【清水利彦コラム】全米カレッジフットボール史上最大の下剋上

2024/10/17
昭和52年(1977年)卒 清水利彦
shimizu.toshihiko2@gmail.com

10月5日土曜に、全米カレッジフットボールにおいて大波乱がありました。
※ランクは10月3日時点のAPランキングに基づく

★バンダービルト大(3勝2敗)40-35アラバマ大(1位、4勝1敗)

於テネシー州ナッシュビル(バンダービルト大の地元)

いやあ、この結果には驚きました。前号コラムで、「地の底から這い上がった男、カレン・デボアーが率いるアラバマ大を、今年、私は応援する」と書いた途端、ランク1位に上がったばかりのアラバマ大が負けてしまいました。トホホ、、、  しかも負けた相手は、私が「SECリーグの東大」と勝手に名付けている、(学力的に)超名門校のバンダービルト大です。バンダービルト大(以下、バンディVandyと表記)をよくご存じでない方は下記のコラムを参照してください。

【清水利彦コラム】頑張れ!バンダービルト大学!! 2022.04.28 | アメリカンフットボール三田会 (keio-unicorns.com)

Vandyがアラバマ大を破ったのは、1984年9月(V30-21A)以来40年ぶりのことなのです。

Vandyがシーズン勝ち越ししたのは過去48年間(1976-2023)で4回しかありません。その48年間でSECリーグ内の対戦成績は61勝295敗(勝率.171)と明らかに「リーグのお荷物」でした。それなのにVandy はAPランク1位のアラバマ大に勝ったのです。

大波乱の試合内容は下記You Tube画像にてご覧ください。(16分)

#1 Alabama v Vanderbilt (INCREDIBLE UPSET!) | Full Game Highlights | 2024 College Football Highlight (youtube.com)

アラバマ大を押し込み先制のTDを挙げるバンダービルト大(黒)

今回のVandy勝利は大波乱ではありますが、なにせ両校は共に一部校であり、同じSECリーグに所属しているのですから、「長年やっているうちに、勝ったり負けたり」することは当然あります。Vandyは1906~1922年頃まで黄金期があり、全米王座にも着いていますので、当時は何回もアラバマ大に勝っています。

それでは、「ありえない下剋上」が起こったことは全米カレッジの歴史に存在したのでしょうか?

この点を疑問に思い、文献を調べてみました。

すると、ひとつ凄い実例が見つかりました。APランク5位の超強豪校ミシガン大が、NCAA二部校に負けたことがあり、その試合が「全米カレッジ史上最大の下剋上」The Biggest Upset in College Football Historyと呼ばれているのです。別にNCAAが公式に名付けたわけではないのですが、この試合がそう呼ばれるのは、この時までAPランクのトップ10に入っている強豪校が、二部校に負けたことはカレッジ史上一度も無かったからです。

2007年9月1日(シーズン開幕戦) 於ミシガン州アン・アーバー ミシガン・スタジアム

★アパラチアン州立大34-32ミシガン大(AP5位)

この年、ミシガン大は非常に戦力が充実しており、全米王座を狙う集団のうちの一つと数えられていました。プレシーズンAPランキングは5位でした。

地元アン・アーバーでおこなわれる開幕戦には、楽な相手に圧勝して大いに盛り上がり、その後のタフなスケジュールに弾みをつけたいと考えたのでしょう。ミシガン大の開幕戦の相手はNCAA二部校のアパラチアン州立大でした。

アパラチアン州立大(Appalachian State University)と言っても聞いたことが無い方がほとんどでしょう。ノースカロライナ州の西端、アパラチア山脈の中腹にブーンという人口わずか1万9千人の町があり、ここにアパラチアン州立大があります。学生数は2万1千人なので典型的な学園町です。

1899年の創立で、旧校名がAppalachian State Teacher’s Collegeという教員養成専門学校でした。ニックネームがMountaineers(山に住む人々)という、山に囲まれた田舎の大学です。キャンパス内に高さ47mの風力発電装置が設置されているとのことで、風がすごく強いのでしょうね。

山に囲まれるアパラチアン州立大キャンパス  出典:Wikipedia

アパラチアン州立大フットボール部は、現在サンベルト・リーグ(Sun Belt Conference)に所属しているれっきとした一部校なのですが、一部リーグ加盟は2014年からのことで、ミシガン大を破った2007年は、まだ二部校でした。

二部校としては輝かしい戦績を残しており、2005年・2006年には二部の全米王座に着いていましたが、それでも超強豪のミシガン大には4TD差くらいで負けるだろうと予想されていました。

※一部・二部の差は戦力の強弱によって決まるのではなく、スポーツ奨学金を出せる人数の制限差です。つまり双方の制度が根本的に違うので、一部と二部の入れ替え戦は存在しません。

試合場は10万人以上収容できるミシガン・スタジアムで、シーズン開幕戦でありチケットは完売。アパラチアン州立大のホームスタジアムは3万人しか収容できず、10万人の大観衆の前でプレーするのは同校にとって部史上初めての経験でした。

ミシガン大の選手達は、まさか自分たちが負けるとは想像もしていなかったのでしょう。先制のTDを挙げた後、エンドゾーン内で3名ほどのミシガン選手がクネクネと腰を振ってダンスをして、おどけて見せるシーンがありました。油断していたのでしょうね。ミシガン大にとって誠に不名誉な記録となりました。

ここからの模様はYou Tube画像でご覧ください。(15分)最後の瞬間までどちらが勝つかわからない大接戦で、Game of the Decade(10年間で最高の試合)とも呼ばれた一戦です。

(339) Appalachian State vs #5 Michigan | 2007 Game Highlights | 2000’s Games of the Decade – YouTube

  1Q  2Q  3Q  4Q  計
ミシガン大  14  3   9   6  32
アパラチアン州立大   7   21     3     3    34

 

試合終了30秒前、逆転のFGに挑むアパラチアン州立大(白)

ミシガン大は、アパラチアン州立大に負けたショックが相当大きかったのでしょう。続くオレゴン大戦にも地元で敗れ(M7-39O)2連敗の最悪シーズンスタートとなりました。しかしここで気合を入れ直して、第3戦のノートルダム大に38-0で快勝。そこから8連勝して結局APランク18位でシーズンを終えています。決して、ミシガン大がその年すごく弱かったわけではないのです。

当時、ミシガン大のヘッドコーチはロイド・カーでした。13年間チームを率いて122勝40敗、勝率.753の好成績を残し、1997年には全米王座に輝いている名将なのですが、2007年シーズン終了後に引退しています。「史上最大の下剋上」の後は、さぞかし批判されたことでしょう。

カレッジ史上最大の下剋上を献上したミシガン大コーチ、ロイド・カー

今回、二つの下剋上を紹介させていただきましたが、このようなUpset(競技・選挙などで絶対的に有利と見られていた者が意外な敗北を喫する事、番狂わせ)が起こることが全米カレッジフットボールの面白さであり、大きな魅力でもあります。

※2017年に二部(1977年までは三部)のハワード大学が、45点差で負けると予想されていた一部校のネバダ大ラスベガス校(UNLV)に43-40で勝利しており、こちらを「史上最大の下剋上」と呼ぶ説もあります。

NFLにおいては各チームの戦力が拮抗しているため、「AチームがBチームに40年ぶりの勝利」などということはありえませんよね。

日本のフットボール界も一部・二部制をとっているため、一部の上位校が二部のチームと公式戦で対戦することはなく、大きな下剋上が起こることは比較的難しいと思います。

日本の下剋上として記憶に残っているのは、2004年関東一部Aブロック開幕戦で、前年度甲子園ボウル出場校である法政大学が、前年二部から入れ替え戦を勝ち上がってきた横浜国立大学に12-15で敗れた一戦でしょう。当時は試合結果を知って本当に驚きました。ただしこの時は法政が気を引き締め直して、残り試合に全て勝利し、再び甲子園ボウルに進んでいます。(17-38で立命館に敗れる)

今季、ユニコーンズは既にTOP8で2敗しており、1位になる事はないでしょう。しかし、今年から全日本大学選手権には3位まで出場できることになり、初の全日本大学選手権出場の可能性が大いに残されています。選手権でも見事勝ち上がって「令和最大の下剋上」と呼ばれる年にしてもらいたいものです。

頑張れ、ユニコーンズ!!!

「清水利彦のアメフト名言・迷言集」
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