だったため、マデン氏の死について記事を書く余裕がありませんでした。
極めて個性豊かで、愛すべき名コーチの死を悼み、その人となりをご紹介します。

マデンは1936年ミネソタ州で生まれました。父親は自動車修理工でした。大柄なマデンは高校の時からフットボール部でラインマンとなりました。大学ではカリフォルニア科学技術大学という、フットボール無名校ではありましたが活躍したため、1958年のNFLドラフトで第21巡という低い順位ながら、フィラデルフィア・イーグルスに指名されています。大学では野球部で捕手としてもプレーしていたそうで、アスリートだったのでしょう。

イーグルスに入団してすぐに膝の手術を受ける等ケガが治らず、プロでは1試合も出場することなく退団しています。ただし、負傷中のマデンはイーグルスのミーティングに参加している時に、コーチのバック・ショー(通算90勝55敗)や、QBノーム・バン・ブロックリン(NFLで先発QBとして60勝)がフットボール理論を明快に語るのを聴いて、「試合の勝ち負けは、フットボール理論とコーチングの優劣によって決まる」との考えを持ち、コーチの職を目指すようになりました。

NFL退団後、アラン・ハンコック・カレッジという無名校で4年間コーチをした後、サンディエゴ州立大のアシスタントコーチとなりました。この時のヘッドコーチが名将ドン・コリエル(パス・オフェンスの革新者として有名。のちにNFLチャージャース等で110勝)で、マデンのコーチ哲学に大きな影響を与えています。
マデンの力量に目を付けたのが、AFLオークランド・レイダースの辣腕オーナーとして知られるアル・デービスでした。30歳のマデンをLBコーチとして迎え入れ、2年後には前任者の退任に伴い、マデンをヘッドコーチに抜擢しました。32歳でのヘッドコーチ就任は当時の最年少記録でした。
1969年AFLレイダースのコーチとなったマデンは、初年度から12勝1敗1分と大成功をおさめます。翌1970年にAFLはNFLに吸収合併されますが、10年間のコーチ人生で一度も負け越すことなく、1977年1月のスーパーボウルではバイキングスを破ってレイダース初の王座に着いています。
巨体をゆすりながらサイドラインで吠え続ける彼の姿に、「怒りのマデン」という名前が付けられました。

レイダース・コーチ時代のジョン・マデン

マデンの持つ戦績記録の中で最も価値があるのは、「一番負けなかったコーチ」であることでしょう。10年間コーチをして32試合しか負けていないのです。「プロで100勝以上挙げたコーチの中での最高勝率」を記録しており、今も破られていません。

1位 ジョン・マデン    103勝32敗7分 .759 (レギュラーシーズンのみの記録)
2位 ジョージ・アレン   116勝47敗5分 .712
参考 ビンス・ロンバルディ  96勝34敗6分 .738 ※100勝未達

ただし、これはレギュラーシーズンのみの記録であり、プレイオフやスーパーボウルを含む勝率の場合は、微妙に順位が逆転します。

1位 ビンス・ロンバルディ 105勝35敗6分 .750 (プレイオフ戦績を含む記録)
2位 ジョン・マデン    112勝39敗7分 .741

ポストシーズンに9勝1敗という圧倒的強さをみせたロンバルディが、ごくわずかに上回ります。いずれにせよ、ロンバルディとマデンが「負けなかったコーチ」の双璧ということが言えます。

勝ち続けてレイダースの黄金時代を築いたジョン・マデンですが、1978年のシーズン終了後、42歳の若さで突然引退を発表します。彼はその理由を「燃え尽き症候群」と説明していましたが、もう一つの理由としては「飛行機に乗ることがだんだん怖くなってきた」ことも挙げられるのだろうと推察します。もともと閉所恐怖症であったマデンは、知人が飛行機事故で亡くなったこともあり、次第に飛行機嫌いになりました。43歳の時に機内でパニック症状が起き、その後は二度と飛行機に乗っていません。

マデンの第二の偉業は、「コーチとして成功した後、TV解説者としてもトップの座を占めた」ことでしょう。1979年から2008年まで30年間に渡り、フットボール中継をコメントし続けました。マデンとパット・サマーオールが組む解説コンビは大人気を獲得し、マデンはNFL選手の誰よりも多い収入を放送局から得たと言われています。フットボール・シーズンに限れば476週連続してTV解説をおこなった記録も持っています。しかもこの記録は、飛行機に乗れないマデンが「マデン・クルーザー」と名付けられた特注バスで全米を移動しながら作り上げたものです。

TV解説の名コンビ 左:ジョン・マデン 右:パット・サマーオール

ジョン・マデンの解説者としての魅力は、「活気のある、分かりやすいプレー解説」と「卓越したユーモア」に集約されると考えます。テレストレイターという「画面に蛍光ペンで線を描いて、選手の動きを解説する」機能は、今では当たり前に使われていますが、マデンが普及させたものと言えます。
ユーモアに関しては、筆者が米国滞在中にフットボール中継を観ていたところ、マデンの解説に米国人の友人が腹を抱えて笑い続けているのに、こちらは言葉の意味が解らず悔しい思いをした記憶があります。往年のマデンの愉快な解説をお聞きになりたい方は、You Tubeにて「John Madden Best Calls」等を検索してみてください。字幕はありませんが、彼のコメントの歯切れの良さと発想の面白さを感じていただけます。よほど頭の良い人だったのでしょう。

ジョン・マデンの生涯は、まさにNFL繁栄の歴史と密着しています。2006年にはプロフットボール殿堂入りを果たしています。名(迷)言集にもたくさん登場してくれたマデン・コーチに感謝!!

「世の中には3種類の人間が居る。

① 何かをやりとげる人間
② 他人が何かをするのを、ただ見ている人間
③ 世の中で何が起こっているかさえ、わかっていない人間、の3つだ。」

ジョン・マデン (オークランド・レイダース・コーチ)

 

「フットボール・コーチとは、
見たくもないものを見なければならず、
聞きたくもないことを聞かなければならない職業である。」

ジョン・マデン

 

「よく、『家族と一緒の時間を持ちたいので引退する』というコーチが居るが、
そんな奴はクソ食らえだ。家族は元コーチと一緒に過ごしたいなどと、思ってはいない。
私はコーチを辞めて以来、ずっと一人でバスの中に住んでいる。」

ジョン・マデン

 

(ピザレストランでウェイトレスに、一枚のピザを4つ切りにしますか、
それとも8つ切りにしますか、と尋ねられて)
「4つ切りにしてくれ。とても8つも食べられない。」

ジョン・マデン

 

「遊園地に行ったら、体重計に乗ると体重が表示される代わりに
『おみくじ』が出てくる機械があったので試してみた。 そうしたら、おみくじに
『もう一回計測して下さい。ただし、今度は一人で乗ること』と書いてあった。」

推定体重130kg超のジョン・マデン(フットボール中継コメンテイター)

 

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