【清水利彦コラム】奇跡のヘイルメリー・パス 2022.10. 20

清水 利彦(S52年卒)
shimizu.toshihiko2@gmail.com

※お約束していたコラム「プロフットボール、最古の写真」は次号以降に繰り下げてご紹介します。

全米カレッジフットボール速報

アラバマ大が負けました!

テネシー大  21   7   6  18  |  52  (6勝0敗) 於テネシー大ネイランドスタジアム
アラバマ大   7  13  15  14  |  49 (6勝1敗)

第4Qだけで3回の逆転劇が生じるというスリリングな試合で、テネシー大が残り2秒からFGを決めて勝利しました。オレンジと白のチェッカー模様でお馴染みのネイランドスタジアムは10万2千人で満杯でした。さぞかし大騒ぎになっていたでしょう。

テネシー大ネイランドスタジアム 出典:Wikipedia

テネシー大は1902年の創部以来120年間で837勝390敗51分 勝率.682 全米王座獲得2回(1951年、1998年)という超強豪校ですが、最近14年間(2008-2021)は絶不調で負け越しのシーズン8回、最終ランクで20位以内に入った事1度もなし、という「創部以来初の暗黒時代」を経験中でした。2017年にはSECリーグで全敗(0勝8敗)最下位という悪夢も味わっています。

今シーズンも前評判はさほど高くなかったのですが、するすると勝ち星を伸ばしてアラバマ大も破り、ついにAPランク3位に入りました。SECリーグはジョージア大(7勝0敗、APランク1位)、ミシシッピ大(7勝0敗、7位)、そしてアラバマ大(6位)を加えた4強での優勝争いになります。今回のテネシー大勝利で「ものすごく今後の展開が面白くなった」と言えましょう。

そのほか注目のカードとしては、ユタ大43-42USCがありました。ユタ大(5勝2敗)は20位→15位にランクを上げ、USC(6勝1敗)は7位→12位に下がっています。

もともと前評判の高かったオハイオ州立大(2位)、ミシガン大(4位)、クレムソン大(5位)は全勝を続けています。開幕からここまでで「予想以上に強いチーム」と、「予想に反して弱いチーム」を関西風にご紹介しますと、
ええやんか組 テキサスクリスチャン大(6勝0敗、8位)、UCLA(6勝0敗、9位)、シラキュース大(6勝0敗、14位) UCLAの開幕から6連勝は17年ぶり。シラキュース大の開幕6連勝は1987年以来35年ぶり。
あかんたれ組 オーバーン大(3勝4敗)、ノートルダム大(3勝3敗)、オクラホマ大(4勝3敗)、ベイラー大(3勝3敗)、ウイスコンシン大(3勝4敗)等々 オクラホマ大が開幕からの7試合で3敗したのは13年ぶりの事です。

立教vs日大戦、奇跡のヘイルメリー・パス。そしてHail Maryの歴史

皆さんは10月15日の立教vs日大戦をご覧になりましたか?たぶんご覧になっていない方がほとんどですよね。私は「関東カレッジフットボールTV by ELEVEN」のシーズン券を買っていたので、パソコンのオンライン放送「見逃し配信」という機能を使って観戦できました。解説者の方が、「自分の人生でこんな結末は見たことが無い」と述べておられた奇跡の結末ですのでご紹介します。

第4Q、立教17-14日大。残り1:14で立教パントにより日大が自陣18ydで攻撃権を得る。
ここから日大が43秒を使い、8プレー(パス成功5回、失敗3回)で82ydのドライブを成功させタッチダウン。キックも決まって日大21-17と逆転。残り時間は0:27。
実に鮮やかな日大の逆転勝ちと多くの人が思った事でしょう。

日大キックオフを立教がリターンしてBall on立教28yd。残り0:20。ここから立教が2本のショートパスでファーストダウンを2回取るも、まだBall on日大45yd、残り0:07。
次のプレーがパス失敗に終わったので、残り0:03。まだ45yd残しているので、ここでさすがに「勝負あった」と思いました。
ラストプレーは立教QBによるHail Maryパス。エンドゾーン内で2人の日大守備選手が手を伸ばして、ボールをはじきましたが、これが横に居た立教レシーバーの目の前に飛び込む形になり、立教が掴んでそのままTD!(残り0:00、最終スコア立教23-21日大)

今回「Hail Mary Pass」について調べてみました。現在用いられている用語の定義としては、「試合終了寸前でまだ相当な距離を残しており、絶望的な状況の中で投げられたパスが成功して逆転勝ちすること」のようですが、歴史的には更に奥深いうんちくがあることがわかりました。

ラテン語の「アベ・マリア」という言葉を英語で言うとHail Maryとなります。したがってMaryは聖母マリア様のこと。Hailという言葉には幾つかの意味があるのですが、

  • 相手に対する呼びかけのこと。つまり「マリア様、(どうか私の言葉をお聞きください)」という意味が含まれる。
  • 相手を温かく迎える挨拶の言葉。「マリア様に幸いあれ」とか「マリア様、よくぞお出でくださいました」というニュアンス。
  • 万歳(という賞賛の言葉)。「マリア様、あなたを讃えます」という意味。おそらく、ナチスドイツにおける「ハイル、ヒットラー!!」も同じ語源なのでしょうね。

これらが転じて、「マリア様、どうか私に力をお与えください」という意味につながっていると推測します。もし、この言葉に詳しい方がおられましたら、是非お教えください。

フットボール用語として使われるようになったのは、1922年10月28日(ちょうど100年前)ノートルダム大とジョージア工科大の試合中まで遡ります。当時はノートルダム大の黄金期であり、ジョージア工科大は南部を代表する強豪校で、直近7年間で6回しか負けていませんでした。

第2Q終了間際、ノートルダム大は敵陣6ydまで迫ります。ここで敬虔なカトリック信者であったノートルダム大のラインマン、ノーブル・カイザーがハドルの中で、「神に祈りを捧げてから、次のプレーをしよう」と提案します。皆が祈りを捧げ、次のプレーが見事TDになりました。
更に第4Q、ND7-3GTという接戦の中、敵陣に迫ったノートルダム大は再度神に祈りを捧げて、またTDを決め13-3で勝利しました。この時から、ノートルダム大における最強のプレーは「Hail Mary」だということになったのです。つまり当初は「試合終了間際のロングパス」を示すのではなく、「ここぞという状況で神に祈りを捧げてからおこなうプレー」がヘイルメリーでした。
長年に渡り、Hail Maryはノートルダム大およびキリスト教系の大学のみに許されていた言葉だったのです。

この慣例を変えさせたのが、ダラス・カウボーイズ全盛期の名QBロジャー・ストーバックでした。1975年12月28日のプレイオフ試合、ミネソタ・バイキングス戦において4点差で負けていたカウボーイズは、最後の3秒でQBストーバックからWRドリュー・ピアソンへの50ydパスを決めて勝利しました。試合後のインタビューでストーバックが、「最後のプレーの前、私は目を閉じてHail Maryとつぶやいた」と語ったため、マスコミはこの試合を「Hail Mary Game」と名付けました。
試合最後のロングパスによる逆転勝ちをHail Maryと呼ぶのは、この頃から一般的になったのです。

QBロジャー・ストーバック カレッジ(海軍兵学校)とプロ(カウボーイズ)で各1回ヘイルメリー・パスを成功させました 出典:Wikipedia

資料によると、アメリカでは1935年から今年までの87年間で22回(NFL8回、カレッジ14回)がHail Mary成功の実例として記載されています。アーロン・ロジャース(パッカーズ)はなんと3回も成功させていますし、ヘイルメリー・パスとしては最長の69yd TDパスという記録も持っています。

そう言えば、立教大学も英国国教会の流れをくむキリスト教の学校です。立教のQB宅和選手(3年)も、きっと投げる前に「マリア様、どうか私に力を与えて下さい」と祈ったのではないでしょうか。

関東リーグ、今後の展望

日大は8日間に2回悔やんでも悔やみきれない敗戦をしたことになります。(慶應に1点差負け、立教にヘイルメリーで2点差負け)

日大が奇跡のようなプレーが起こって負け、桜美林大が東大に21-7で勝ちながらAブロック4位で下位グループに回ったことが、慶應の今後のスケジュールに大きな影響を与えています。下位グループでは、「4校のうち、上2校がBig8との入替戦出場。下2校がBig8への自動降格」ですので、

  • もし立教が負けていたら、①桜美林 ②立教 ③横国の順に試合するはずでしたが、日大が負けて「Bグループ慶應4位、日大5位」となったため、

10月29日土曜 13:45 横国大戦 試合場はすべてアミノバイタルフィールド
11月12日土曜 13:45 日大戦
11月27日日曜 10:45 桜美林戦 という試合順になりました。

  • 桜美林は2勝2敗ながら3校(中大・東大と)の得失点差により下位グループに入ります。一次リーグの勝ち点は、二次(下位)リーグに持ち越されるため、桜美林は、慶應と日大に対し、勝ち点1試合分のアドバンテージを持つことになります。もし慶應・日大・桜美林が三つ巴となる場合は、桜美林が自動的に最上位となるため、その場合は慶應が日大に勝つ必要が出てきます。

ま、いろいろありますが、慶應があと3戦全部勝てば良い事には変わりありません。現役諸君は息が詰まるような状況の中で頑張っていると思います。我々応援する者の気持ちを込めて、慶應のボールをあと1ヤードでも前に進めましょう。皆様の応援よろしくお願い申し上げます。


「清水利彦のアメフト名言・迷言集」
https://footballquotes.fc2.net/
「今週の名言・迷言」を木曜日ごとに更新しています
左下の「三田会コラム」という黒い小さなバーをクリックして
いただくと、これまでのコラムのアーカイブがご覧いただけます