2022/12/22
昭和52年(1977年)卒 清水利彦
shimizu.toshihiko2@gmail.com
入替戦所感
泣いた、、、泣いた、、、泣きました。
私はオンライン配信によるパソコン観戦でしたが、第4Q残り2:24で慶應が2本目のTDを挙げたあたりから、試合終了後しばらく後まで、ずっとポロポロ泣いていました。
私が泣いた理由は下記の二つです。
- 恐ろしくてこれまでは書けませんでしたが、「もし今年、慶應がTOP8から陥落するのであれば、慶應というチームは将来に向けて壊滅的打撃を食らうことになる」と考えていました。2019年の降格は不祥事による制裁にともなうものでしたが、今回はフルに7試合戦った結果としての降格となります。来期以降のチーム全体のモチベーション低下、戦力低下は避けられなかったと確信します。勝って良かった、というよりは「部員達が致命的な危機から部を救ってくれた」というのが私の印象です。現役部員諸君に有難うと言いたいですし、前田監督・筒井ヘッドコーチ以下、指導陣の方々にも感謝の言葉しかありません。
- 今季で卒業していく4年生部員達の心情を考えると泣けました。彼ら彼女らの4年間を振り返ると次のようなものでした。
2019年(1年時)秋季リーグで2勝1敗(明治・立教に勝ち、法政に負け)となった時点で、不祥事制裁処分となり、残り試合を棄権しBig8に降格。年末にコロナ禍発生。
2020年(2年時)コロナ禍によりリーグ戦を3試合に縮小。無観客試合。3勝0敗(vs神奈川、駒沢、国士館)するも入替戦がおこなわれず、Big8に留まる。
2021年(3年時)引き続きリーグ戦を3試合に縮小。無観客試合。3勝0敗(vs神奈川、明治学院、青山学院)により入替戦をおこなわず、TOP8へ自動昇格。来期TOP8は暫定的に10チーム体制となる。シーズン終了後に不祥事発生。
2022年(4年時)春の部活動停止。全く練習試合をおこなえない状態で、「TOP8を10チームから8チームに戻すため、7位8位は入替戦出場、9位10位が自動降格」という特別ルールにておこなうリーグ戦に参加。3勝4敗ながら8位扱いとなり入替戦出場し、勝利する。
1年生の時には、まだほとんど試合には出ていないでしょうから、彼らは3年間トップクラスの強豪校とは一度も試合をしたことがなかったわけです。春の早慶対校戦もおこなわれず、今年春は練習試合も出来ないまま、今秋いきなり法政・明治・立教・日大戦と続くリーグ戦に参加しました。そういう苛酷な状況下での、今季(入替戦を含めて)の4勝4敗でした。
途中で心が折れて退部した人も居たと伺っています。入替戦のロスター表には25名の4年生選手の名前があり、他に十数名のスタッフ部員もいます。4年生全員に「最後まで残ってよく頑張ったね。君達の最後の1年はものすごく価値のある、誰にも負けない経験だよ。自信を持ち、胸を張って堂々と卒業し、実社会に羽ばたいていきなさい。」と声をかけてあげたいです。
明治学院戦の最後、9点差がついた時点で、これまで試合に出られなかった4年生が次々にフィールドに現れたのを見ました。フットボールは40秒あれば10点取るのが可能な競技ですから、本来はここで選手を入れ替えるのは危険な行為だと思います。それでも「ほんのわずかでもいいから、4年生を試合に出させてやりたい」という指導陣の思いが痛いほど感じられ、私はまた泣きました。
前号のコラムに書きましたが、「勝った時、嬉しくて有頂天になった時に、大失敗や愚かな行為が発生する」のです。部員全員、ここで気を引き締めて、来期に向かってまた元気に部活動を続けて欲しいと願います。
<全米カレッジ終盤戦速報>
ユニコーンズの試合結果に気を取られている間に、全米カレッジのレギュラーシーズンが終了し、あとはボウルゲームと、全米大学選手権を残すのみとなりました。
現在カレッジのランキングは次の通りとなっています。(カッコ内はレギュラーシーズンの勝敗)
1位 ジョージア大 (13-0)
2位 ミシガン大 (13-0)
3位 テキサス・クリスチャン大 (12-1)
4位 オハイオ州立大 (11-1)
5位 アラバマ大 (10-2)
6位 テネシー大 (10-2)
7位 クレムソン大 (11-2)
8位 ユタ大 (10-3)
9位 カンザス州立大 (10-3)
10位 USC (11-2)
今の制度では、上位4校が「College Football Playoff」と呼ばれる2試合に出場できます。今年は次の2つのボウルゲームが選手権準決勝に指定されています。
ジョージア大vsオハイオ州立大 @ Peach Bowl, Atlanta, Georgia
ミシガン大vsテキサス・クリスチャン大 @Fiesta Bowl, Glendale, Arizona
そして勝者が1月9日の全米大学選手権に進みます (@ SoFi Stadium, Los Angeles)
つまりランク4位までは自力での王座獲得のチャンスがあり、5位以下には全く無いという「天国と地獄」くらいの差があります。今年「地獄の5位」となったのがアラバマ大です。アラバマ大はテネシー大に3点差、ルイジアナ州立大に1点差で負けており、「どちらか勝っていれば4位に滑り込んでいただろう」という状況でした。
USCにもあきらめきれないシーズンになりました。11勝2敗ですが、負けた試合はどちらもユタ大戦なのです。(PAC12リーグ戦と、PAC12優勝決定戦での再戦)優勝決定戦に勝っていれば4位以内に食い込んだ可能性大でした。リーグ戦はUSC42-43ユタとほぼ互角でしたが、優勝決定戦に24-47と大敗したため一挙に10位に転落しました。ただ、直近4年間で22勝21敗(ボウルゲーム出場1回のみ)、昨シーズンは4勝8敗と不本意な戦績が続いていた名門USCに復活の兆しが見えてきたのは、同校にとって明るいニュースでしょう。
USCのもう一つの明るいニュースは、QBカレブ・ウイリアムス(2年生、20歳)がハイズマン賞を受賞したことです。ユタ大に42-43で負けた試合でも、USCのQBは「投げて良し、走って良し」で存在が際立っていました。下記のYou Tube画像をご覧ください。34分と長いのが欠点ですが、QBウイリアムスの活躍ぶりと、手に汗握る結末をお楽しみいただけます。
(476) #7 USC vs #20 Utah Football Game Highlights 10 15 2022 – YouTube
カレブ・ウイリアムスの経歴を読んで驚きました。彼は2年生ですが、今年USCに入学したばかりの転校生なのです。そして昨年はオクラホマ大で1年生QBとして活躍しています。
昨2021年、伝統のテキサスvsオクラホマ対校戦で、オクラホマ大が7-28の劣勢から大逆転して、55-48で勝利をおさめた試合のことは覚えていました。この試合、オクラホマはスペンサー・ラトラー(当時2年)が先発QBでしたが、不調のためカレブ・ウイリアムス(1年)に交代しての逆転劇だったわけです。この年のGame of The Yearとも呼ばれた好勝負ですので、よろしければダイジェスト版をご覧ください。(15分)
ウイリアムスはその後シーズン終了まで先発し、オクラホマは11勝2敗(最終ランク10位)でした。パス力はラトラーとウイリアムスがほぼ互角でしたが、走力がずっと上なのでウイリアムスが先発を勝ち取っています。
そのウイリアムスが今年はUSCでエースQBとなり、ハイズマン賞を獲得したわけです。なんだかプロのトレードのような話で「そんな転校、ありか?」と文句を言いたくなります。
この転校劇はNCAAが昨年度からスタートさせた新制度「Transfer Portal」によって実現しました。これは「転校希望者登録制度」と訳せば良いのでしょうか。「転校して別の大学でプレーすることを望む選手は、NCAAにその旨届け出れば、他校のコーチおよび関係者と面会したり、他校のキャンパスを訪れたり出来るようになる。届け出記録は全大学に公開される。」という制度です。フットボールだけではなく、バスケットボールにも適用されています。
カレブ・ウイリアムスは、Transfer Portal制度発足初年度に登録した24名の内の一人で、早くもその中からハイズマン賞受賞者が出たことになります。
驚く事には、オクラホマの元一軍QBスペンサー・ラトラーも同制度によりサウスカロライナ大に既に転校しており、今季全試合に先発(8勝4敗)しました。つまりオクラホマ大は昨年の最も優秀なQB二名(2年生と1年生)を他校に奪われており、昨年の11勝2敗から今年の6勝6敗に急降下したわけです。オクラホマ大が「なんで今年はこんなにコロコロ負けるのだろう?」と不思議に思っていましたが、理由がわかったような気がします。「超優秀な大学選手は、育てるのではなく、他校から奪ってくる時代に突入した」と言う事も出来そうです。
もともとNCAAのTransfer Portal導入の狙いは、「強豪校が優秀な高校選手を根こそぎ獲得するので、一流選手でも、そのチームにもっと優秀な選手が居ればずっと試合に出られない。このようなケースを救い、優秀人材を活性化させる」ということのようです。これまでは水面下で秘密裏に転校話が進んでいたケースが多々ありましたが、そこに透明性を持たせる意図があったのでしょう。
しかし初年度Transfer Portalで転校した24名のうち、4名がUSCへ、アラバマ大・テキサス大に各3名が転入しており、「なんだ、やっぱり強豪校に優秀人材が集まるだけじゃないか!」と叫びたくなります。建前はともかく、本音は「強豪大学同士のトレード促進手段」だと思うのです。
カレッジフットボールでは「大金を積んで優秀選手を引き抜く」ことは出来ないはずですが、転校希望選手に対し複数の大学が「是非うちに来てくれ」と誘う場合、金がダメなら何か他のメリットを積み上げて勧誘するしかないでしょう。結局、資金力のある強豪校が有利となり、ますます「カレッジフットボールのプロ化」を助長するしかない制度に感じられ、私はこの制度の導入に反対です。
もっとも、もし日本の大学でTransfer Portal制度が導入されるのであれば、東大・京大・早稲田・慶應あたりに優秀アスリートがごっそり転校を希望してきそうです。ただし「文武両道」という理念は完全に崩壊しますが。笑
アイビーリーグは、このTransfer Portal制度に参加していないそうで、そりゃ当然ですね。
「清水利彦のアメフト名言・迷言集」
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