清水利彦(S52年卒)
shimizu.toshihiko2@gmail.com
皆さんは、「NFL史上最も偉大な試合(The Greatest Game Ever Played)」と呼ばれている試合があることをご存じでしょうか? 今から63年前、1958年のNFL選手権、ボルチモア(現インディアナ)・コルツ23-17ニューヨーク・ジャイアンツに、The Greatest Game Ever Playedの名称が与えられています。スーパーボウル(第1回が1967年1月)が開始される8年前の話です。
「史上最高の試合って言うけど、それは主観的なものだろ?誰かが最高と決め付けるのはおかしいんじゃないのか?」という疑問を感じる方がいるかもしれません。
しかし、2019年にNFL創設100年を記念して、メディアを通じて全国的に「過去100年間の最も偉大な試合」の投票をおこなったところ、やはり1958年NFL選手権が選ばれたとのことですので、公式なお墨付きをもらったものと受け止めています。
そこで今回は、1958年NFL選手権がどのように偉大なのかをご紹介します。
当時NFLは12チームで構成されていました。(現在は32チーム)
<1958年東地区>
ニューヨーク・ジャイアンツ 9勝3敗
クリーブランド・ブラウンズ 9勝3敗
ピッツバーグ・スティーラーズ 7勝4敗1分
ワシントン・レッドスキンズ 4勝7敗1分
シカゴ・カージナルス 2勝9敗1分
フィラデルフィア・イーグルス 2勝9敗1分
<1958年西地区>
ボルチモア・コルツ 9勝3敗
シカゴ・ベアーズ 8勝4敗
ロサンゼルス・ラムズ 8勝4敗
サンフランシスコ・49ers 6勝6敗
デトロイト・ライオンズ 4勝7敗1分
グリーンベイ・パッカーズ 1勝10敗1分
ジャイアンツとブラウンズが同率首位となったため、プレイオフがおこなわれ、10-0でジャイアンツが勝って決勝に進みます。1925年創立のジャイアンツは既に4回NFLで優勝している常勝軍団でした。一方、1953年設立のコルツはいまだ新興チームであり、前年初めての勝ち越しを経験し、もちろん決勝進出は初めてのことでした。NFL最高のQBと呼ばれるようになるジョニー・ユナイタスが入団3年目で頭角を現した年です。
NFL選手権は1958年12月28日、ニューヨークのヤンキースタジアムでおこなわれました。
「とにかくいっぺん映像を見てみたい」という方は、You Tubeにて「The Greatest Game Ever Played – 1958 NFL Championship Highlights – Colts vs Giants」を検索してください。白黒映像16分版です。
試合の進行内容は次のようなものでした。
ジャイアンツがFGで先制。第2Qにコルツが2TDで逆転。(BC14-3NY)第3Qと第4QにジャイアンツがTDを奪って再逆転(NY17-14BC)。ここで試合時間は残り2:20となります。
コルツの自陣14ydからの最後の攻撃を、QBジョニー・ユナイタスが正確なパスプレーで前進させ、最後の7秒を残して敵陣ゴール前まで迫ります。短いFGを成功させてBC17-17NYの同点となり、サドンデスの延長戦に入ります。レシーブを得たNYの攻撃を3&outに抑え、続くコルツの攻撃をユナイタスがTDに結び付け、コルツの初優勝となりました。(最終スコアBC23-17NY)
コルツは翌1959年も選手権を制し、2年連続王者となっています。
You Tube映像をご覧になれば、私と同様に感じられた方が居られると思いますが、正直言って私は、「たしかに大接戦の好勝負ではあったが、本当にこれがThe Greatest Game Ever Playedとして100年間で最高の試合なの?これくらいの終盤の逆転劇ならば、毎年数回起こっていることだし、ユナイタスのプレーぶりも、パトリック・マホームズ(チーフスQB)のような現代のスターQB達の華麗な動きに比べたら、ずいぶん荒削りで、ぎこちないように見えるなあ。」という印象を受けました。
しかし、今回いろいろな資料を読んで、この試合の歴史的背景について調べてみると、「大変意義深い、とてつもなく大きな価値を持つ試合」であることがよくわかりました。
- この試合が、プロフットボールで初めて「全米に向けてテレビ放送された試合」でした。歴史的にはNFLよりもカレッジフットボールが人気でずっと先行しており、本拠地チームが無い都市や田舎では、「プロフットボール?そんなの一度も見たことがないよ」という人がたくさん居たのです。初めてTVで見るプロの試合が、後世に語り継がれるような大接戦となり、「プロの試合って、こんなに面白いのか!」と大勢のフットボールファンが覚醒しました。4500万人がこの試合を観たと言われています。この試合以降、NFLが全米中継されることが増えて、爆発的に人気が高まっていきます。
- 野球場であるヤンキースタジアムが超満員になりました。この日の観衆は64185名と発表されています。(現在は席の間隔をゆったり取るなどで、収容能力は57000名に減っている)これには野球ファン達も驚いた事でしょう。それまでは「5万人入る野球場に、2万人未満の観客しか集まらず、ガラガラの観客席の中でNFLが試合を行う」等のことが当たり前の時代でした。プロフットボールが大リーグ野球の人気を上回ってゆく、その第一歩となったのがこの試合だったのです。当日のTV中継には「ブラックアウト制度」が適用されており、全米放送ではありましたが、試合がおこなわれているニューヨーク市内だけはTV放送が観られないように設定されていました。これは「スタジアムに行けば、チケットが幾らでも余っているのだから、地元の人たちにTV中継をタダで見せる必要なし」との当時の考えに基づいていました。その考えがこの試合以降、選手権試合では全く通用しなくなったのです。
- NFLの延長戦がおこなわれた初めての試合でした。もともと「第4Q終了時点で同点の場合は引き分け」とするのがフットボールの流儀であり、決勝戦でも同点ならば「両チームを優勝とする」のが慣例でした。1946年にNFLのルールが改められ、「NFL選手権においてのみ、同点の場合はサドンデスの延長戦をおこなう」と定められましたが、それ以来同点となるケースが一度も発生せず、この1958年がNFL史上初めての延長戦だったのです。野球の延長戦よりはるかに面白く緊迫した場面を目の当たりにして、大観衆の興奮ぶりが容易に想像できます。
- ジョニー・ユナイタスというスーパーヒーローが誕生した試合となりました。特にQBユナイタスが演じた第4Q最後の2分間には、「ユナイタスの2ミニッツ・ドリル」という名称が与えられ、彼の代名詞になりました。「最後の2分間がこんなに面白いものなのか」ということを、フットボールをあまり見たことがない全米の人たちに知らしめることになった試合でもありました。今では当たり前になった「時計を止めながら進む、2ミニッツ・オフェンスの醍醐味」はこの試合から全米のファンに認知されたと言っても過言ではありません。
- ユナイタスだけではなく、フィールドに千両役者が揃った試合となりました。この試合に関わった選手・コーチ陣・経営陣の内なんと17名(ジャイアンツ10名、コルツ7名)が、のちにNFL殿堂入りを果たしています。こんなことはもう二度と起こらないでしょう。当時ジャイアンツの攻撃コーチはビンス・ロンバルディ、守備コーチはトム・ランドリー(のちのカウボーイズ・ヘッドコーチ)で、彼らも17名に含まれています。ロンバルディは、この試合終了後に、1勝10敗1分と史上最悪の成績に終わったグリーンベイ・パッカーズから声をかけられてヘッドコーチに就任し、黄金時代を築いてゆくことになります。
- 興行収入という観点からも大成功の試合となりました。収益総額が70万ドルで、選手一人当たりの分配金は、勝ったコルツが4700ドル、ジャイアンツは3100ドルでした。当時の1ドルは今の貨幣価値にすると9倍くらいになるとのこと。プロフットボールが儲かるという現代の常識は、この試合からスタートしたと言ってよいでしょう。実際この試合を観戦していた富豪ラマー・ハントは2年後にNFLに対抗する新興リーグAFLを立ち上げ、ダラス・テキサンズ(のちのカンザスシティ・チーフス)のオーナーになっています。
要するに、この選手権試合は現在のNFLの繫栄が始まった、全ての「きっかけ、原点」となったゲームだったわけです。この試合に「The Greatest Game Ever Played」という称号を与えるのが妥当かどうかは、皆さんの評価にお任せしますが、フットボール史における重要な意味を持つ試合であることは知っておいてください。
私が主張したいのは、「これだけの大舞台で、歴史に残る死闘の末、勝ち取ったチャンピオンシップなのだから、これをチームの優勝回数の中に加えてあげて欲しい。」ということです。現在、報道で優勝回数と言えば、通常スーパーボウルの優勝回数だけを指すことに強い反発を感じます。
コルツの優勝回数は2回ではなく、4回(NFL選手権優勝1958,1959年。スーパーボウル優勝1970,2006年度)であり、しかもそのうちの3回はジョニー・ユナイタスがチームを率いて成し遂げたものなのです。
ジョニー・ユナイタスの足跡については、次回以降のコラムで紹介する予定です。
どうぞお楽しみに。
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