【清水利彦コラム】 仰天!全米カレッジのリーグ再編成 2023.08.31

 清水利彦(S52年卒)

shimizu.toshihiko2@gmail.com

先日、パデュー大学の特集をおこない、その資料集めのため、BIG TENやPac-12など有力リーグのページをめくっていたところ、とんでもないニュースに出くわしました。

そのニュースとは、

  • 2022年6月30日、USCとUCLAが「Pac-12を脱退し、2024年からBIG TENに加盟する」と発表した。
  • 2023年7月27日、コロラド大が「Pac-12を脱退し、2024年からBIG-12に再編入する」と発表した。
  • 2023年8月4日、オレゴン大とワシントン大が「Pac-12を脱退し、2024年からUSCとUCLAに追随し、BIG TENに加盟する」と発表した。
  • 同じく8月4日、アリゾナ大、アリゾナ州立大、ユタ大が「Pac-12を脱退し、コロラド大に追随して、2024年からBIG-12に参加する」と発表した。

Pac-12を脱退するコロラド大(ゴールデン・バッファローズ)の試合前セレモニー。入場する選手たちの前を本物のバッファロー(野牛)が走り抜けるという危険な儀式です。野牛は代々入れ替わりますが、儀式は1935年以来87年間欠かさず続けられています。 (出典:The College Football Book, Sports Illustrated)

上記を総合すると、「2024年にPac-12からいきなり8校が脱退し、4校だけ(スタンフォード大、カリフォルニア大、オレゴン州立大、ワシントン州立大)がPac-12に残る」ことになります。

BIG TENには、USC、UCLA、オレゴン大、ワシントン大が加わりますので、現在の14校から18校に増えます。

最初のUSCとUCLAのBIG TEN加盟のニュースは、一年以上前に発表されているのですから、おそらくUnicorns Netの読者の中にも「そんなことならずっと前から知っている」という方がたくさん居られるのでしょうね。

私は何も知らなかったので今頃になって仰天し、浅学を恥じております。いやあ、驚きました。

何が一番驚いたかというと、「Pac-12のうち8校が一度に脱退し、4校だけ取り残される」ことでしょう。BIG TENに移るUSC、UCLA、オレゴン大、ワシントン大は、Pac-12の中でも強豪・中核の学校です。これらが抜けてしまってPac-12がこれまでの地位・格式を維持できるとは到底思えません。今後Pac-12がどうなるかについては、まだ発表がないようです。

Pac-12(今後はPac-4?)の存続意義が危ういわけで、そうなるとローズボウルの存続意義も危うくなってしまいます。

二番目の驚きは、「地域ごとの有力校がリーグを組んで、地域vs地域の優勝校同士がチャンピオンを争う」という伝統的な全米カレッジの図式が、これで完全に崩壊するだろうということです。

BIG TENは、これで西海岸から東海岸(メリーランド大は海のすぐ近く)までくまなくメンバーを抱える、「とんでもなく超広域のリーグ」となります。

強引とも思えるBIG TENの拡張の理由は明らかで、「SECリーグの拡大戦略への対抗策」なのでしょう。

SECは「テキサス大とオクラホマ大を2024年から加盟させ、リーグ16校に拡大する」ことを既に発表しています。(※2021年11月のコラムで、私は「テキサス大とオクラホマ大は2025年からSECに参加する」と書きましたが、いつの間にか一年前倒しに変更されています)

SECが強豪校をことごとく集めて「独り勝ち」の状態を自ら築き上げ、パワー5カンファレンスを「1強4弱」に分けることを画策したわけです。しかし、弱い方に回ることを承知しないBIG TENが、西海岸の強豪を取り込んで巨大化し、「2強3弱」にする方針を明確に打ち出した、のが事の真相だと思います。

言い換えれば、今後はSEC(南軍)vs BIG TEN(北軍・西軍連合)という「南北戦争」のような図式で全米王者が決まる可能性が高くなるだろう、とも言えます。

それにしても米国には、「昔から一緒になって長年やってきた間柄の、よしみ・いにしえ」という感覚はないのでしょうか?

例えば、スタンフォード大とUSCは、1905年に初対戦し、USCがPacific Coast Conference(Pac-12の前身)に初参加した1922年から現在までは、毎年欠かさず対戦を続けています。(第二次世界大戦とコロナ災禍による中止を除く)両校の距離は360kmあります。これまでちょうど100回対戦し、USCの63勝34敗3分という記録が残っています。歴史に残る激闘・名勝負が幾度も繰り返されてきました。

両校の有名な試合としては、1979年の引分け対決(スタンフォード21-21USC)を挙げます。この年、USCは全米王座の最有力候補と言われていましたが、この引分けのために10勝0敗1分となり、11戦全勝で終えたアラバマ大に全米王座を譲ることになりました。引分けではありますが、「カレッジ史上最大の番狂わせ」の一つに挙げられています。

1979年「22点差でUSC有利」との予想を覆し、敵地で引分けに持ち込んだスタンフォード大(白)。その年のハイズマン賞受賞者、USCのRBチャーリー・ホワイトに激しいタックルでファンブルを強いるスタンフォード大守備陣 (出典:Rites of Autumn, by Richard Whittingham)

「この歴史あるスタンフォード大とUSCの対戦が、USCがBIG TENに移った後、どのようになるか」ということは、誰も気にしていないのでしょうかね?単に「今まで百年間ありがとう。これからは別々の世界でお互いに頑張りましょうね、さよなら」で終わってしまうのでしょうか。

BIG-12も、今回の再編成で大きく変動します。昨年まではテキサス大、オクラホマ大、オクラホマ州立大、ベイラー大、テキサスクリスチャン大、テキサス工科大、カンザス大、カンザス州立大、アイオワ州立大、ウエストバージニア大の10校でリーグを組んでいましたが、

・今年2023年から、ブリガムヤング大、シンシナチ大、ヒューストン大、セントラルフロリダ大の4校が加わり14校となります。

・来年2024年からは、テキサス大、オクラホマ大が抜ける代わりに、コロラド大、ユタ大、アリゾナ大、アリゾナ州立大が加わり16校となります。

あまりにも目まぐるしくメンバーが変わるので、全く覚えられませんね。「烏合の衆」という印象が拭えません。「名称はどうするの?今のままBIG-12で良いの?」とひとこと文句を言いたくなります。とは言え、BIG-12も必死だったのでしょうね。「テキサス大・オクラホマ大をSECに引き抜かれてしまい、弱体化することを防ぐために、他から8校を搔き集めて、質より量で何とかリーグの存在価値を維持した」というところでしょうか。

言いたいことはたくさんありますが、ともかく今年が「旧体制でおこなわれる最後の年」となりますので見守るしかありません。12校でおこなうPac-12最後の王者は誰になるのか、興味深いところです。

2023年のカレッジ・プレシーズンランキングが既に発表されていますが、

SEC                   ジョージア大(1位)アラバマ大(4位)ルイジアナ州立大(5位)

BIG TEN          ミシガン大(2位)オハイオ州立大(3位)

と上位を2強リーグが独占しており、全く代わり映えせず面白くありません。

「Pac-4に取り残される四つの大学」の中では、唯一オレゴン州立大が18位にランク入りしており、今年は応援してやりたいと考えています。

頑張れ!オレゴン州立大!!

2023年全米カレッジフットボールは、既に8月27日ノートルダム42-3ネイビー(アイルランドのダブリン市にて49000人を集めて開催!)を皮切りにシーズンが始まっています。

日本では

9月2日土曜18時、アミノバイタルフィールド 中央vs立教

9月3日日曜17時、駒沢第二球技場 明治vs東大

9月3日日曜18時、アミノバイタルフィールド 慶應vs早稲田 

にて開幕!皆様の応援よろしくお願い申し上げます。

 

「清水利彦のアメフト名言・迷言集」

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