【清水利彦コラム】後藤完夫先輩がたった一人で参加したハワイ遠征

清水利彦(S52年卒)
shimizu.toshihiko2@gmail.com

最近数年はコロナ災禍の影響もあり実施されていませんが、ユニコーンズは春のシーズンに関西学院大学とたびたび交流戦を組んでいます。日本一のチームに胸を借りる機会を与えていただくのは本当に有難いことです。

そして交流戦の後には、両校OB,OGによる合同懇親会が開催されるのが慣例になっています。私もこの懇親会に何度も参加させていただきました。参加することの最大の魅力は、関学OB会のど真ん中に居られる方々と親しくなり、お話しが出来ることだと思います。関学OB会の中心ということは、日本学生フットボール界の中心におられる方々ということになります。歴代の関学OB会長はもとより、故米田満先生のような長老のお話しを直接聞く機会を賜り、また、鳥内秀晃前監督とは何度もご挨拶を重ねるうちに年賀状を取り交わす仲とさせていただきました。

こうして知り合えた関学の方々の中に、奥井常夫さん(昭和40年卒、元副将)がおられます。奥井さんは関学OB会の中で、長年にわたり幹事長などの役員を務め、2008年から5年間OB会長をお務めになりました。優しさと温かさが感じられる気さくなお人柄で、私も親しくお話をさせていただきました。

奥井さんとメールのやり取りを重ねるうちに、思わぬお話しに接しました。奥井さんは慶應の後藤完夫氏と一緒にハワイ遠征をおこない、ともに試合で戦った経験があるとおっしゃるのです。三田会内では全く聞いたことの無かった話ですので、この機会にUnicorns Netにて紹介させていただきます。

以下、奥井常夫さんのお話の要約です。

1934年、立教・早稲田・明治の3大学においてアメリカンフットボール部が設立され、日本のアメリカンフットボールの歴史が始まりました。(慶應と法政が1935年の創部でこれに続く)したがって1964年は立教大学のポール・ラッシュ先生が日本で初めてフットボールの試合を紹介してから、ちょうど30年が経過した年でした。30周年を記念して全日本学生オールスターチームを結成し、ハワイ遠征が決まりました。日大と関学が各12名、そして慶應1名、法政1名を加えて計26名の全日本チームでハワイ遠征をおこない、ハワイ大学と、地元の強豪クラブチームとの、2試合をおこなうことになりました。慶應から唯一代表選手(FB)に選ばれたのが後藤完夫氏で、関学・奥井氏はエンドの選手として参加しています。

奥井氏と後藤氏は同期生にあたり、関学・慶應高校定期戦で対戦していましたし、春の大学交流戦でも対戦したので面識がありました。遠征の前夜に東京で壮行会がおこなわれましたが、慶應から一人ぼっちで参加し、後藤選手は寂しい思いをなさっていたものと思われます。後藤氏は宴席で奥井氏の隣に座り、親しく話をするようになりました。この時から奥井氏と後藤氏の交流が始まります。

1964年12月9日、遠征出発前に羽田空港での記念写真を頂戴しました(今回の資料はすべて奥井氏の提供)。

当時は飛行機が飛び立つ前に、このような集合記念撮影ができたことに驚きます。(前列中央、黒いスーツに帽子姿がポール・ラッシュ氏、その右・関学米田監督、その右・奥井常夫氏、その右・後藤完夫氏。左側前列には若き日の日大・篠竹監督が写っています)

試合内容は当時のデイリースポーツに詳しく記載されているのでご一読ください。

第一戦 ハワイ大学 40-0 全日本代表
第二戦 全日本代表 28-10 (クラブチーム)49クラブ
後藤選手は、鋭いカットを切る俊足のバックスとして記憶に残っているとのことです。

この遠征の最中、一行は現地ホノルルで、当時、有名な小佐野賢治氏の国際興業事務所で働く日本人(元JALの客室乗務員)スタッフ達のお世話になりました。彼女らの精力的な働きぶりを見て、現役大学生の後藤さんは「海外で頑張って働いている日本人女性たちもいる。自分も将来、国際的な舞台で活躍できる人間になりたい」という考えを持ち、それがのちにタッチダウン社設立につながっているとのことです。
その後、タッチダウン社では「タッチダウン・アワード」という表彰を設け、1991年の創部50周年祝賀会の席で、後藤完夫氏が招かれて、前年度甲子園ボウル優勝を称えて、その場でタッチダウン・アワードが授与されました。
このような思い出を分け合った後藤完夫氏が亡くなり、奥井常夫氏は深い悲しみに沈んでおられます。

1991年(関学の創部50周年にあたる)、祝賀式典において後藤完夫氏が招かれ、タッチダウンアワードを授与する。 受け取るのは関学・伊角監督(当時)。左後方には、のちに関学監督に就任する鳥内秀晃氏(当時ヘッドコーチ)の姿がある。


<筆者より>

今回、貴重な資料を提出していただいた奥井様に心から御礼を申し上げます。
関学と慶應の間には、今回の話のように、様々な形で友情が長きにわたって育まれています。両校の戦績には大きな差がついてしまっていますが、関学の方々はいつも我々に対し友好的で、協力の手を差し伸べる姿勢を見せて下さっています。このことを我々は感謝するべきですし、関学から更に多くの事を学ぶべきであると思います。
あまり難しいことを申し上げるつもりはありませんが、また関学との交流戦が再開された時は、その日の夜の両校合同懇親会にも是非ご参加ください。きっと何かを感じ取っていただけることと思いますよ。

 

「清水利彦のアメフト名言・迷言集」
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