【清水利彦コラム】2024年度全米カレッジ総まとめ 2025.02.20

清水利彦(S52年卒)
shimizu.toshihiko2@gmail.com

全米カレッジも日本と全く同様、今年度から12校による全米大学選手権という新制度に変わりました。その結果を含め、2024年度の全米カレッジフットボールを振り返ってみます。

<全米大学選手権一回戦> ※カッコ内の数字は、シード順位

  • テキサス大(5)38-24クレムソン大(12)
  • ペンシルバニア州立大(6)38-10サザンメソジスト大(11)
  • ノートルダム大(7)27-17インディアナ大(10)
  • オハイオ州立大(8)42-17テネシー大(9)

<準々決勝>

  • オハイオ州立大(8)41-21オレゴン大(1)
  • ノートルダム大(7)23-10ジョージア大(2)
  • ペンシルバニア州立大(6)31-14ボイジー州立大(3)
  • テキサス大(5)39-31アリゾナ州立大(4)

<準決勝>

  • 1月9日 ノートルダム大(7)27-24ペンシルバニア州立大(6)
  • 1月10日 オハイオ州立大(8)28-14テキサス大(5)

<決勝>

  • 1月21日 オハイオ州立大(8)34-23ノートルダム大(7)

<AP最終ランク> ※カッコ内は戦績と所属リーグ

  1. オハイオ州立大(14-2、BIG TEN)
  2. ノートルダム大(14-2、独立校)
  3. オレゴン大(13-1、BIG TEN)
  4. テキサス大(13-3、SEC)
  5. ペンシルバニア州立大(13-3、BIG TEN)

新制度の恩恵を満喫したオハイオ州立大

オハイオ州立大が10年ぶりの全米王座に輝きました。APにより認定された王座としては「6回目のチャンピオン」となります。決勝トーナメントに突入してからの4連勝が見事でした。
「12校でトーナメント戦をして優勝校が全米チャンピオン」という決まりのもとに、オハイオ州立大が勝者となったのですから何ら問題はないのですが、過去の歴史と比べると、今回のチャンピオンは極めて特殊と言えそうです。

決勝戦 TDに沸くオハイオ州立大応援席

オハイオ州立大は今期2敗していますが、二つともBIG TENのリーグ戦における敗北です。(31-32オレゴン大、10-13ミシガン大)これによりBIG TENリーグの中では、オハイオ州立大は第4位の戦績でした。(オレゴン大9勝0敗、ペンシルバニア州立大とインディアナ大8勝1敗、オハイオ州立大7勝2敗)全て確認したわけではありませんが、所属リーグで4位に終わったチームが全米チャンピオンになったのは今回が全米史上初めての事と思います。
昨年までの選手権制度(上位4校による決勝トーナメント)ならば、オハイオ州立大は選手権出場すら出来なかったチームだったのです。さぞかし新制度に感謝していることでしょう。
2敗したチームが全米王座に着いたのは、過去には2007年ルイジアナ州立大の1件しかありません。今後、新制度の下では「3敗した大学が全米チャンピオンになる」ということもあり得るかもしれませんね。

ノートルダム大、悲願の王座復帰ならず

決勝トーナメントに残ったチームの中で、一番「勝ちたかった、惜しかった」と思っているのはノートルダム大でしょうね。前回の優勝は、ルー・ホルツ・コーチが率いていた1988年ですから、決勝戦は36年ぶりの全米王座が掛かっていたわけです。36年間に最終ランク10位以内に10回入っていますが、「どうしても越せない最後の壁」に今年も跳ね返されました。トーナメントに入ってからの勝ち方が素晴らしかっただけに、今年こそはと思っていたファンがたくさん居たでしょう。

準決勝のvsペンシルバニア州立大戦をYou Tube画像でご確認ください。(24分)
CFP Semifinal: Notre Dame Fighting Irish vs. Penn State Nittany Lions | Full Game Highlights

決勝戦の観客席で見かけたルー・ホルツ

決勝戦(vsオハイオ州立大)のノートルダム観客席に、なんと元コーチのルー・ホルツが居るのを見つけました。かなりお年を召した様子ですが、スタジアムにやって来るくらいお元気ということでしょう。ノートルダム大の王座復帰の瞬間を見届けたかったのでしょうが、負けてしまい残念でした。
「88」という帽子を被っているので「もしや」と思って調べたところ、やはり1937年1月生まれの88歳でした。会う人が皆、年齢を尋ねるので「ここに書いてある」と言いたいのですね。卓越したユーモアのセンスは失われていないようで嬉しかったです。

ルー・ホルツ・コーチの経歴と、抱腹絶倒のユーモアぶりについては、下記サイトでご確認ください。
ルー・ホルツ名言・迷言集 – アメフト名言・迷言集

アーミーとネイビーの大躍進

今年度は、アーミーが12勝2敗。昨年まで独立校でしたが、American Athletic Conference(AAC)に加盟して、いきなり初優勝。インディペンデンス・ボウルでルイジアナ工科大に勝利。年間12勝したのは131年間の部史上初めてのこと。AP最終ランク21位でしたが、最終25位以内に入ったのは過去66年間で3回目のこと。
ネイビーも10勝3敗。AACリーグ3位。アーミーとの伝統の一戦に予想を覆して勝利。Armed Forces Bowlでは、なんとオクラホマ大を21-20で下しました。
エアフォース(空軍士官学校)は今期5勝7敗と不調でしたが、昨年までの3年間で29勝10敗と勝ちまくっています。
軍人養成学校が最近3つともかなり強いのです。

ネイビーのQBブレイク・ホーバス(3年) 詰襟の制服に丸刈り頭。厳しい規律の中で部活動をしていることが写真を見るだけでわかります。オクラホマ大戦ではMVPに輝きました。(出典:sports-reference.com)

ネイビーがオクラホマ大に勝ったのには本当に驚きました。You Tube画像をご覧ください。(16分)
Armed Forces Bowl: Oklahoma Sooners vs. Navy Midshipmen | Full Game Highlights | ESPN CFB

この試合、オクラホマ大には「負けると過去21年間で1回しかなかった負け越し(6勝7敗)になる」という不名誉な記録がかかっており、決して手を抜いたとは思えません。
ちなみに両校は59年前、1965年に対戦があり、この時もオクラホマ大が絶不調(3勝7敗)だったためネイビーが勝利しています。今回で対戦成績はネイビーの2勝0敗となりました。

悲喜こもごもの、リーグ移籍組

今季はパワー5カンファレンスと呼ばれる強豪リーグ間で大規模の移動があり、リーグ編成がガラリと変更になった年だったのですが、個々のチームの戦績結果は天国と地獄ほどの差がありました。

<天国組>

  • オレゴン大(PAC12→BIG TENに移籍)13勝1敗でリーグ初優勝。全米3位。
  • テキサス大(BIG12→SECに移籍)13勝3敗。SECリーグ2位。全米4位。
  • アリゾナ州立大(PAC12→BIG12に移籍)11勝3敗でリーグ初優勝。全米7位。

<地獄組>

  • オクラホマ大(BIG12→SECに移籍)6勝7敗
  • USC(PAC12→BIG TENに移籍)7勝6敗
  • ワシントン大(PAC12→BIG TENに移籍)6勝7敗 ※昨年は全米2位

いずれにせよ、BIG TENとSECの2つのリーグで、今年度TOP10のうち7校を占めており、カレッジフットボールが今後両リーグを中心に回っていくことは間違いありません。

転校生の時代がやってきた!??

今季のランク上位3校を観ていて気が付いたのですが、3校ともQBは「今季、他校から転入してきた転校生選手であり、かつ3名とも最終学年の一年間のみプレーできる」選手なのです。これには驚きました。

オハイオ州立大(全米王座) QBウィル・ハワード

  • 2020 1年目 カンザス州立大にて9試合出場
  • 2021 2年目 カンザス州立大にて6試合出場
  • 2022 3年目 カンザス州立大にて7試合出場
  • 2023 4年目 カンザス州立大にて12試合出場、オハイオ州立大に転校
  • 2024 5年目 オハイオ州立大にて16試合出場

ノートルダム大(全米2位) QBライリー・レナード

  • 2021 1年目 デューク大にて7試合出場
  • 2022 2年目 デューク大にて13試合出場
  • 2023 3年目 デューク大にて7試合出場、ノートルダム大に転校
  • 2024 4年目 ノートルダム大にて16試合出場

オレゴン大(全米3位) QBディロン・ガブリエル

  • 2019 1年目 セントラルフロリダ大にて13試合出場
  • 2020 2年目 セントラルフロリダ大にて10試合出場
  • 2021 3年目 セントラルフロリダ大にて3試合出場後負傷し、オクラホマ大に転校
  • 2022 4年目 オクラホマ大にて12試合出場
  • 2023 5年目 オクラホマ大にて12試合出場、オレゴン大に転校
  • 2024 6年目 オレゴン大にて14試合出場、ハイズマン賞投票で3位

オレゴン大QBガブリエルは6年間カレッジでプレーしましたが、米国の大学でも出場資格は4年間のはずで、「どうなっているんだ?!!」と叫びたくなります。これは「コロナ災禍で制約を受けた時期のみ、特例で出場資格の延長を認める」という制度を利用し、なおかつ、レッドシャツ(負傷などにより出場登録を取り消し、資格を一年延長させる)制度も使って6年間プレーしたのだと想像します。詳しいことをご存じの方はお教えください。

過去のコラムで、Transfer Portal(転校希望者登録制度)という新制度が2021年に導入されたことはお伝えしました。
【清水利彦コラム】入替戦所感、そして 全米カレッジ終盤戦速報2022.12.24 | アメリカンフットボール三田会

この制度の適用が極めて顕著になってきたのだと感じていますが、結局、有力校同士の選手の奪い合いになっている気がしますね。来年度も既に50名を超える有力選手が転校を表明しています。「優秀選手は育てるのではなく、他校から奪ってくる時代」に突入してしまいました。2回も転校する選手がいるなどは、まるでプロ野球の「助っ人」です。
「カレッジフットボールのプロ化」がどんどん進むようで、残念な気がします。

ちなみに、アーミーやネイビーに、転校して入って来る有力選手はいません。屈強な軍人を養成するためのカリキュラムに「途中から転入する」等許されないのは当然ですね。エアフォースを加えた軍人養成学校に「3校とも頑張れ!!」と叫びたいです。


「清水利彦のアメフト名言・迷言集」
https://footballquotes.fc2.net/
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